解説・エッセイ

気孔の働きと開閉の仕組み

 陸生高等植物の表面にある気孔という構造を知っているでしょうか。気孔は、一対の孔辺細胞およびその周辺の細胞からなる構造で、孔辺細胞間にできる孔の大きさを調節して開閉を行います (図1)。

 気孔は光合成が盛んに行われる晴天の時に開いて、葉から水を蒸散させ、根から水や養分の取り込みを促進し、同時に光合成に必要な二酸化炭素を取り込み、光合成により産出される酸素を放出します (これをガス交換と呼びます)。また、蒸散は強い日差しで上昇した葉の温度を低下させる役割もあります。

 気孔はガス交換の95%以上を担っており、植物は気孔を通してのみガス交換を行っているといっても過言ではありません。研究によく用いられるシロイヌナズナでは、葉の裏側の表面に 1mm2 あたり約100個もの気孔があり、日々ガス交換を行っています。 一方、雨が降らず晴天の日が続き植物周辺の水分が不足気味になると、植物内で合成された植物ホルモン・アブシジン酸1) に応答して気孔は閉じ、植物体からの水分損失を防ぎます。シロイヌナズナにおいて、アブシジン酸に応答出来ないため気孔を閉じることができない突然変異体が単離されていますが、この植物体では常に気孔から蒸散がおきるため、土壌の水分が不足するとすぐに萎れて枯れてしまいます。

 このように気孔は植物が生きていくうえで大変重要な役割を果たしています。もし、気孔の開閉を人為的にコントロールできたなら、光合成に使われる二酸化炭素の取り込みを促進することで作物の生産量を上げたり、乾燥に弱い作物を雨の少ない地域で栽培することができるようになるかもしれません。現在は、まだそのような実用段階ではありませんが、基礎となる開閉の仕組みを解き明かすための研究は熱心に行われています。以下に簡単に紹介したいと思います。

 気孔が光に反応して開くことは、1898年、進化論で有名な C. Darwin の息子である F. Darwin により見つけられました。その後、390nm-500nm の波長の青色光2) が気孔開口に特に有効であることがわかりました。また、気孔が開いた状態の孔辺細胞には、閉じた状態の数倍濃度のカリウムイオンが蓄積しており、カリウムイオンの蓄積により浸透圧が上昇し、水が取り込まれ、孔辺細胞の体積が増加していることがわかりました。孔辺細胞は内側に厚い細胞壁、外側に薄い細胞壁を持っており、孔辺細胞の体積が増加すると外側の薄い細胞壁が押され、孔辺細胞間の孔が開く (気孔が開口する) と考えられています。

 では、どのようにして孔辺細胞内にカリウムイオンが蓄積するかということですが、孔辺細胞に青色光が照射されると、ATPのエネルギーを利用して水素イオンを輸送する細胞膜ポンプが活性化され、水素イオンを細胞外へ能動輸送する事により膜電位が過分極3) し、ついで、同じく細胞膜にあるカリウムチャンネル4) が過分極に応答して開き、孔辺細胞内にカリウムイオンが取り込まれていると考えられています。つまり、細胞膜ポンプの活性化が気孔開口の重要なステップとなるわけですが、その実体は長らくの間不明でした。1999年になってようやく、細胞膜 H+-ATPase という酵素がポンプの実体である決定的な証拠が示され、その活性化の仕組みも明らかになりました。

 

 この研究過程で青色光受容体フォトトロピンが孔辺細胞にも存在していることが見つかりました。フォトトロピンは、シロイヌナズナの光屈性の突然変異体より同定された青色光受容体で、シロイヌナズナには2つの遺伝子が存在しています。気孔開口にも青色光が有効なことからその関係を調べたところ、2つのフォトトロピンが欠損した2重突然変異体では青色光による気孔開口や孔辺細胞からの水素イオン放出が全く起こらないことがわかり、フォトトロピンが気孔開口の青色光受容体として機能していることが証明されました。フォトトロピンに受容された青色光シグナルが、どのように伝達され細胞膜 H+-ATPase の活性化を引き起こしているのかは、まだ明らかになっておらず今後の重要な課題です (図2)。

 一方、アブシジン酸による気孔閉鎖は、孔辺細胞に蓄積したカリウムイオンを排出することにより引き起こされます。孔辺細胞をアブシジン酸処理すると、細胞膜の陰イオンチャンネル4) が活性化され、孔辺細胞からの陰イオン (主に塩素イオン) の排出が起こり、細胞膜が脱分極3) されます。

 ついで、細胞膜のカリウムチャンネル4) が脱分極に応答して開き、カリウムイオンを排出し、孔辺細胞の浸透圧が低下し、水が排出され、孔辺細胞の体積が減少し、気孔が閉鎖すると考えられています。さらに、アブシジン酸は気孔開口に関わる細胞膜 H+-ATPase も阻害し、気孔閉鎖を促進しています。陰イオンチャンネル活性化に至る過程には、カルシウムや活性酸素など様々なシグナル分子が関与することが示されており、シグナル伝達のモデル材料として活発に研究が行われています (図2)。また、アブシジン酸受容体は未だ同定されておらず、植物生理学の重要な課題となっています。

さらに理解を深めたい方は

  • 植物生理学講座 (5) 環境応答 朝倉書店
  • 植物細胞工学シリーズ16、植物の光センシング 秀潤社
  • 植物細胞工学シリーズ18、植物の膜輸送システム 秀潤社
  • 植物細胞工学シリーズ20、植物ホルモンのシグナル伝達 秀潤社

などを参照してください。

九州大学大学院理学研究院生物科学部門 
現:名古屋大学大学院理学研究科 木下 俊則
kinoshita@bio.nagoya-u.ac.jp

語句の説明
  1. 植物ホルモン・アブシジン酸は気孔の閉鎖や種子、芽の休眠、成長抑制を行うほか、凍結耐性、乾燥耐性などの多くのストレスに対して抵抗性を賦与する。
  2. 青色光は植物において、胚軸の伸長抑制、光屈性、葉緑体定位運動、気孔開口などの様々な反応を引き起こすことが知られており、青色光効果と呼ばれている。のちの研究により、胚軸の伸長抑制ではクリプトクロムが、光屈性、葉緑体定位運動、気孔開口ではフォトトロピンが青色光受容体として機能していることが明らかとなった。
  3. 細胞は一般に内部が負、外部が正に分極しており、その分極が定常状態より大きくなることを過分極、小さくなることを脱分極という。
  4. 膜を介した物質輸送において、膜蛋白質が形成する膜を貫通した通路をチャンネルという。一般に輸送される物質に特異的なチャンネルが存在する。チャンネルには開放か閉鎖の2つの状態があり、開閉は膜電位や生理活性物質により調節される。孔辺細胞においてカリウムを取り込むチャンネルと排出するチャンネルは別のチャンネル分子と考えられている。