ゼニゴケ・ルネッサンス
200年以上前から発生学や形態学の研究材料として扱われていた苔類ゼニゴケが、植物進化や植物細胞の研究のモデル生物として再び大いに注目されている。今回の特集号では、ゼニゴケがもつ長い研究の歴史(Bowman)や最先端の分子遺伝学的実験基盤(Ishizaki et al.)を概観するとともに、現代的な組織観察法による発生過程の古典的記載の検証と発生学用語の整理(Shimamura)、そして研究コミュニティとしての遺伝子命名法の提言(Bowman et al.)を行った。また、ゼニゴケを材料として用いた人為的遺伝子発現制御系(Nishihama et al.; Flores-Sandoval et al.)、凍結保存法(Tanaka et al.)、葉緑体ゲノムでのレポーターアッセイ(Boehm et al.)といった研究基盤技術開発に加えて、膜交通(Kanazawa et al.)、雄性配偶子形成(Higo et al.)、ゲノム規模でのマイクロRNA同定(Tsuzuki et al.; Lin et al.)といった先端的な研究を取り上げた。これらの論文から研究材料としての高い可能性や有用性があることが読み取れるであろう。現在、ゼニゴケはまさにルネサンスとも呼べる状況にある。
表紙は、実験室で栽培された野生型ゼニゴケの宝ヶ池系統(手前が雄株Takaragaike-1、奥側が雌株Takaragaike-2)。精子をつくる雄器床および卵をつくる雌器床をもつ雌雄の生殖枝が見られる。パネルは、無性生殖器官である杯状体とその中に形成された無性芽である。左は1835年に出版されたMirbelのイラスト、中央は写真画像、右はMpEF1αプロモーター制御下でCitrine蛍光タンパク質を発現させたものの蛍光顕微鏡画像である。
写真提供:西浜竜一 (京都大学)、資料提供:荒木崇 (京都大学)
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