被子植物の一次細胞壁は、構造や構成成分の違いに基づき、I 型細胞壁と II 型細胞壁の2つのタイプに分類される。シロイヌナズナを含む殆どの双子葉植物は I 型細胞壁を持つ。I 型細胞壁はキシログルカンにより架橋されたセルロースのネットワーク構造と、その間隙を埋めるペクチン性のマトリックスがその基本構造を成す。これに対して、イネを含め、ツユクサ亜綱の単子葉植物は II 型細胞壁を持つ。この細胞壁は多量のフェノールプロパノイド化合物とグルクロノアラビノキシランにより架橋されたセルロース微繊維が基本骨格と成す。シロイヌナズナに続き、イネのゲノム情報の解読がほぼ完了したことにより、I 型と II 型の細胞壁を持つ被子植物間での比較系統解析をゲノムレベルで行うことが可能となった意義は大きい。横山と西谷はこの点に着目し、本号において、細胞壁構造という点で両極に位置するシロイナズナとイネについて、その細胞壁の違いの分子解剖を目指した比較ゲノム解析を試みている。この方法で、著者らはシロイヌナズナの既知の遺伝子に対応するイネのオーソログの推定が可能であることを示している。また、著者らは、この両植物の細胞壁関連遺伝子ファミリーのゲノム情報を整理し、細胞壁遺伝子群の比較ゲノム解析用のリゾースとして読者が利用できる形で、Supplementary data としてウェブ上に提供している。
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