一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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葉緑体の分裂にはたらくリング

植物細胞の中に存在する沢山の葉緑体は、光合成によってでんぷんや酸素をつくり出す重要な器官となっていますが、その分裂様式はほとんど謎でした。細胞内共生説によると、葉緑体の祖先は今から約20億年前に単細胞生物の細胞中に共生した光合成細菌シアノバクテリアであるとされています。大腸菌など多くのバクテリアの細胞分裂では中央のくびれ部分にFtsZというタンパク質がリング状に出現してはたらくことが知られていますが、はたして葉緑体はバクテリアだった頃の分裂様式を憶えているでしょうか?

2001年に、私達はバクテリアの分裂リングと同じタンパク質が葉緑体の分裂にも同様にはたらくことを視覚的に証明することに成功しました。写真のAは二分裂する葉緑体の分裂面で観察されたリングであり、蛍光を放つ抗体で特異的に染色した像です。若い葉の細胞ではこのようなリングを収縮させながら分裂を進行させる葉緑体が多く観察され、その分裂過程は写真のB~Eのようなものであると考えました。

この結果から、葉緑体の分裂は決してランダムな “ちぎれ” から起こるものではなく、私達の想像以上に緻密なメカニズムのもとに制御されていることが明らかとなりました。葉緑体分裂のコントロールは植物生存のコントロール、ひいては食糧生産や地球の緑地化のコントロールであると私達は信じています。 

資料提供:東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻
発生生物学研究室
森 稔幸氏