被子植物の卵細胞は、精細胞との受精により胚発生進行させる高度に分化した1倍体細胞である。一般的に、細胞中のタンパク質組成は細胞のタイプにより異なり、分化した細胞中の主要タンパク質はその生物学的機能を反映する。卵細胞中の主要タンパク質の同定により卵細胞の性質予測が可能となり、この知見は卵細胞形成・受精・初期胚発生機構の解析に向けた手がかりの一つになると考えられる。
本研究において、岡本らはトウモロコシから卵細胞を単離し (表紙写真)、卵細胞タンパク質を SDS-PAGE または 2D-PAGE で展開後 (表紙挿入写真)、ゲル中の主要タンパク質バンド/スポットを LC-MS/MS により解析した。その結果、卵細胞主要タンパク質として、3種の解糖系酵素(グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、3ホスホグリセレートキナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ)、2種のミトコンドリアタンパク質 (ATP合成酵素bサブユニット、アデニンヌクレオチドトランスポーター) およびアネキシンp35を同定した。これらタンパク質の発現を卵細胞と初期胚、中心細胞および培養細胞と比較したところ、アネキシンp35は卵細胞でのみ強く発現し、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、3ホスホグリセレートキナーゼおよびアデニンヌクレオチドトランスポーターの発現は中心細胞と培養細胞で低かった。これらのことから、卵細胞中にはエネルギー代謝系の酵素が豊富に存在し、また、アネキシンp35はエキソサイトーシスによる受精卵の細胞壁形成に関することが推定された。
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