樹木の光合成

一枚の葉から群落、森林へ

1.はじめに

 光合成についての研究の歴史は長く、遺伝子、タンパク質、葉緑体レベルでの解明はかなり進んできた。その一方、植物が野外で実際に行う光合成については知られていないことも多い。ここでは野外での光合成について、樹木に焦点を当てて簡潔に紹介したい。樹木は陸上における有機物生産の70%近くを行っているため、樹木の光合成を知ることは陸上生態系を理解するための鍵となっている。

2.太陽から入射する光

図1 光合成有効放射の頻度分布(1)。真夏の快晴の日が続けば破線のような頻度分布となるはずなのだが、実際には弱い光が多い。これは曇りや雨の日が多いことによる。

 光合成の話に入る前に、太陽からやってくる光について触れておきたいと思う。というのは、光合成に使える光(光合成有効放射)の強さ(光量子束密度)と頻度分布について知る人は少ないように思うからだ。

 光を遮るようなもののない場所を生態学的にはオープンな環境と呼ぶ。快晴の日にオープンな水平面に到達する光強度の日変化はサイン2乗カーブで近似できる。光が最も強いのは夏至の南中時であり、このときの光量子束密度は約2000 µmol/m2/sである。

 しかし、長期に渡って光を測定し続けてみると、このような快晴の日はほとんどないことがわかる(図1)(1)。日本では曇りや雨の日が多く、光はかなり弱いのである。ここで示しているデータは関東地方の山間部のものだが、亜熱帯の沖縄でもほぼ同じだった。

3.葉の最大光合成速度(Amax)と正味の光合成量

図2 葉のAmaxと正味の光合成量との関係(1)。Amaxが大きいほど単位葉面積あたりの正味の光合成量も大きくなっていく。 図3 葉の窒素含量(LNC)とAmaxとの関係(2)。窒素はタンパク質を作るために必須であり、窒素が多ければ光合成系のタンパク質も多くなり、ひいてはAmaxも大きくなる。白抜きのシンボルは草本であり、黒いシンボルの落葉樹のものよりも窒素含量が高く、Amaxも大きい。

 高校時代から慣れ親しんできた光-光合成曲線のおさらいであるが、光が強くなっていって光飽和に達したときの光合成速度を最大光合成速度(Amax)とよぶ。ここでは葉のAmaxに注目して光合成の話を始めることにする。

 オープンな環境での光の計測結果をもとに、水平に置かれた葉の正味の光合成量(総光合成量-呼吸量)を推定してみよう。光合成を行う期間は5月から10月としている。図2に示すように、単位葉面積あたりの正味の光合成量は葉のAmaxについての飽和型の曲線となる(1)。現実に見られるAmaxの範囲(おおよそ40 µmol/m2/s以下)の場合、Amaxが大きければ大きいほど葉における正味の光合成量も多くなる。Amaxは基本的に葉のタンパク質含量(極論すればルビスコ量)に比例するので、タンパク質含量を高めればAmaxと正味の光合成量は上がるのである(図3)(2)

4.樹木の葉の特徴

図4 スギの根(左)とススキの根(右)。一般的に、樹木の根は太く、草本の根は細い。 図5 根の窒素吸収能力(2)。重さあたりの窒素吸収能力は、左側に示す樹木のものよりも右側に示す草本のものの方が高い。太い樹木の根は重さあたりの表面積が小さくなってしまうためだと考えられる。これが樹木が小さなAmaxしか実現できない原因の一つである。

 長い前振りだったが、ここでやっと本題に入れるようになった。既に図3に示しているのだが、樹木の葉のAmaxは草本に比べてかなり小さい。光合成に関していえば、この小さなAmaxこそが樹木の最大の特徴である。

 ところで、図2からわかるように、Amaxが大きいほど光合成には有利なはずだ。では、どうして樹木の葉のAmaxは小さいのだろうか。その原因の一つは根にある。樹木の根は草本のものよりもずっと太い(図4)。太い根は微生物のアタックに強く、長寿命である。一方で、太い根では表面積を稼げず、窒素の吸収能力が低い(図5)(2)。そのため、樹木の根では葉のタンパク質量含量を高めることができないのである。

 実は、窒素の吸収能力の低い根であってもたくさんの根をつくれば、葉のタンパク質含量を高めることができる。例えば、ウニコナゾールで地上部の成長を抑制した場合である。ウニコナゾール処理したヤマグワでは植物体中に占める根の割合が大きくなり、Amaxは通常の倍近くなる(2)。しかし、植物体全体の成長速度は低下してしまう。これは葉が少なくなったからだ。地上部と地下部のバランスをうまくとることは植物が生きていく上でかなり重要なことなのである(3)(4)(5)。樹木には長寿を保証する太い根を作らなければならないという制約があり、その制約の中で成長速度を最大化するようなバランスが実現されている結果としてAmaxが小さくなっているのだろう。  ここは重要なのでまとめておこう。樹木の光合成に関してまず知っておくべきことは、葉の小さなAmaxと根の低い窒素吸収能力の二点である。

5.群落の光合成

図6 計算によって求めた、葉の密集度合いを表すLAIと土地面積あたりの純生産量との関係。LAIは総葉面積/土地面積を表す。この計算では、LAIが大きいとき、葉は立って密集しているものとしている。凡例の数字はAmaxであり、Amaxの小さい樹木の場合、葉を立てて密集させることで高い純生産量が実現されるのかもしれない。 図7 直達光と散乱光を測定するために作った手製の装置。水平面に配置された光センサーは直達光と散乱光の両者を測定しており、写真では見えない裏側の垂直な面の光センサーは散乱光のみを測定している。

 Amaxの小さな樹木の葉で土地面積あたりの純生産量を高めることができるのだろうか。人工林のバイオマス生産という応用的な視点からすれば、この問いかけはかなり重要だ。60年以上前に門司と佐伯が提唱した群落光合成理論によれば、葉を立てて密集させることで土地面積あたりの純生産量を高めることができる。その予言に基づき、イネの葉が立っていることが米の多収の決め手であるとされたこともある。しかしこの理論は、当時の測定技術や計算能力の限界の中で作り上げられたため、不備な点もたくさん残っている。

 図1のデータを使い、葉の配置と土地面積あたりの純生産量との関係を推定したことがある。光は鉛直方向から入射することにした。その結果、純生産量を最大化するための群落構造はAmaxがによって異なるらしいことがわかった。(図6)。Amaxが大きい植物の場合、葉を水平に一層配置するだけでほぼ最大の純生産量が実現される。一方、Amaxが小さい植物の場合は、葉を立てて密集されることで最大の純生産量を得ることができる。

 しかし、問題は光の入射方向である。太陽は刻々とその位置を変えていくため、光の入射する方向は一定ではない。これを考慮していないため、上記の計算結果はあくまでも予備的なものでしかない。筆者の研究室では現在、太陽から直接入射してくる直達光と間接的に入射する散乱光の詳細な測定を続けている(図7)。これもとに、群落の中の葉が実際に受ける光を計算によって求め、土地面積あたりの純生産量を上げるための群落構造を、Amaxの異なる植物別に決定しようとしつつある。計算は膨大であり、その実験的なテストにも時間がかかりそうだが、やりがいのある研究だと思っている。筆者は佐伯のほぼ最後の弟子であり、彼らの研究を仕上げることは師に対して不義理をはたらいてきたことへの罪滅ぼしでもある。

6.さらに森林へ

図8 常緑針葉樹であるスギと落葉広葉樹であるブナの混交林(福島県本名御神楽岳)。日本の本来の植生は常緑樹と落葉樹が混在する森林だった可能性が高い。

 記事の冒頭で野外の光について述べたのだが、「野外で光を丸ごと測定する」という基本的なこともできていなかったことに驚かれた方も多いのではないかと思う。安価な光量子センサーやデータロガーがなかった時代、光の継続的な測定は難しかったのである。

 筆者たちによる光の測定は、オープンな場所だけではなく、落葉樹林の林床と常緑樹林の林床でも行われた。それによってわかったことは、葉の隙間を通って林床まで届く光は非常に弱く、常緑樹林の林床で成長して高木になれる樹木はないということだった。一方、落葉樹林の林床の場合、晩秋から早春にかけての光は強く、この光を利用できる常緑樹は順調に成長して高木になれる。

 九州から北海道に広がる森林には落葉樹と常緑樹が混在することが多い。光の測定を行ったことで、日本における森林の更新過程を自信をもって説明できるようになった:まず、明るい場所で速く成長する落葉樹が優占する。その後、明るい場所ではそれほど速く成長できないが、落葉樹林の林床で成長できる常緑樹が優占することになる。常緑樹が倒れたあとにできる明るい場所では、再び落葉樹が急速に成長する。つまり、落葉樹→常緑樹→落葉樹というサイクルが自然の森林更新の本来の姿なのである(6)

 日本にはブナなどを中心とする落葉樹林も広がっているのだが、ここでも上述のサイクルは成立するはずである。江戸時代に作られた植生図の解析によれば、ブナ林で有名な白神山地も落葉広葉樹であるブナと常緑針葉樹であるヒノキアスナロの混在する森林だったという。おそらく、有用な常緑針葉樹が伐採によって失われ、落葉樹だけ残ったのが現在の落葉樹林ということなのだろう(図8)。

 なぜ明るい場所で落葉樹の成長が常緑樹よりも速いのか、という疑問をもたれた方もいるに違いない。これは落葉樹の葉が常緑樹よりも薄いことに起因する。薄い葉は風などのストレスに弱くて短命なのだが、葉をつくるために使う有機物量あたりの葉面積が大きいため、広い範囲の光を捕捉できる。個体全体の成長をみたとき、たとえAmaxが小さくても葉面積の広い方が成長速度は大きくなりやすいため(7)、落葉樹の成長は常緑樹よりも急速である。もしAmaxが大きくなったのに成長速度が低下した場合、根が増えて葉が減ってはいないか、葉が厚くなってはいないか、の二点を確かめればその原因にたどり着く可能性が高い。

7.おわりに

 本稿では、地上に降り注ぐ光から始まり、一枚の葉、群落、森林へと話題をスケールアップてきた。書き終えた今、光合成は細胞レベルから生態系レベルまでの複数の階層で見られる様々な現象を説明できることに改めて感心している。完全な説明が可能になるには、まだまだパズルのピースが足りない部分もある。研究の進展によって不足しているピースが埋められたとき、植物に覆われたこの世界はもう少し清々しく見通しのよいものになるような気がしてならない。

東京大学大学院理学系研究科 舘野 正樹

文献
  1. Miyashita, A., Sugiura, D., Sawakami, K., Ichihashi, R., Tani, T., and Tateno, M. (2012) Long-term, short-interval measurements of the frequency distributions of the photosynthetically active photon flux density and net assimilation rate of leaves in a cool-temperate forest. Agricultural and Forest Meteorology 152:1–10.
  2. Osone, Y., and Tateno, M. (2005a) Nitrogen absorption by roots as a cause of interspecific variations in leaf nitrogen concentration and photosynthetic capacity. Functional Ecology 19:460-470.
  3. Osone, Y., and Tateno, M. (2005b) Applicability and limitations of optimal biomass allocation models: a test of two species from fertile and infertile habitats. Annals of Botany 95:1211-1220.
  4. Sugiura, D., and Tateno, M. (2011) Optimal leaf-to-root ratio and leaf nitrogen content determined by light and nitrogen availabilities. PLoS ONE 6(7):e22236.
  5. Sugiura D., Sawakami K., Kojima M., Sakakibara H., Terashima I., and Tateno M. (2015) Roles of gibberellins and cytokinins in regulation of morphological and physiological traits in Polygonum cuspidatum responding to light and nitrogen availabilities. Functional Plant Biology 42:397-409.
  6. Miyashita, A., and Tateno, M. (2014) A newly defined leaf RGR predicts shade tolerance of trees in a cool-temperate forest. Functional Ecology 28:1321-1329.
  7. Tateno, M. and Taneda, H. (2007) Photosynthetically versatile thin shade leaves: a paradox of irradiance-response curves. Photosynthetica 45: 299-302.