一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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色んな色でも植物は育つの?

質問者:   会社員   大西一寿
登録番号0218   登録日:2005-02-24
水草や水中で育つ藻類について,質問です。

水溶液が赤褐色でもその中に入っている植物は問題なく育つのでしょうか?

光の遮りで光合成がうまくいかないものなのでしょうか?
植物の増殖には,赤色光が重要だと聞きます。

また緑色溶液だったら?黄色溶液だったら?赤色溶液だったら?

教えてください。
大西 一寿さま

 植物は光合成を行うために、光が必要です。光合成色素には、クロロフィル、カロテノイドなどがあります。クロロフィルは青い光と赤い光を、カロテノイドは青い光を選択的に吸収しますので、これらの光が無いところでは植物は育ちにくいと考えられます。しかし、藍藻や紅藻では、これらに加え光合成の集光性色素としてフィコビリンを持っていますので、緑の光(500-600 nm)も効率よく利用できます。
 水は、可視光(400-750 nm)を透過させる(とは言うものの、水深が10 mくらいになると、可視領域の短波長側と長波長側の光は届かず青い光がほとんどになりますが、浅い水槽では可視光全てが届いていると考えていいでしょう)ため、上で述べた光を、水生植物や藻類は有効に利用していると考えられます。
 ところでご質問ですが、水に色素を溶かして色を変えた時、植物は無事に育つかという内容かと思われます。これはとてもおもしろい実験だと思います。しかし、用いる色素化合物が化学的に植物体に影響を与えないことが肝心です。そして次のことにも注意すべきです。例えば赤や緑の色素でも(人間の目にはそのような色に見える場合でも)、赤だけあるいは緑の光だけを透過していることはまずありませんので、光を強くした場合(人間の目には依然として同じ色に見えていても)混じっている他の色の光に応答する可能性があります。たいていの色素化合物は、実験用に設計されたフィルターほどには特定の光をシャープに通したりカットしたりしません。また、色素化合物は水に溶けた状態では光によって別の化合物に変化したり分解したりすることも考慮に入れなければなりません。主としてこれら3つの理由からと思われますが、色素水溶液中で植物を育てる実験は、私の知る限り、無いようです。従ってご質問に的確にお答えすることはできないのが残念です。しかし試してみたら面白いかもしれませんね。
 あくまでも推測ですが、フィコビリンを持たない藻類は、緑の水ではとても育ちにくいのではないでしょうか。しかし、他の色の場合、十分な光量を供給できれば、特定の色の光がなくても、光合成には支障をきたさず育つと思われます。
 それとは別に、水生植物や藻類の形態は水の色によって変化すると考えられます。というのは、植物は光を光合成だけに用いているのではなく、自らの生育環境を知る情報としても利用し、その環境に最も適した姿、かたちになろうとする機能を持っているからです。情報としての光は、わずかな光で十分です。そして光合成色素とは異なるいくつかの色素を光受容体として用いています。光の色が異なれば、活性化される光受容体も異なります。したがって誘起される遺伝子発現も異なり、それによって様々な形態に成長分化すると考えられます。これに関わる光受容体は、フィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピンなどがあります。フィトクロムは主に赤と遠赤色(700-750 nm)の光を、クリプトクロムやフォトトロピンは主に青色光を感知し、植物の背丈や葉の大きさを調節し、種子発芽や花芽形成などを引き起こしています。水生植物や藻類にもこれらの光受容体が存在しますので、赤や青さらに遠赤色光の割合を変えると、異なる形態形成反応が引き起こされることが調べられています。それらは植物種によって異なり、光量、波長(色)、日の長さなどが複雑に影響を及ぼしあっていますので、何色ではどうなるというようには、答えられないように思います。
 水生植物や藻類の光に対する反応には、まだまだ知られていないものが多く残されています。水の色を変えて、様々な植物を育てて見ると、とても面白い発見があるかもしれません。これからも興味を持って観察していただければ嬉しいです。
神戸大学
 七条 千津子
回答日:2009-07-03