2011年1月
日本植物生理学会
会長 篠崎一雄

篠崎一雄会長(写真)

 日本植物生理学会 (JSPP) は1959年4月に設立されました。設立の目的は学際的な植物生理学の研究交流を目指し、国際植物生理学連合の一翼を担うためでした。設立以来、本学会は常に時代の新しい流れを取り入れて発展してきました。年会の時のシンポジウムを重要視しており、その時代の最先端のトピックスを取り上げて学際的な交流を目指して発展しました。設立以来の進取の気風を尊ぶ伝統が大きな強みになっています。JSPPの最近の発展は目覚ましく、基礎植物科学を牽引する代表的な学会に大きく成長しました。植物生理学、細胞生物学、分子生物学、分子遺伝学、ゲノム科学、システム生物学などその時期の最新の研究の流れをいち早く取り入れて、若い研究者に大きな影響を与えてきたと思います。

 今後の発展を考えた時、このようなJSPPの良い伝統を引き継ぎ、さらに新たな挑戦を続けることが重要だと考えています。JSPPは若手の会員の割合が多く、常に新しい研究分野に挑戦しています。新分野に挑戦する若手の新しい感覚を積極的に取り入れて学会を魅力あるものにすることが重要だと思います。また、女性会員が多く、将来リーダーとなる女性が活躍できる場を提供することも大切です。最近、日本で研究を進める外国人の参加者も増えて国際化も進みつつあります。会員の皆様と今後の新しい方向性を考えてよりよい学会として発展するように検討し実行に移していきたいと思います。

 さて、2000年からの10年間はシロイヌナズナのゲノム解読に始まり、イネゲノムの解読、さらにゲノム機能学の発展が推進力となりました。Arabidopsis 2010 Project はその象徴的な国際的連携プロジェクトでした。2010年には横浜で第21回国際シロイヌナズナ研究会議 (ICAR2010) が開催されました。JSPPも共催しました。この会議では、「2010 and beyond」 のメッセージに基づき、これまでの Arabidopsis 2010 で得られた多くの優れた成果の発表と同時にシステムバイオロジーや多様性解析、さらに作物への橋渡し研究など次の10年の研究の方向性や今後の発展の方向に関しても併せて議論されました。約1300名の参加者 (外国からは約700名) がありインパクトのある国際会議になりました。国際会議開催による情報発信は今後の国際化に向けてますます重要になると感じています。

 近年のDNAシークエンサーの飛躍的な進歩により、様々な作物、樹木、藻類などゲノムシークエンスが次々に解読されており、応用展開への基礎データとして利用されています。大量の情報を解析するためのバイオインフォマティクスの進歩と利用がますます重要になっています。これまでのモデル植物の基礎植物科学から、作物の育種、遺伝学や樹木、藻類などに関する植物バイオテクノロジーへの橋渡し研究、さらに進化や多様性に関するゲノムレベルでの研究が急速に発展しています。これから発展するこれらの研究分野を意識的に取り上げて行くことが、今後のJSPPの発展のために重要ではないかと考えています。今後、年会のシンポジウム企画に関して学会と年会の準備委員会との協力が必要になると考えています。

 2009年のアメリカ植物科学会 (ASPB) で、各国の植物関連学会の会長が集まって議論し、国際的な連携での植物科学の推進と地球規模問題の解決への取り組みに関して、国際協調で進めることになり、2010年に Global Plant Council が設立されました。GPCへの積極的な参加は、これまでのJSPPの国際化や社会貢献の活動を一層推し進めることになると考えています。GPCには植物学会、植物細胞分子生物学会、作物学会、育種学会も参加しています。特にJSPPは中心的な役割を期待されていますので責任が大きいと考えています。このため、2010年より 「国際委員会」 を設置して年会の国際化、英語のホームページの改訂などの改革を進めています。国際委員会の島本功委員長を中心に国際化に関して取り組むべき課題の検討を進め、アンケートなどで会員の方のご意見をお聞きしながら国際化を進めていきたいと考えていますので、ご協力をお願いいたします。

 本学会の主要な目的は、欧文誌の Plant and Cell Physiology (PCP) を発刊し、国際的なジャーナルとして育てることでもありました。また、学会誌のPCPは日本から出版される学術誌ではトップクラスのインパクトファクターを誇る国際的ジャーナルに発展しました。松岡信編集長を始め編集実行委員会や編集委員会の皆様の努力の賜物です。地球規模の環境・エネルギー問題解決における植物科学の重要性が認識されて、各国で多くのジャーナルが発刊されており、それぞれがジャーナルの評価の基準となっているインパクトファクターを上げる努力を進めており、競争が激しくなってきました。今後、PCPの国際的な評価を維持するために戦略を持って運営することが重要になりました。本学会の学会誌でもあるPCPの国際的な地位を維持するために学会として必要な支援を行いたいと考えています。

 本学会は基礎植物科学分野で国際的レベルでの独創的な研究を推進することが本来の目的です。しかし、基礎的研究の急速な発展とともに、この10年で植物科学の社会との関わりが大きくなりました。特に基礎科学で得られた成果の社会還元が期待されてきています。また、地球規模の温暖化に伴う環境問題、人口増加に伴う食料問題、長寿社会に伴う健康問題など世界共通の課題などの地球規模の問題の解決に植物科学からの貢献が期待されています。2010年5月の学術会議主催のシンポジウムは植物科学、作物科学関連の学会との共催で開催され、環境、エネルギー、バイオマス、食料などグリーンイノベーションに貢献する植物科学に関して議論しました。約500名の研究者、企業関係者などが集まり熱気あふれる会議となりました。このような植物科学者の積極的なアピールのお陰で、最先端基盤整備事業「低炭素社会実現に向けた植物科学研究の推進のための基盤整備」、先端的低炭素化技術開発事業 (ALCA)、JSTクレスト、さきがけの 「水生・海洋藻類等による石油代替等のバイオエネルギー創成及びエネルギー生産効率向上のためのゲノム解析技術・機能改変技術等を用いた成長速度制御や代謝経路構築等の基盤技術の創出」 などグリーンイノベーションや植物科学関連の競争的資金が立ち上がりました。このような応用研究に向けて次世代の若手研究者を積極的に育成することも学会の重要な役割となりました。また、そのための若手研究者のキャリアーパスの多様化にかんする取り組みも重要だと思います。このためには植物科学の関連学会との連携を進めて、共通の課題として取り組んで行くことが重要だと考えています。

 今後の新たなJSPPの発展に向けて改革を進めていきますので、会員の皆様のご協力をお願いいたします。

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