葉緑体は光合成を行うのみでなく、脂肪酸合成やアミノ酸合成等を行う植物特有の細胞内小器官である。葉緑体は10億年以上前にエンドサイトーシスで取り込まれた光合成細菌から進化したと考えられており (細胞内共生説)、葉緑体の分裂は細胞核の指令に従って行われている。
1988年以降黒岩らのグループによって、葉緑体分裂時には分裂面に内外二重のリング (分裂装置) が存在する事が示された。1995年に Osteryoung らによって、葉緑体の分裂には原核生物の細胞分裂に関わる FtsZ タンパク質が関与している事が示唆された。一方1992年以降 Pyke と Leech はシロイヌナズナにおける葉緑体分裂異常変異体 arc (Accumulation and Replication of Chloroplast) を単離・報告した。これらの変異体は細胞内における葉緑体の大きさ・数がいずれも野生型とは異なる変異体であった。
本号で島田ら (pp.960-967) はarc3変異体の原因遺伝子の同定を行い、その細胞内局在を詳細に報告した。ARC3タンパク質は原核生物由来のFtsZ蛋白質と真核生物由来の phosphatidylinositol-4-phosphate 5-kinase との融合蛋白質であった。このARC3タンパク質は葉緑体分裂時の初期に分裂面でリング構造をとり、葉緑体の外側 (細胞質側) に存在する事が示された。ARC3タンパク質は葉緑体の分裂開始に重要な機能を持っていると考えられており、細胞内共生の進化において生じた原核生物由来と真核生物由来のタンパク質の融合タンパク質であると考えられる。
なお、この表紙は著者らの研究室の森一晃が作成した。
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