一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

「必要は発明の母、発明は必要の母」

日本植物生理学会
会長 町田 泰則

町田泰則会長(写真)

2012年度から2年間会長を務めることになりました。本学会は、50年以上の歴史があり、その間の先輩諸氏の努力により、我が国でも有数の規模を誇る学会に成長してきました。このような学会を引き受ける事を考えると身が引き締まる思いです。篠崎一雄前会長と青山卓史前幹事長の時代には、我々の学会をめぐって種々の困難な事態が起こりましたが、お二人はこれを見事に乗り越えて来られました。このような学会の伝統を引き継ぐと同時に、組織に活力を与え、さらに発展させる為に、私は、河内孝之新幹事長と新運営委員の皆様と相談しながら、学会を運営して行きたいと考えています。

 本会の会則の第2章、第4条には、「本会は、植物生理学の基礎および応用の両面における研究の進展を図り、これに関連する知識の普及に努め、もって学術、文化の発展に寄与することを目的とする。」 とあります。私は、この目的の実現のために、会員の皆様のご支援のもとに、学会を運営していくつもりです。

 さて、「基礎と応用の研究」 という言葉を耳にすると、私は、いつも表題に挙げたような 「必要は発明の母」 という諺を思い起こします。さらに、これを現代生物科学に当てはめて 「発明 (発見と言ってもよい) は必要の母」 と逆説的に言ったのは、アーサー・コーンバーグ博士 (DNAポリメラーゼの発見によりノーベル医学生理学賞を受賞) ですが、これは、今日のバイオテクノロジーの進歩を見れば、納得できます。現在遺伝子操作で使われているほとんどの酵素は、DNA複製やウイルス感染の仕組みの研究の中で発見されました。古代ギリシャの哲学者は、「物事の本質を知りたいと思う心は人間の本性である」 と書いていますが、そのような本性的な行為としての発明・発見から革新的な技術が生まれた例も多いことは、皆様ご存じの通りです。一方で、必要から生まれた枢要な学術的成果も多々あります。例えば、「生命は生命から生まれる (空気中の塵からではない)」 ことを証明し、「自然発生説」 を否定した、ルイ・パスツールは、ワイン製造に携わる農民のよき相談相手であり、その中から腐敗の原因となる微生物に関するヒントを得たと言われています。彼は光学異性体も発見しています。これらの例は、自然科学の進歩が、人間の探究心と巾広い社会活動に支えられている事を如実に物語っています。私は、植物科学のバランスのとれた進歩の為には、基礎と応用を統合した科学の推進が求められていると感じています。

さて、学会活動に関する基本線については、次の3つが大事であると考えます。(1) 年会などにおける会員の研究発表と交流を活性化すること、(2) 専門誌 Plant and Cell Physiology 誌を発行し、会員を中心として、この分野の学術的成果を発信すること、(3) これらを通して、本学会の活力・組織力を一層向上させたいと思っています。これらを軸として活動しつつも、さらに、研究成果を広く市民に広めること、国の内外の社会の進歩に貢献すること、将来を担う若者に植物生理学の成果を広め、裾野を広げることに取り組んで行きたいと考えています。そのために、会員の皆様には、すでに多岐にわたったお願いをしてまいりましたが、これからもこのような努力を継続・発展させて行くことが必要でしょう。このようにして、本学会の周囲の方々からのフィードッバック的な支援を頂くことにより、我々もより一層発展できると信じています。

 また、本学会は、中村研三元会長の時代に、国際的なパートナーシップの設立に関わってきました。具体的には、環太平洋を中心とした国の植物関連学会の代表によりGlobal Plant Council (GPC) が設立され、環境、エネルギー、食料増産など、地球規模での問題の解決に向けて協調していくことを取り決めました。篠崎前会長により本学会内に国際委員会が設置され、恒常的にGPCに参加するようになり、この運動が具体化されてきました。学術的な国際交流に加えて、社会的な問題も国際連携のもとに解決の方途を探り、方針を提案して行いくことは、今後ますます重要になるでしょう。

篠崎前会長が指摘しているように、我々の社会が抱える諸問題を解決するためには、植物科学の発展なしにはあり得ません。多くの場合これらは政治的な問題ですが、我々は科学的立場から合理的に対処したいと思います。問題を解決する現実的な提案をする必要があるでしょう。

 私の本学会運営に関する姿勢は、基本的にはこれまでの方針を踏襲しますが、昨年起こった東日本大震災の影響については深く考える必要があるでしょう。東北地区の会員は計り知れない精神的、物理的被害を受けました。被災地の会員の研究活動を支え、研究遂行力を回復するためには、我々の学会としても継続的な支援を行っていく必要があると考えています。そのために、会員の皆様にも、ご協力をお願いしたいと願っております。是非よろしくお願いいたします。

学会活動