転写後遺伝子発現制御は、植物学研究の中でも近年急速に成長している分野の一つである。本合同シンポジウムでは、日本と台湾間の研究協働促進を目指し、環境応答における転写後遺伝子制御研究に関する最新の話題を日本と台湾双方から提供する。これら研究成果を元に、植物の環境応答研究の新しい視座と方向性を議論したい。
Crosstalk between light signaling and pre-mRNA splicing
snRNP biogenesis-mediated environmental adaptation in plants
Widespread exon junction complex footprints in the RNA degradome mark mRNA degradation before steady-state translation
Boron-dependent translation of a borate transporter BOR1 and its significance for adaptation to boron nutrient availability
Lost in translation? The determinants of the translational control and their impacts on plant gene expression
Reproductive system via microRNA producing secondary siRNAs in a photoperiodic environment
近年、生物学の潮流は一細胞から多細胞系へと向かっており、植物学においても細胞間・組織間・器官間相互作用の研究が盛んに行われている。特に病虫害応答の研究分野においては、局所と全身、さらには個体間での防御反応誘導機構の研究が行われてきた。本シンポジウムでは、分子遺伝学的技術を背景に当該分野を牽引してきた研究者とイメージングなどの可視化技術を専門とする研究者が一堂に会して議論することで、両者の長所を融合し、植物が本来もつシームレスな局所、全身、さらには、その次の階層である個体間での傷害・免疫応答システムの時空間的かつ統一的理解を目指す機会とする。
Spatiotemporal dynamics of the salicylate and jasmonate signaling pathways regulating plant immune and wound responses.
Spatial coordination of plant immunity at the organism level
Signal exchanges between parasitic plants and host plants to establish plant-plant connection
Rain induces a novel layer of plant immunity through trichome as a mechano-sensor
How plants perceive airborne signals in the shape of volatile organic compounds
Calcium-based intra- and inter-plant communication system
植物の維管束系においては、植物の形態形成や環境応答に関わる様々な情報分子が、篩管や道管を用いて長距離輸送されていることが明らかにされてきた。しかしながら、これら長距離輸送系を用いて伝達された分子による情報が、どのように統合されるかについては未解明な点が多い。本シンポジウムではこれらの未解決問題の中で、「篩管道管と周辺細胞とのインターフェイス」ならびに「篩管道管のインタープレイ」に焦点を当て最新の成果を議論することで、全身性情報統合機構の理解に向けた方向性を明らかにしたい。
Importance of cytokinin systemic transport for fine-tuning of plant growth
Sieve Tube Structure Function Relations
Shoot-root communication underlying the control of nitrogen homeostasis in plants
Toward understanding the molecular mechanism of florigen transport in Arabidopsis shoot apex
Study on mobile mRNAs in plants
Visualizing and evaluating long-distance phloem transport of photoassimilates by the PETIS and 11CO2 tracer
Differential regulation of RNA unloading from phloem
近年single cell RNA-seqにより細胞ごとの遺伝子発現を定量することが可能になり、植物の発生や環境応答の転写制御機構を一細胞レベルで理解しようとする研究が加速している。一細胞解析から明らかになる転写制御に加え、ヒストン修飾やDNAメチル化を介したエピジェネティック制御による細胞の増殖や分化の分子機構も次第に明らかになってきた。そこで本シンポジウムでは植物細胞の増殖や分化、リプログラミングにおける転写制御やエピジェネティック制御を解明しつつある講演者を招聘し、現在の研究動向、今後の課題について議論する。本シンポジウムは新学術領域「環境記憶統合」との共催シンポジウムとして開催する。
Factors linking cell proliferation, genome replication and chromatin dynamics
Single-cell dissection of regenerating plant roots
Healing the damage: stress-induced cellular reprogramming in plants
Epigenetic priming for plant regeneration
Building beauty: the role of cell division and differentiation during petal patterning
植物は様々な環境条件に適応するために、高度に特殊化した器官・細胞を進化の過程で獲得し、多様なライフスタイルを確立してきた。代表的なものとして、植物のライフラインである維管束、水分や可溶性物質の取り込み制御に働く根毛やカスパリー線が挙げられる。近年、シロイヌナズナを含むモデル植物の研究により、特殊化した器官・細胞の分化メカニズムの理解は飛躍的に進み、その生理的役割や外部環境とのつながりについて明らかにされてきた。さらには、新たなモデル植物の確立、イメージング技術の向上、RNAseq等の技術革新により、多様な植物において特殊化した器官・細胞の研究が進み、それらの環境適応における意義を議論できるようになってきた。本シンポジウムでは、8人の演者がゲノム・細胞内小器官・細胞骨格・進化といった多様な視点から特殊化した器官・細胞の研究成果を発表する。特殊化した細胞の機能と分化の多様性、そしてその進化的意義とプロセスを包括的に探ることによって、更なる研究領域の発展の可能性を探る。
Dissection of the molecular mechanism of root hair morphogenesis in Arabidopsis.
Microtubule dynamics regulated by a plant-specific protein family, CORD
Transcriptional Atlas of Idioblast Myrosin Cells; A Factory for the Mustard Oil Bomb
Endodermal cell differentiation and apoplastic barrier formation
Regulatory mechanism of stem cell maintenance in Arabidopsis roots
Root cap morphogenesis and function in the immune system
Calcium ion mediated memory system in the carnivorous plant Dionaea muscipula
Invention and diversity of stomata in land plants
植物の種子は、胚と胚乳から形成されており、それぞれの発生は、異なった機構によって制御されている。植物の配偶子形成、および、胚と胚乳の発生機構を明らかにし、それらを人為的に制御することが可能となれば、アポミクシス(未受精でクローン種子を作る)誘導技術の開発にも大きく寄与すると考えられる。本シンポジウムでは、本研究分野について、最先端で研究を進めている国内外の研究者を招へいし、最新の研究成果を紹介するとともに、胚と胚乳発生の人為的制御技術の確立によるアポミクシス誘導技術開発の今後の展開について議論する。(JST先端的低炭素化技術開発(ALCA)「人為的アポミクシス誘導技術の開発による植物育種革命」、および、文科省科研費新学術領域研究「植物新種誕生の原理」との共催として開催します)。
Shedding light on sporogenesis in Arabidopsis
Initiation of zygotic development and fertilization-independent egg division in rice
Molecular mechanisms of endosperm initiation in flowering plants
Identification of the lifeline gateway within a plant ovule, required for transferring important substances to seeds.
Regulation mechanisms of nutrient supply necessary for embryogenesis
Role of imprinted genes in relation to sexual and asexual endosperm development in rice
植物特有のオルガネラである葉緑体は、独自のDNAを持ち、光合成や脂質合成など様々な機能を果たしていることが知られている。一方、この葉緑体がどのように発生し、組織ごとに機能分化し、分解されているかについては、研究者が1世紀以上挑み続けている問題だが、今もなお多くの謎が残されている。本シンポジウムでは、これらの謎に新しい切り口で挑戦している若手研究者に、これからの葉緑体研究の新機軸となるような最新の成果について話題提供してもらい、葉緑体というオルガネラが如何にユニークで魅力的な研究対象であるかを伝えたい。
共催:新学術領域「新光合成」
葉緑体核様体分裂のダイナミズム
すべては脂質から始まる?葉緑体の初期発生
葉緑体における光合成の防御反応
葉緑体ペプチドエクスポーターとオルガネラホメオスタシス
孔辺細胞に存在する謎多き葉緑体の成り立ち
葉緑体運動における新たな制御機構
葉緑体ライフサイクルの終着点:オートファジーによる分解機構
葉緑体起源学事始 ~ゲノム情報氾濫後に見えてきた新たな進化学的地平~
イネやコムギ、オオムギなどのイネ科植物は、農学上重要な作物であると同時に、被子植物の発生を広く理解する上で重要な研究材料でもある。したがって、イネ科植物の研究は、農学分野にとどまらず、発生学分野の進展にもつながる。本シンポジウムでは、イネ科植物を研究材料としている若手研究者が集い、メリステム活性の制御から、葉や茎、根、花序などの形態形成制御にまで及ぶ最新の研究成果について講演する。イネ科植物の形態形成に関する理解を深めるためだけではなく、広く植物一般の発生制御機構の理解に向けて、多様な分野の研究者と活発な討議を行いたい。
イネにおけるKNOX転写因子の翻訳後制御
イネの葉間期制御因子の遺伝的相互作用と機能解析
イネ節間伸長における拮抗的制御機構
イネの腋芽形成を開始する遺伝的機構
麦類の穀粒数を制御するホメオボックス遺伝子の進化
多様なイネ科植物に共通する環境依存的な根の発生プロセス
植物ホルモンの一つであるオーキシンは、発生のあらゆる局面で働き、細胞や器官の分化を調節する。また、側根形成でみられるように、オーキシンは新たな幹細胞形成を促進する機能ももつ。最近になって、逆に低いオーキシン応答性が幹細胞の新生や維持に重要な役割を果たすことが分かってきた。本シンポジウムでは、オーキシンと幹細胞の関係の二面性に焦点を当てるとともに、その機能発現を支えるクロマチン制御についても取り上げ、議論する。(新学術領域研究「植物の生命力を支える多能性幹細胞の基盤原理」との共催シンポジウムとして開催する。)
側根形成におけるオーキシン作用の二面性
花幹細胞の増殖終結機構におけるオーキシン作用の二面性
不定胚形成を誘導する~オーキシンと転写因子
植物ホルモンの時空間的変化が制御する植物切断組織の再生
ゼニゴケにおける幹細胞性と低オーキシン応答性の関係
ヒメツリガネゴケから見えてきた幹細胞新生におけるオーキシンの役割
クロマチン制御によるゲノム恒常性維持機構
多細胞からなる植物の発生は、個々の細胞の振る舞いや遺伝子発現などのミクロな変化が原動力となり、それらが統合されることで駆動される。近年の技術革新により、個々の細胞動態を1細胞レベルで精密に解析することが可能となったが、このようなミクロな変化がどのように統合されて、マクロなレベルの発生を調節するのかは未解明な点が多い。そこで本シンポジウムでは、遺伝子発現、細胞内構造、細胞形状などの時間的・空間的な動態に着目して、植物の発生現象の解明を目指す研究を紹介する。
(新学術領域研究「植物の周期と変調」との共催シンポジウムとして開催する)
Periodic cellular behaviors during root cap maturation and detachment
Auxin-dependent root gravitropism in A. thaliana and its potential contribution to the local adaptation.
Distribution of two phospholipids specifies a dynamic plasma membrane domain for re-orientation of root hair tip growth
Morphology, dynamics, and function of unique membrane surrounding sperm plasma membrane.
Origination of the circadian clock system in stem cells regulates cell differentiation
Quantitative Live imaging of plant organogenesis
植物が生きる仕組みを解き明かす植物生理学研究は、その知見を基に植物の生命現象を人為制御して有用作物を作出する応用研究をも発展させてきた。先行して確立された植物制御技術として、特定遺伝子の発現量操作や異種遺伝子の導入といった遺伝情報の改変が挙げられるが、近年では、ゲノム編集や遺伝育種など関連技術の高度化と実装が進んでいる。加えて、共生微生物の有効利用や、小分子の活用など、ゲノム情報の改変を経ない制御技術も構築されつつある。本シンポジウムでは、様々な植物制御技術の高度化研究、及びそれらを実用して作物や農業技術の改良を目指す研究を推進する、JSTさきがけ「フィールド植物制御」領域の若手研究者らの成果を共有し、多様化する植物制御技術とその実用化の将来を展望したい。
葉緑体分解機構の理解とその制御を目指して
植物ホルモン活性を切り分けるケミカルツールの創製
植物における相同組換えを介した精密ゲノム編集
変動光環境下でのイネ光合成の改良について
花粉選択の自由制御を目指した分子メカニズムの解明
根圏微生物叢による植物生長促進機構の理解およびその活用に向けて
微生物叢の制御は可能か? 相互作用の科学が切り拓くフロンティア
野外の光環境は変動している。強光下ではアンテナ色素の励起状態を安全に熱散逸するNPQ(非光化学的消光)が誘導され、弱光下ではNPQが解消され励起状態が反応中心に伝達されるようになる。理想的にはこれらのNPQのon/offは速やかであることが望ましい。H+アンチポーターKEA3は、とくに遠赤色光の存在下で速やかなoffに寄与している。このシンポジウムでは、変動光下の光合成におけるNPQやKEA3の役割、変動光下の光合成におよぼすCO2濃度、湿度、遠赤光などの環境要因の影響、変動光がもたらす光化学系Iの光阻害のメカニズム、変動光への馴化のオミクス研究などに関する最新の知見を学び議論する。文部科学省新学術領域「新光合成」共催。
NPQ: the mechanism and effectiveness
Feedback regulation of photosynthesis by thylakoid proton antiport
Roles of far-red light in efficient photosynthesis in fluctuating light
Evaluation of functional LHCI size and an interrelationship between LHCI and PSI photoinhibition in rice leaves
Dynamic photosynthesis and the environment: CO2 concentration, salinity and humidity
Dynamic adjustments of Arabidopsis leaf transcriptome and proteome during acclimation to fluctuating light
光合成によって自ら炭素化合物を生産する生命体である植物は、100万種類を超える低分子有機化合物を生合成し、自身の体を司る生命現象の制御に利用している。これらの天然化合物やその類縁人工化合物のうち、植物細胞の外部から刺激を与える生理活性化合物については、微量で劇的な影響を植物生理現象に与えるという知見が数多く認められている植物ホルモンを中心に研究が進められ、近年はケミカルバイオロジーの観点から新しい展開を見せている。植物細胞の内部において生合成される代謝物については、その種類の多彩さからも多くの未解明かつ重要な制御機構の存在が予測され代謝化学を中心に研究が進められ、近年はメタボロミクスの観点から新しい知見が得られている。
このような植物が創る低分子有機化合物群とその類縁人工化合物群は、あたかも各地の都市交通において鉄道路線が接続し、車両や乗客および物資が相互乗入をしているように、化合物という物質そのものや生合成過程、さらにその生理作用からシグナル伝達まで、相互乗入を行い、影響を及ぼしあっているという視点で捉える時代に来ていると考えられる。
本シンポジウムは、このようなケミカルバイオロジーおよび代謝化学という二つの研究領域をバックグラウンドに持つ研究者が一堂に介し、最新の知見を紹介し議論することによって、「低分子有機化合物」の生命活動および地球生態系における生物学的存在意義、さらに、その知見を生かした制御技術の開発による持続可能な社会構築の可能性、を探ることを目的とする。
メタボロミクスと分子遺伝学から見えてくる植物の代謝生理
アシル化スペルミジン類の広がりと機能
植物におけるトリテルペノイドサポニンの代謝および機能多様性の分子基盤
植物成長機構の解明を目指すケミカルバイオロジー研究
植物ケミカルが形成する根圏領域とその機能
未活用な植物特化代謝資源を探索するための未知成分リファレンス構築の重要性~食品メタボロームレポジトリを通じて見えたもの~
細胞内で合成された多種多様なタンパク質が、それぞれの定められた運命に従って機能すべき目的地に運ばれるという膜交通やエンドメンブレンシステムは、現在の細胞生物学においてすっかり定着した概念である。一方、植物は、様々な外部環境の変化に対し、“動いてその場から逃れる”という手段が使えないため、各々の細胞レベルで環境に柔軟に対応する仕組みを発達させており、エンドメンブレンシステムはその仕組みを支える基盤の一つとして機能していることが明らかになりつつある。しかしながら、エンドメンブレンシステムがどのように“植物の生存戦略”として機能しているかについては、分子レベルでは未解明な点が多く残されている。本シンポジウムでは、細胞内現象から組織発生・環境応答といった幅広い視点から研究を進めている植物エンドメンブレン研究者による講演を行う。
小胞体の形態からみる植物の生存戦略
植物TGNが制御するうどんこ病菌に対する抵抗性
オルガネラ動態と膜交通の役割から解き明かすゼニゴケの精子形成機構
局所的な細胞壁成分輸送を導く細胞骨格の動態
エンドソームを介した細胞内輸送系とオートファジー
磯野 江利香(コンスタンツ大学(ドイツ))
トランスゴルジ網に局在する膜交通因子による細胞膜の輸送体の局在制御と発生の関わり
ホウ酸トランスポーターの偏在・分解を制御するエンドメンブレンシステム
膜交通制御因子のユビキチン化と植物の環境ストレス適応機構
植物は生存戦略として様々な二次代謝産物や高分子ポリマーを生合成し、環境に適応してきた。これら代謝産物、高分子ポリマーの中には現代社会に欠かすことのできないものもある。また近年の技術革新により、植物の蛋白質発現や環境応答についての理解も飛躍的に向上した。その結果植物は様々な物質生産にむけたバイオリアクターとしての機能を十分に果たすことができると考えられる。本シンポジウムでは、植物の生存戦略の結果として備えた生理機能に着目し、この機能を生物工学的な視点から解釈することにより、基礎研究から現代社会での利用と実装を目指した応用研究へと展開した例を紹介し、今後の展望を議論する。共催:日本生物工学会次世代植物バイオ研究部会研究部会
LED を用いた植物の UV-B 応答解析から有用物質生産へ
シアノバクテリア由来の光応答スイッチの代謝工学への利用
天然ゴム生合成機構から考える次世代の植物工学
植物が作る高分子バイオポリマーの蓄積機構と機能解明
内在mRNAの翻訳状態解析から得られた知見に基づく外来遺伝子の高発現システムの開発