液胞って何?
1. 植物はみずぶとり
新鮮な野菜ってみずみずしいですよね。なぜ植物はみずみずしいのでしょう。それは、植物細胞の中身はほとんど液胞だからです。成熟した植物細胞では細胞内体積の90%以上は液胞によって占められているのです (図)。なぜ植物細胞は液胞で占められているのでしょう? それは、植物は動き回って食物を取ることができる動物と違って光エネルギーだけで生きているからです。動物の細胞内は細胞質でぎっしり満たされています。その細胞質にはタンパク質などがたくさん詰まっています。それらのタンパク質を合成するには非常にたくさんのエネルギーを必要とするので、もし、植物が動物細胞と同じように細胞の中を細胞質でぎっしり満たしたら、莫大なエネルギーを使ってしまいます。植物のエネルギー源は光だけなのでそんな無駄なことはできません。そこで、液胞の中に水をいっぱいため込んで、みずぶとりすることによって消費するエネルギーを節約し、なおかつできるだけ自分の体の体積・表面積を大きくしているのです。これを液胞の空間充填機能といいます。
- 液胞の形成機構について
2. 細胞内のゴミ処理場
液胞内にはタンパク質分解酵素などさまざまな加水分解酵素が存在します。細胞内の老廃物あるいは細胞質に蓄積すると毒になるような物質は液胞に運ばれて、そこに貯蔵されるか分解されます。
3. 細胞内のリサイクルセンター
皆さんは酵母という生き物を知っていますか (図)。酵母自体は知らなくても、私達は色々な酵母の恩恵を受けているのです。例えば、パンを作るとき、小麦粉を発酵させますが、これはパン酵母を使っているのです。またお酒を造るときにも酵母を使ってアルコールを作り出しています。このように私達人間は酵母を昔から利用してきたのです。酵母は単細胞の真核生物で、子嚢菌というカビの仲間です (図)。細胞一個からなる非常に単純な生き物ですが、動物や植物の細胞が持っている細胞内の器官を一通り備えています。酵母はゲノム構造の単純さ、扱いやすさから、古くから真核生物のモデル系として用いられていて、現在では全ゲノム構造をはじめ、非常に多くのことがわかっています。
さて、酵母にも小さいながら液胞が存在します。酵母の液胞の働きの中で重要なのが自食作用というもので、文字どおり自分で自分を食べてしまう機能です。そんなことをして何の役に立つのでしょうか。酵母は生きている環境条件が悪くなると胞子を形成しますが、その時に細胞質の成分を小胞に囲い込み、その小胞を液胞内に運び込んで、その後液胞内で消化し、その成分を胞子形成に利用します。これを自食作用 (Autophagy) といいます。酵母の自食作用に関係している遺伝子は多数単離され、それらの機能が今精力的に研究されています。
また植物も光が当たらなくなるなど飢餓条件にさらされると自食作用が起こることが判っています。酵母の自食作用に関わっている遺伝子と親戚のたんぱく質も植物で見つかっていて、酵母と植物は同じようなAutophagyのメカニズムがあると推定されています。
- 自食作用(Autophagy) とは
4. 細胞内の貯蔵庫
なしやリンゴ、みかんなどの果物って甘くておいしいですよね。あるいはレモンみたいに酸っぱい果物もあります。実はこれらの甘かったり、酸っぱかったりする成分は全て液胞に貯まっているのです。他にも種子の貯蔵タンパク質も液胞に貯蔵されたり、アルカロイドなどの毒物も液胞に蓄えられます。これらの成分は様々な経路を通って液胞に輸送されることが知られています。
- 液胞膜上の水素イオンポンプ
- 無機イオン、有機酸、糖類の液胞への輸送機構
- 液胞貯蔵タンパク質、プロテアーゼなどの液胞への輸送機構
5. 花の色はうつりにけりな
あさがおの目の覚めるような青色、深紅のバラ、黄色いチューリップなどきれいな花々は、私達の目を楽しませて、生活にうるおいを与えてくれます。もし人間の生活に花がなければ、人生は殺伐としたものになってしまうことでしょう。花の色はアントシアニンという色素によって作り出されていますが、アントシアニンも花弁の液胞中に蓄積します。
- アントシアニンの液胞への輸送機構
- 花の色の形成機構
6. 細胞の時限爆弾
植物は根から水分や無機塩類などの養分を吸い上げて、葉や花などの組織に送っています。それらの通り道として道管・仮道管という器官 (図) が発達しています。道管・仮道管 (管状要素) は、細胞が分化し、自己分解して最終的にそれぞれの細胞がつながって管状要素になります。このときに液胞が自己崩壊することにより、プログラムされた細胞死 (アポトーシス) の中心的役割を担うことが知られています
- 管状要素の形成機構