植物が光を感じる仕組み

 皆さんは、植物が光を 「感じる」 ことをご存知かと思います。例えば、夜中に短時間、光を照射することで花を咲かせなくしたり、発芽が抑制された種子を発芽させることができます。また、植物が明るい方向に茎を曲げる様子 (光屈性) を目撃した方も多いかと思います。このように植物が光を感じていることは古くより知られていますが、その仕組みを 「細胞」 「分子」 「遺伝子」 などの言葉で理解するとなると、まだまだ謎が多く残されています。以下、3つの項目を挙げて、植物の光応答が生理学研究者の間でどのように理解されているのかを説明します。

1) 光を感じる分子 (光受容体)

 光を感じるということで、私たちに最も身近なのは視覚ではないかと思います。そもそもなぜ物を 「視る」 ことができるのか、それは、網膜にある視細胞の中の視物質 (代表例; ロドプシン) の働きによります。細胞内で視物質が光を吸収すると、それが引き金となって視細胞が活性化されます。植物も同じように、光を感じるための特別なタンパク質 (光受容体) を持ちます。ただし、植物は、動物とは全く異なる種類の光受容体を用いています。

 植物の光受容体の中でも最も有名なのがフィトクロムです。フィトクロムは、花芽形成や発芽の制御、さらに、芽生えが葉を開いて光合成を始める脱黄化現象を促進するなど、実に様々な場面で活躍しています。フィトクロムには、赤色光で活性化され、遠赤色光で不活性化される性質があります (図1)。このため、フィトクロムによる応答には赤/遠赤色光可逆性が見られます。一方、植物が光を感じる現象で、青い光しか効果がないものがあります。その代表が光屈性で、ここでは、フィトクロムとは全く別の青色光受容体フォトトロピンが光を感じています。この他に、クリプトクロムと呼ばれる青色光受容体も知られています。植物は一生を通じてこれらの光受容体を使い分け、自分が置かれた光環境を敏感に感じ取り、その情報を生きるのに役立てています。

図1

図1 Pr型、Pfr型フィトクロムの光吸収スペクトル (Furuya & Song, 1994より改変)。Pr型は660 nm付近の赤色光を吸収して、730 nm付近の遠赤色光を吸収するPfr型に変換される。逆に、Pfr型は遠赤色光を吸収してPr型に戻る。

2) 他の植物の陰を避けるための巧みな仕組み

 フィトクロム応答に赤/遠赤色光可逆性があるということを教えられた時に、それは植物にとってどういう意味があるのだろう? と思った方がいるかもしれません。フィトクロムは暗いところでは不活性型で、そこに光が当たると活性化されます。すなわち、明るくなったことを知るための光受容体として働きます。では、遠赤色光で不活性化されることにどういう意味があるのでしょうか?そもそも遠赤色光ってどういう光なのでしょう? 人間の目は遠赤色光に対する感度が低く、赤色光との違いを見分けることが困難です。しかし、太陽から来る光は、赤色光に加えてかなりの量の遠赤色光を含んでいます。

 光合成で生きている植物にとって、光は生活の糧です。光合成では特に青と赤の光が使われますが、遠赤色光は使われません。ここで、光が植物の葉を通り抜けたり反射されると、赤色光は光合成に使われるため吸収されてしまうため、相対的に遠赤色光の量が増えます (図2)。このような光スペクトルの波長成分を変化を植物は感じ取り (ちょうど、動物が匂いで近くにライバルがいることを感じるようなものです)、対抗策として、茎を伸ばしたり花を早めにつけたりします。このようなことができるのは、遠赤色光が増えることで、フィトクロムを不活性化する勢いが高まり、それが引き金となって色々な応答が起きるからです。このように、植物はフィトクロムを用いて、単に明暗の違いだけでなく、光の質 (色あい) を区別しています。

図2

図2 茂みの内部と周縁部における光質の違い。内部では遠赤色光に対する赤色光の割合が低下する。

3) 光と遺伝子発現

 植物は光を感じることで、色々な反応を示します。それでは、この時に細胞の中ではどのような変化が生じているのでしょうか? 私たち植物生理学者は、光受容体が光を感知したあと、どのような仕組で細胞の機能や性質が変わるのかを知りたいと思っています。例えば、光で発芽が誘導されるときには細胞が伸長を始めます。花芽形成の場合は、葉を作る細胞が花を作る細胞に変化します。それでは、光受容体はどのようにして細胞に指令を出しているのでしょうか?

 細胞の性質を決める要素は色々とありますが、そのうちでも重要な要素の一つが遺伝子発現のパターンです。個々の細胞では、数万の遺伝子のうち選ばれたもののみが 「発現」 されています。ここで発現とは、個々の遺伝子に対応するタンパク質が、DNAに蓄えられた遺伝情報をもとに合成されることを示します。そして、細胞の性質は、どのようなタンパク質が発現するか、そのパターンで決まります。例えば、盛んに成長する細胞では、細胞壁を変化させるタンパク質、成長に必要な材料を合成・輸送するタンパク質、細胞の形を変化させるタンパク質などなど、様々なタンパク質が発現しています。そして、光受容体は、どのような遺伝子が発現するかを制御することで、細胞の性質を変化させています。これが、植物の光応答の基本的な仕組です。

 植物の光受容体が遺伝子の発現を制御する詳しい仕組みについては、ここ最近の研究で多くのことが分かってきました。ここでは、フィトクロムを例に説明します。不活性型のフィトクロムは細胞内の細胞質ゾルと呼ばれる分画に水に溶けたような状態で存在します。ここに光が当たると、活性化されたフィトクロムが細胞内の核という構造の中へ移動します (図3)。核内には遺伝子の本体であるDNAがしまわれており、ここに転写因子と呼ばれるタンパク質が結合することで個々の遺伝子の発現量が上がったり下がったりします。活性化されたフィトクロムは、核内で特定の転写因子と結合しその分解を促します。その結果、この転写因子が制御していた幾つもの遺伝子の発現量が変化し、最終的に細胞はその性質を変えることとなります。現在、具体的にどのような遺伝子の発現が変化するのかについて盛んに研究が行われているところです。

図3

図3 phyB-GFP の細胞内分布。明所において phyB-GFP は核内で顆粒状の分布を示す。赤色はクロロフィルの自家蛍光。

4) おわりに

 以上、駆け足で、植物の主要な光受容体、その細胞内作用機構、植物個体が示す光応答などについて説明しました。最後に述べておきたいのは、最も典型的な光応答現象についても、光受容体から最終的な生理応答に至る全過程が完全に明らかになったわけではない、ということです。さらに、多様な個体レベルの光応答が知られていますが、その全てについて研究が進んでいるわけではありません。もっと言えば、これまで知られていないような光応答がこれから発見される可能性もあります。今度、どのような驚きの事実が明らかにされるのか、それを楽しみに研究を続けていきたいと思います。

長谷 あきら (京都大学大学院理学研究科生物科学専攻)