植物の生殖過程において雌ずいと雄ずいが最初に出会う 「受粉」 は、雌しべ先端の乳頭細胞にて誘起される。近年、シロイヌナズナをはじめ、アブラナ科植物において多くの植物生殖に関わる研究が報告されているが、それらを制御する分子メカニズムについてはほとんどが解明されていない。今月号では、3種のアブラナ科植物 Arabidopsis thaliana, A. halleri, Brassica rapa を用いた乳頭細胞に限定した発現遺伝子群の情報基盤構築と特徴づけを行った論文を掲載する。大坂ら (pp.1894-1906) は、上記3種の植物種それぞれからレーザーマイクロダイゼクションによって受粉領域である乳頭細胞を特異的に単離し、次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析により乳頭細胞で機能する遺伝子群を網羅的に同定した。得られた乳頭細胞発現遺伝子群をバイオインフォマティックス解析し、60%を超える遺伝子が3種間で共通することを明らかにした。また、受粉関連や乳頭細胞の発達・代謝関連、転写因子、シグナル伝達関連等の遺伝子を同定し、それらが受粉システムや乳頭細胞の分化・発達に機能していることを予測した。これらデータは、植物生殖の分子機構を理解するうえで有用な情報基盤になる。
表紙の写真は、実験に用いた3種のアブラナ科植物 A. thaliana (写真右上、中央)、A. halleri (写真左下)、B. rapa (写真左上、中上、左中、右中、中下、右下) の花で、形・大きさ・色・受粉システム等が各種間で大きく異なる。
三重大学・諏訪部圭太、東北大学・増子 (鈴木) 潤美、渡辺正夫
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