キクにおける多コピー遺伝子へのゲノム編集
ゲノム編集技術の急速な発展により、多くの植物で狙った遺伝子に変異を導入し、さらに狙った形質を改変することが可能になっている。キクは日本国内だけでなく世界的にも生産・流通の多い重要品目だが、高次倍数性かつ栄養繁殖により形質が維持されるため形質改変につながる遺伝子変異の導入は困難であった。また、ゲノム情報が整備されておらず、ゲノム編集技術の開発に工夫が必要であった。加星ら (p216-226)は、配列既知の黄緑色蛍光タンパク質遺伝子を多コピー導入した形質転換ギクを作成し、この遺伝子を標的としたゲノム編集を行った。一度のゲノム編集操作で一部コピーに変異が導入され、さらに、得られた植物の腋芽の育成や再度のカルス形成により、変異を持つコピーが増加した。これらの一連の技術により、高次倍数性かつ栄養繁殖性であり、ゲノム情報の整備されていない植物においてもゲノム編集が可能であることが示された。将来的には、高次倍数性の非モデル植物においても、遺伝子変異導入による形質改変が自在になると期待される。
表紙は、ゲノム編集実験の材料に用いたChiridius poppeiの黄緑色蛍光タンパク質遺伝子(CpYGFP)を発現する形質転換ギクの花の蛍光像(上部)。下の3つのシュートは、左からCpYGFP形質転換ギク、ゲノム編集により部分的にCpYGFP遺伝子に変異を持つ形質転換ギク、野生型のキクの蛍光像である。赤色はクロロフィルによる蛍光で、CpYGFP蛍光が無いあるいは弱い部分で観察される。加星、佐々木ら(農研機構)の提供。
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