植物のトリコーム(毛状突起または毛)は、主に葉や花に見られるが種子にはほとんど観察されない。世界中で1億以上の世帯を養う換金作物のワタで観察される綿繊維は、非常に長くて細い特殊な種子毛状突起である。綿繊維はこれまで徹底的に研究されてきたものの、その進化的起源は不明のままである。Tan らは、2つの主要な種子繊維制御因子であるGhMYB25-likeとGhMYB25によって制御される花弁基部の毛状突起のクラスターを明らかにした(1590-1599ページ)。GhMYB25-likeのサイレンシングは種子と花弁基部の毛状突起形成の両方を抑制したが、GhMYB25のサイレンシングは軽度の繊維表現型を示したものの、花弁基部の毛状突起の成長には著しい影響を与えた。これらの結果は、花弁基部の毛状突起の調節ネットワークは繊維細胞と主要な転写調節因子を共有しているものの繊維細胞の調節ネットワークよりも単純であることを示している。さまざまな植物種の形態学的調査により、種子の毛状突起が生成されるときには花弁基部の毛状突起は常に存在し、種子の毛状突起よりも広範囲に存在していることが明らかとなった。以上をまとめると、これらのデータは花弁基部の毛状突起は、単純な調節経路を種子の表皮で異所的に発現したときに痕跡のような種子毛状突起の生成につながるため、種子の毛状突起の進化の出発点であった可能性を示している。現在織物の材料に用いられる貴重な綿繊維の生産を担う、より複雑なネットワークを形成するためには、他の制御因子の動員が必要であったようである。
表紙は、開花期の綿花で一般的に見られる2種類の花弁毛状突起(短く、しばしば多細胞で構成される花弁の毛状突起(上)と、隣接する2つの花弁の間の基部で成長する長い単細胞の花弁基部毛状突起(下))のSEM画像を示している。これらの花弁毛状突起はワタ種子繊維と主要な調節因子を共有している。画像はCSIRO Agriculture and Food(オーストラリア・キャンベラ)のJiafu Tan氏からの提供。
PCPギャラリー