温室で栽培された植物の気孔は青色光によく応答するが、CO2感受性は低い。グロースキャビネットで栽培するとこの傾向は逆になる。今月号掲載の論文で、Frechilla et al. (1709-1714) は、タバコの温室-グロースキャビネット間移植実験を行い、青色光感受性の変化が、以前に報告したCO2感受性の変化のタイムコースと一致しすることを報告した。この一致は、光とCO2への感受性が、気孔孔辺細胞の青色光受容体として報告された葉緑体のカロチノイドであるゼアキサンチンの情報伝達を共有しているために起こっている可能性がある。
気孔辺細胞葉緑体の電子伝達速度が光強度に依存して上昇すると、チラコイド膜内外のプロトンの濃度勾配が生じる。チラコイド膜内腔の酸性化が進むと、キサントフィルサイクルの働きによりビオラキサンチンからゼアキサンチンが生成する。ゼアキサンチンの蓄積により青色光への感受性が増大する。また、ゼアキサンチンは、カルビンサイクルによる炭酸固定を介してCO2濃度の感知にも関与していると提唱されている。CO2の上昇はカルビンサイクルの活性上昇をまねき、それが、ATPとNADPHの消費を増やす。ATP合成が盛んになるとチラコイド膜内外のプロトン勾配は小さくなり、チラコイド膜内部のpHをアルカリ方向に変化させ、ゼアキサンチンの濃度を減少させる。ゼアキサンチンの濃度が下がると光感受性が下がり、気孔は閉孔する。青色光とCO2への順化反応は、方向性は逆だが、どちらも内腔のpHに依存しておこりうる。
一方、これまでCO2感受性と関連すると考えられてきた湿度を含むその他の環境条件は、電子伝達と炭酸固定の速度の比率を変化させ、どちらかがチラコイド内腔のpH 制御をより強く行うようにしている可能性がある。すなわち、気孔が光とCO2のどちらに応答するのかは、電子伝達と炭酸固定とのどちらが強くちらコイド膜内腔を制御するのかによって決まっている可能性がある。phot1 と phot 2 の産物 (フォトトロピン) も気孔の青色光受容体してはたらいていると主張されているが、これらの双方を欠く二重変異体にも青色光への応答性がある。この結果は、フォトトロピンは、シグナル伝達系そのものの構成要素としてではなく、その制御因子である可能性を示している。
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