質問者:
高校生
松田和樹
登録番号0029
登録日:2004-02-20
度々申し訳ないのですが、一般にエンブリオジェニックカルスとランのPLBや普通のカルスの見分け方はどう見分けるのですか?みんなのひろば
エンブリオジェニックカルスとは
また、どうやってECを形成させるのですか?
方法を教えて下さい。
また、ECとその他との違いとECの利点はなんですか?
もう一つ質問なのですが、光合成の形態がC3とかC4とかいいますが、これはどういう意味ですか?
教えて下さい。お願いします。
因みに私は高校で植物バイオについて学んでおりました。
松田 和樹さん
ご質問について、二人の先生にお答えいただきました。
1)エンブリオジェニックカルスについて
●一般にエンブリオジェニックカルスとランのPLBや普通のカルスの見分け方はどう見分けるのですか?
例えばニンジンですと、黄色くて粒状のカルス(透明感のあるものはダメ)が
良いのですが、経験的なものです。実際に不定胚を誘導してみて判断するのが
ベストです。我々でも、多数の系統を作ってみて、不定胚形成率の良いものを
選んでいます。
●また、どうやってECを形成させるのですか?方法を教えて下さい。
ニンジンですと、芽生えの胚軸を切り出して、オーキシン(2,4-D)の入った寒
天培地上で培養します。特に変わった操作をするわけではありません。また、
種によって、どの部位を用い、どんな培地、ホルモンを使ったらよいかは異な
ります。
●また、ECとその他との違いとECの利点はなんですか?
言葉の遊びではなく、不定胚ができる点です。多くの方は思い違いをしていますが、不定胚を作ることができる植物種は限られています。多くの植物種では不定芽は誘導できても不定胚はできません。いったん不定芽を作ってから、その後、不定根を誘導している場合が多いです。応用的には不定胚は人工種子に使えますが、それよりは胚形成機構の研究に重要です。バイオテクノロジーとしては、不定芽+不定根で十分です。
佐藤 忍(筑波大学)
2)C3植物とC4植物について(ちょっと長いですが、頑張って読んでみて下さい)
簡単にいいますと、
(1) C3光合成とC4光合成では、二酸化炭素を固定して最初に作られる有機化合物が違います。
(2) C4光合成では、基本的な炭酸固定反応の前に、二酸化炭素を濃縮する反応が付け加えられています。
(3) C4光合成を行う植物は、強い光を十分に利用でき、高温や乾燥にも強くなると考えられています。
では、少し詳しく見てみましょう。
(1) について。
光合成反応では、光のエネルギーを利用して空気中の二酸化炭素を固定して炭水化物が作られます。C3光合成とC4光合成では、二酸化炭素を固定してできる最初の反応産物が違います。C3光合成では炭素(元素記号C)を3つ含む化合物(C3化合物)が、C4光合成では炭素を4つ含む化合物(C4化合物)が、それぞれ作られます。それが、C3とかC4とかいう名前の由来です。
(2) について。
どうしてそのような違いがでるのかというと、最初に二酸化炭素を固定して有機化合物にする反応を触媒する酵素が違うからです。
C3光合成では、空気中の二酸化炭素(二酸化炭素は炭素を1つ含む化合物ですね)を炭素を5つ含む化合物に結合させて炭素6つの化合物を作りますが、これはすぐに分解してしまい、C3化合物が2つできます。
この反応を触媒するのはRubisco(ルビスコ)と呼ばれる酵素で、反応は葉肉細胞の中の葉緑体という細胞器官の中で起こります。
C3光合成は光合成による二酸化炭素固定の基本的な形式です。大部分の植物はこのC3光合成を行います。
一方、トウモロコシやサトウキビなど一部の陸上植物は、C4光合成を行います。C4光合成を行う植物をC4植物といいます。C4植物の二酸化炭素固定の反応は少々複雑です。
まず、葉っぱの構造が普通のC3光合成を行う植物(C3植物といいます)と少し違います。C4植物では葉っぱの中の維管束の周りを取り囲む「維管束鞘細胞」という種類の細胞が葉緑体をもち、よく発達しているのが特徴です。この維管束鞘細胞のさらに外側を、葉肉細胞が放射状に取り巻いています。
このように、葉の維管束の周りを維管束鞘細胞と葉肉細胞が二重の花びらのように取り巻いている構造を「クランツ構造」といい、C4植物の葉の構造の大きな特徴です。(ちなみに、C3植物では維管束鞘細胞はそれほど発達しておらず、葉緑体をもちません。また、葉肉細胞は葉の表皮に平行に配列しています。)
C4光合成の二酸化炭素固定反応は、クランツ構造の外側にある葉肉細胞で始まります。葉肉細胞では、葉の中に取り込んだ二酸化炭素(正確には重炭酸イオンの形に変えられてから、ですが)を、C3化合物とくっつけてC4化合物を作ります。この反応を触媒するのはPEPC(ペップシー、と読むことが多いようです)と呼ばれる酵素で、反応は葉肉細胞の中の細胞質で起こります。しかし、この反応はあくまでも「仮固定」と呼ぶべきものです。作られたC4化合物は
お隣の維管束鞘細胞に運び込まれ、そこで待ち構えている別の酵素(脱炭酸酵素)の働きで、いったんくっつけた二酸化炭素を放出してしまいます。二酸化炭素を放出した残りの部分(C3化合物)は葉肉細胞に送り返され、そこで再び二酸化炭素をくっつける受け皿として使われます。このような反応がぐるぐると回ることによって、葉肉細胞を通って大量の二酸化炭素が維管束鞘細胞に運び込まれることになり、維管束鞘細胞の内部は二酸化炭素の農度がとても高くなります。
維管束鞘細胞の中の葉緑体には、普通のC3植物と同じようにRubiscoという酵素がいて、高い二酸化炭素濃度の下で効率良く二酸化炭素固定反応を進めます。
このように、C4光合成では通常のC3光合成と同じ反応を維管束鞘細胞の葉緑体が行っており、葉肉細胞はひたすら維管束鞘細胞の中に二酸化炭素を送り込むポンプの役割をしているのです。
では、二酸化炭素の濃度を高めてやることにどのような意味があるのでしょうか。実は、光合成による二酸化炭素の固定で大事な役割を果たしているRubiscoという酵素には大きな欠点があります。ひとつは、反応を進める速度がもともと遅く、しかも、二酸化炭素の濃度が低くなると、さらに遅くなってしまうこと。もうひとつは、二酸化炭素の代わりに(間違って)酸素をくっつける反応をしてしまうこと。しかも、二酸化炭素の濃度が低く、酸素濃度が高くなると、間違える確率が高くなります。間違えて酸素をくっつける反応をしてしまうと、炭水化物の合成量が減って損をするだけではなく、毒性のある化合物ができてしまうのでその後始末をするのにも大変な労力が要ります。二酸化炭素の濃度を高めておいてやると、Rubiscoという酵素のこうした欠点が現れないようにすることができ、二酸化炭素の固定を効率良く進めることができるのです。
(3) について。
(強光)普通のC3植物の場合、強い光の下では二酸化炭素の濃度の方が律速になって光合成による炭素固定反応の速度が低く抑えられてしまいます。しかし、C4植物では二酸化炭素濃縮の仕組みがあるため、二酸化炭素濃度が律速になって光合成速度が低く抑えられてしまうことはあまり起こらず、光エネルギーを十分に利用して高い速度で炭素固定反応を行うことができるのです。
(高温)また、Rubiscoが間違って酸素をくっつける反応を触媒してしまう確率は、温度が高くなるほど高くなる傾向があります。C4植物ではRubiscoの反応の間違いを起こらないようにしていますから、温度が高くても大丈夫です。
(乾燥)光合成で利用される二酸化炭素は、葉の表面に空いている「気孔」という穴を通って外気から補充されます。しかし、気孔が開いていると植物体の水分は気孔を通ってどんどん外気に出ていって失われてしまいます。乾燥した気候では、植物は気孔を閉じ気味にして水分の損失をおさえます。すると、二酸化炭素の補充も困難になり、普通のC3植物ではRubiscoによる二酸化炭素固定反応の速度ががた落ちになってしまいます。一方、C4植物が二酸化炭素濃縮のために使っている酵素、PEPCは二酸化炭素の濃度が低くても高い反応速度を保てる、という特徴があります。ですから、水不足を感じた植物が水分の損失を押さえるために気孔を閉じ気味にした結果、葉内の二酸化炭素濃度が低下したとしても、それを掻き集めて維管束鞘細胞に送り込むことができます。そのおかげで実際に二酸化炭素を固定する酵素、Rubiscoの周りは二酸化炭素の濃度が高く保たれ、二酸化炭素固定反応の速度も高く保たれるのです。
このような訳で、二酸化炭素濃縮機構を備えたC4植物は強光、高温、乾燥に強い性質を示すのです。実際にC4植物の分布を調べてみると、強光、高温、乾燥にさらされる地域に多く見られることが知られています。
ご質問について、二人の先生にお答えいただきました。
1)エンブリオジェニックカルスについて
●一般にエンブリオジェニックカルスとランのPLBや普通のカルスの見分け方はどう見分けるのですか?
例えばニンジンですと、黄色くて粒状のカルス(透明感のあるものはダメ)が
良いのですが、経験的なものです。実際に不定胚を誘導してみて判断するのが
ベストです。我々でも、多数の系統を作ってみて、不定胚形成率の良いものを
選んでいます。
●また、どうやってECを形成させるのですか?方法を教えて下さい。
ニンジンですと、芽生えの胚軸を切り出して、オーキシン(2,4-D)の入った寒
天培地上で培養します。特に変わった操作をするわけではありません。また、
種によって、どの部位を用い、どんな培地、ホルモンを使ったらよいかは異な
ります。
●また、ECとその他との違いとECの利点はなんですか?
言葉の遊びではなく、不定胚ができる点です。多くの方は思い違いをしていますが、不定胚を作ることができる植物種は限られています。多くの植物種では不定芽は誘導できても不定胚はできません。いったん不定芽を作ってから、その後、不定根を誘導している場合が多いです。応用的には不定胚は人工種子に使えますが、それよりは胚形成機構の研究に重要です。バイオテクノロジーとしては、不定芽+不定根で十分です。
佐藤 忍(筑波大学)
2)C3植物とC4植物について(ちょっと長いですが、頑張って読んでみて下さい)
簡単にいいますと、
(1) C3光合成とC4光合成では、二酸化炭素を固定して最初に作られる有機化合物が違います。
(2) C4光合成では、基本的な炭酸固定反応の前に、二酸化炭素を濃縮する反応が付け加えられています。
(3) C4光合成を行う植物は、強い光を十分に利用でき、高温や乾燥にも強くなると考えられています。
では、少し詳しく見てみましょう。
(1) について。
光合成反応では、光のエネルギーを利用して空気中の二酸化炭素を固定して炭水化物が作られます。C3光合成とC4光合成では、二酸化炭素を固定してできる最初の反応産物が違います。C3光合成では炭素(元素記号C)を3つ含む化合物(C3化合物)が、C4光合成では炭素を4つ含む化合物(C4化合物)が、それぞれ作られます。それが、C3とかC4とかいう名前の由来です。
(2) について。
どうしてそのような違いがでるのかというと、最初に二酸化炭素を固定して有機化合物にする反応を触媒する酵素が違うからです。
C3光合成では、空気中の二酸化炭素(二酸化炭素は炭素を1つ含む化合物ですね)を炭素を5つ含む化合物に結合させて炭素6つの化合物を作りますが、これはすぐに分解してしまい、C3化合物が2つできます。
この反応を触媒するのはRubisco(ルビスコ)と呼ばれる酵素で、反応は葉肉細胞の中の葉緑体という細胞器官の中で起こります。
C3光合成は光合成による二酸化炭素固定の基本的な形式です。大部分の植物はこのC3光合成を行います。
一方、トウモロコシやサトウキビなど一部の陸上植物は、C4光合成を行います。C4光合成を行う植物をC4植物といいます。C4植物の二酸化炭素固定の反応は少々複雑です。
まず、葉っぱの構造が普通のC3光合成を行う植物(C3植物といいます)と少し違います。C4植物では葉っぱの中の維管束の周りを取り囲む「維管束鞘細胞」という種類の細胞が葉緑体をもち、よく発達しているのが特徴です。この維管束鞘細胞のさらに外側を、葉肉細胞が放射状に取り巻いています。
このように、葉の維管束の周りを維管束鞘細胞と葉肉細胞が二重の花びらのように取り巻いている構造を「クランツ構造」といい、C4植物の葉の構造の大きな特徴です。(ちなみに、C3植物では維管束鞘細胞はそれほど発達しておらず、葉緑体をもちません。また、葉肉細胞は葉の表皮に平行に配列しています。)
C4光合成の二酸化炭素固定反応は、クランツ構造の外側にある葉肉細胞で始まります。葉肉細胞では、葉の中に取り込んだ二酸化炭素(正確には重炭酸イオンの形に変えられてから、ですが)を、C3化合物とくっつけてC4化合物を作ります。この反応を触媒するのはPEPC(ペップシー、と読むことが多いようです)と呼ばれる酵素で、反応は葉肉細胞の中の細胞質で起こります。しかし、この反応はあくまでも「仮固定」と呼ぶべきものです。作られたC4化合物は
お隣の維管束鞘細胞に運び込まれ、そこで待ち構えている別の酵素(脱炭酸酵素)の働きで、いったんくっつけた二酸化炭素を放出してしまいます。二酸化炭素を放出した残りの部分(C3化合物)は葉肉細胞に送り返され、そこで再び二酸化炭素をくっつける受け皿として使われます。このような反応がぐるぐると回ることによって、葉肉細胞を通って大量の二酸化炭素が維管束鞘細胞に運び込まれることになり、維管束鞘細胞の内部は二酸化炭素の農度がとても高くなります。
維管束鞘細胞の中の葉緑体には、普通のC3植物と同じようにRubiscoという酵素がいて、高い二酸化炭素濃度の下で効率良く二酸化炭素固定反応を進めます。
このように、C4光合成では通常のC3光合成と同じ反応を維管束鞘細胞の葉緑体が行っており、葉肉細胞はひたすら維管束鞘細胞の中に二酸化炭素を送り込むポンプの役割をしているのです。
では、二酸化炭素の濃度を高めてやることにどのような意味があるのでしょうか。実は、光合成による二酸化炭素の固定で大事な役割を果たしているRubiscoという酵素には大きな欠点があります。ひとつは、反応を進める速度がもともと遅く、しかも、二酸化炭素の濃度が低くなると、さらに遅くなってしまうこと。もうひとつは、二酸化炭素の代わりに(間違って)酸素をくっつける反応をしてしまうこと。しかも、二酸化炭素の濃度が低く、酸素濃度が高くなると、間違える確率が高くなります。間違えて酸素をくっつける反応をしてしまうと、炭水化物の合成量が減って損をするだけではなく、毒性のある化合物ができてしまうのでその後始末をするのにも大変な労力が要ります。二酸化炭素の濃度を高めておいてやると、Rubiscoという酵素のこうした欠点が現れないようにすることができ、二酸化炭素の固定を効率良く進めることができるのです。
(3) について。
(強光)普通のC3植物の場合、強い光の下では二酸化炭素の濃度の方が律速になって光合成による炭素固定反応の速度が低く抑えられてしまいます。しかし、C4植物では二酸化炭素濃縮の仕組みがあるため、二酸化炭素濃度が律速になって光合成速度が低く抑えられてしまうことはあまり起こらず、光エネルギーを十分に利用して高い速度で炭素固定反応を行うことができるのです。
(高温)また、Rubiscoが間違って酸素をくっつける反応を触媒してしまう確率は、温度が高くなるほど高くなる傾向があります。C4植物ではRubiscoの反応の間違いを起こらないようにしていますから、温度が高くても大丈夫です。
(乾燥)光合成で利用される二酸化炭素は、葉の表面に空いている「気孔」という穴を通って外気から補充されます。しかし、気孔が開いていると植物体の水分は気孔を通ってどんどん外気に出ていって失われてしまいます。乾燥した気候では、植物は気孔を閉じ気味にして水分の損失をおさえます。すると、二酸化炭素の補充も困難になり、普通のC3植物ではRubiscoによる二酸化炭素固定反応の速度ががた落ちになってしまいます。一方、C4植物が二酸化炭素濃縮のために使っている酵素、PEPCは二酸化炭素の濃度が低くても高い反応速度を保てる、という特徴があります。ですから、水不足を感じた植物が水分の損失を押さえるために気孔を閉じ気味にした結果、葉内の二酸化炭素濃度が低下したとしても、それを掻き集めて維管束鞘細胞に送り込むことができます。そのおかげで実際に二酸化炭素を固定する酵素、Rubiscoの周りは二酸化炭素の濃度が高く保たれ、二酸化炭素固定反応の速度も高く保たれるのです。
このような訳で、二酸化炭素濃縮機構を備えたC4植物は強光、高温、乾燥に強い性質を示すのです。実際にC4植物の分布を調べてみると、強光、高温、乾燥にさらされる地域に多く見られることが知られています。
奈良女子大学
酒井 敦
回答日:2006-08-10
酒井 敦
回答日:2006-08-10