「葉を 『斑入り』 にするメカニズムと生理作用の解明に向けて」
植物の斑入りは多くの植物で観察される形質で、その美しさから園芸品種としての価値が高く、古くから珍重されています。一方で、斑入りは100年以上前から遺伝形質として報告され、遺伝学の対象にもなっています。私たちはこれまで、モデル植物シロイヌナズナを用いることで、葉緑体のタンパク質分解酵素 FtsH の量が不十分な時に、斑入りが生じることを明らかにしています。斑入りでは、白色部分が未発達な葉緑体をもつ細胞から構成されており、葉緑体の発達異常で引き起こされると思われます。
本号の表紙を飾った Kato et al. (pp. 391-404) では、シロイヌナズナで斑入りの原因となったFtsH量の減少が、他の植物種においても同様に重要であるかを FtsH 発現抑制タバコを作成することで解析しています。この結果、FtsH 量の減少によって、葉に斑を起こすことができることがわかりました。一方、FtsH 発現抑制タバコでは、葉の発達初期に斑が明確となるシロイヌナズナとは異なり、葉の発達後期に斑が浮かび上がるように出現しました。電子顕微鏡による観察では、FtsH 発現抑制タバコで発達途中の葉緑体内にあるチラコイド膜が、斑の進行とともに崩壊することが認められます。葉の発達初期に葉緑体の発達が止まるシロイヌナズナと今回観察された FtsH 発現抑制タバコにおけるチラコイド膜の崩壊は、同じ FtsH 量減少が引き起こす斑入りという現象でも、そのメカニズムが植物間で異なることを示唆しています。斑入りという現象の奥深さを表す結果かもしれません。FtsH がどのように葉緑体分化に寄与するか、今後さらに解析する予定です。表紙は、一日毎に撮影した斑入り葉の写真を円状に並べたものと、斑の白色組織で見られるチラコイド膜構造の電子顕微鏡像を示しています。
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