アルテミシニンを作らないアルテミシア(ヨモギ)属植物から見出された新しいセスキテルペン合成酵素
ファルネシル二リン酸(FPP)から生合成されるセスキテルペノイドは、さまざまな生物活性を持っている。中でも昨年ノーベル賞の対象となった抗マラリア活性を有するアルテミシニンは、最も着目されている医薬品の一つである。アルテミシニンは、ヨモギ属のただ一つの種アルテミシア・アヌア(和名:クソニンジン)からのみ単離されている。アルテミシニンがなぜアルテミシア・アヌアでしか見出されないのかはこれまで謎であった。Muangphromら(pp. 1678-1688)は、FPPを基質としてアルテミシニン生合成中間体であるアモルファジエンをつくる酵素遺伝子ADSに着目し、アルテミシニン非産生ヨモギ属植物からADS遺伝子と高い相同性を有するホモログ遺伝子を複数個見出した。酵母を用いた機能解析の結果、ADSホモログは、いずれもアモルファジエンを産生することなく、ヨモギ属植物からは見出されていない(+)-α-ビザボロールなどの産生にかかわることがわかった。この研究は、アルテミシニン生合成において ADSが鍵酵素であることを示唆するだけでなく、代謝工学的手法によりアルテミシニン非産生植物でアルテミシニンを作らせる可能性を示すことができた。
表紙の写真は、アルテミシニン非産生ヨモギ属植物アルテミシア・アブシンチウムと、FPPを基質としたADSホモログによるセスキテルペノイド生合成を示した。大阪大学大学院工学研究科Jekson Robertlee氏提供。
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