葉緑体は各々完全に独立した細胞小器官であり、葉緑体同士が結合することはあり得ないと、ずっと信じられていました。しかし、植物細胞工学の新しい技術を使うことで、その認識が誤りであることが分かってきました。私たちは、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質 (GFP) 遺伝子を葉緑体ゲノムに導入した形質転換タバコを作製しました。このタバコの葉緑体を共焦点レーザー蛍光顕微鏡で観察すると、葉緑体から細長い緑色のチューブが伸びているのが観察できました。この突起は、非常に細く不安定な構造であるため、長年にわたる光学顕微鏡、さらには電子顕微鏡観察によっても発見されなかったもので、GFPの蛍光を利用して初めて可視化できました。stromuleと名付けられたこの構造は、活発に伸び縮みし、時には葉緑体同士をつないでいます。この突起が何をしているのか今のところ不明ですが、このように最近の植物分子生物学の研究から、新しい植物細胞の姿が浮かび上がりつつあります。
(Plant Cell Physiol, vol. 41, 367-371 (2000))
画像提供:京都府立大学 人間環境学部環境情報学科
椎名 隆氏
椎名 隆氏