堅い細胞壁におおわれ動けない植物細胞にとって、分裂面方向の制御は植物の形態形成の要となっている。陸上植物において、分裂面の位置決定には細胞骨格が関与していることが知られている。表層微小管は分裂期の直前になると将来の分裂面となる細胞中央部に集積し、分裂準備帯 (preprophase band) を形成する。一方、分裂中期の表層アクチン繊維は、細胞中央部を挟むような一対の密な帯状アクチン繊維パターンを形成し、その構造は、actin-depleted zoneあるいはactin microfilament twin peaksと呼ばれている (疑似カラーにより緑で図示)。しかし、表層アクチン繊維パターンの分裂面決定における役割は明らかではなかった。湖城らは、アクチン繊維脱重合の阻害剤である2,3,5-triiodobenzonic acid (TIBA) あるいはjasplakinolideを処理した細胞では、分裂準備帯の構造に大きな変化は検出されないことを確認した。加えて、これらの阻害剤を処理したBY-2細胞では、分裂中期における約3割の細胞で表層アクチン繊維パターンが変化することを明らかにした。TIBAを処理した場合、表層アクチン繊維は細胞中央部に1つの輝度ピークを形成した (疑似カラーによりシアンで図示) 。また、jasplakinolideを処理した場合は3つの帯状アクチン繊維パターンが形成された (疑似カラーによりマゼンタで図示) 。これらの阻害剤を用いて、表層アクチン繊維パターンの変化と紡錘体の傾斜が高度に相関することを新たに見出した。また、TIBAおよびjasplakinolideを処理した場合、傾斜した細胞板が高頻度に観察された。これらの結果は、分裂中期の表層アクチン繊維パターンが紡錘体および分裂面の方向を制御することを示している。
表紙の蛍光顕微鏡画像はBY-2細胞における分裂中期の表層アクチン繊維パターンを示しており、TIBA (上段、シアンで図示)、jasplakinolide (下段、マゼンタで図示) およびコントロールとしてDMSO (中段、緑で図示) がそれぞれ処理されている。
東京大学新領域創成科学研究科 湖城恵
PCPギャラリー