一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

画像ギャラリー

花はどのようにしてできるのか

被子植物の花は通常、がく、花弁 (花びら)、おしべ、めしべ (心皮) が同心円上に配置する構造をもっています。ドイツの文豪ゲーテ (彼は偉大な自然科学者でもありました。) は200年以上前に花は葉が変化してできたものだと予想していました。この予想が正しいことは、現在シロイヌナズナを用いた分子遺伝学によって証明されました。まず、シロイヌナズナの花の変異株の解析から、花の形成にはA、B、Cというそれぞれ異なった遺伝子の組合せが重要で、Aだけ発現するとがく、AとBが発現すると花弁、BとCが発現するとおしべ、Cのみが発現するとめしべ (心皮) ができるという “ABCモデル” が提唱されました。実際A、B、C全ての遺伝子に変異が入った植物体では花が全部葉に変化してしまいます。その後、A、B、Cそれぞれの遺伝子がクローニングされ、Aのクラスの遺伝子は APETALA1 (AP1)、APELATA2 (AP2)、Bのクラスの遺伝子は APELATA3 (AP3)、PISTILLATA (PI)、そしてCのクラスの遺伝子は AGAMOUS (AG) という遺伝子の発現を制御するたんぱく質をコードするものだということがわかりました。

しかしながら、これらの遺伝子をどのような組み合わせで強制的に発現させても、葉は花に変化しないためABC 3つのクラスの遺伝子のほかに花の形成に他の遺伝子 (クラスE) が必要であることが示唆されていました。このクラスEにあたるものが SEP3 という遺伝子であることが最近の研究でわかり、ゲーテの予想が正しかったことが示されたのです (ABCモデルの図)。

写真のようにPI (class B)、AP3 (class B)、SEP3 を同時に発現させると全ての葉が花弁様に変化し (C)、AP1 (class A)+PI (class B)+AP3 (class B) では、茎生葉 (花茎にできる葉; cl) が花弁様の器官に変化しています (D)。CとDを掛け合わせることで、葉がより強く花弁化する植物が得られます。またAG (class C)+SEP3 では多くの葉が心皮様に変化し (E)、PI (class B)+AP3 (class B)+AG (class C)+SEP3 では茎生葉 (cl) および側枝 (is) の先端にできる花の全ての器官がおしべに変化しています。

参考文献:Nature (2001) 25, 409, 525-529
資料提供:岡山県生物科学総合研究所
後藤 弘爾氏