アントシアニン生合成系の改変により、それまでなかった青みを帯びたバラやカーネーションが作出されたが、キクでの成功例はなかった。今月号では、それぞれ異なる方法により、初めて青紫色のキクを作出することに成功した二報の論文を掲載する。野田ら (pp.1684-1695) は、キクのF3H プロモーターを用いてカンパニュラのフラボノイド3',5'-水酸化酵素遺伝子 (F3'5'H ) を発現させることにより、F3'5'H の発現を最適化する方法を報告している。 一方、Bruglieraら (pp.1696-1710) は、バラの花弁特異的カルコン合成酵素遺伝子のプロモーターによりパンジーのF3'5'H を発現させるとともに、内在のF3'H を抑制することで、キクでのデルフィニジンの合成に成功したことを報告している。両研究とも、デルフィニジンの生産により舌状花弁が従来の品種にはなかった青紫色へ改変された。キクにおいてアントシアニン生合成系を改変するためには、植物種ごと、また品種ごとに異なる最適な手法の選択が必要であることを示している。
表紙のキクは、遺伝子組換えにより舌状花弁に含まれるアントシアニンの95%がデルフィニジン型アントシアニンになった形質転換系統 (1408-9) である。この腋芽を除去して一輪咲きに仕立てられたキクは、農研機構花き研究所の道園美弦博士により栽培された。
農研機構花き研究所 野田尚信
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