ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon)は日本の伝統文化にとって特別な重要性を持つ草本植物である。その根は赤色色素であるシコニンを有し、アジアの国々において1,500年以上も、生薬としてまた紫色の天然色素を得る原料として使われてきた。日本においては、古く飛鳥王朝(A.D. 538 – 644)の時代から、ムラサキの根から得られるシコニンで染めた紫色は、最高位の僧侶、皇族、最高位の政務官のみが着衣として身につけることが許された高貴で神聖な色なのである。科学的な側面からは、ムラサキにおけるシコニン生合成やその分泌機構は、抗炎症作用など主にその有益な薬効のため現在も世界中で活発に研究されている。そのような重要性にもかかわらず、ムラサキは現在、絶滅危惧植物としてリストされている。この植物を守り復活させようとする市民団体(NPOなど)の活動が散見されるが、これはセイヨウムラサキ(L. officinale)など外来種との交雑を通じて日本古来のムラサキが失われる潜在リスクを孕んでいる。この号において伊藤ら(567-570ページ)は、日本の伝統文化を支えてきたムラサキの重要性に対する意識を喚起し、効率的に文理融合研究を進めることの必要性を認識すること、それがこのムラサキという危機に瀕した植物を救うことになると説いている。
表紙カバーは、1年生ムラサキ根の横断と縦断切片である。赤色色素のシコニンが表皮細胞層特異的に蓄積しているのがわかる。[画像提供:李 豪氏(京都大学 生存圏研究所)]
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