質問者:
その他
mie
登録番号0230
登録日:2005-04-12
はじめまして。よろしくお願いいたします。みんなのひろば
石灰岩地帯の植物について。
趣味でいくつかの熱帯性の地生蘭を栽培しております。
何でも自生地では石灰岩の上に堆積した少しの腐葉土や水苔に根を伸ばして生育しているとの事なのですが、実際こういった植物が生育している土壌のpHはアルカリ性なのでしょうか?もしくは腐食質から酸性なのでしょうか?
相反した要素を持った所に自生しているようで栽培に悩みます。
また一方で、土壌中の無機塩類を嫌うとの事です。
となると土壌は酸性であるということなのでしょうか。
実際のところ、石灰岩地帯に生息する植物は、どういった植物生理学的な特徴を持っているものなのでしょうか?
不躾な質問ではありますが、よろしくお願いいたします。
mieさん
こんにちは。蘭の栽培が趣味なのですね。石灰岩地帯の腐葉土やコケに生えている地生蘭というと、マコデスかなにか宝石蘭の類でしょうか?その類でしたら、石灰分の有無を気にしなくても、ガラス瓶に入れ、水苔単用で植えれば結構機嫌良く育ちます。水苔はほとんど無機塩類を含まないので、栽培に好適ですね。このように、普通は石灰のことを考慮しないでも大丈夫です(ただし中には、石灰を好む種もあることはあります)。この時、無機塩類を多くするとよくないのは、もともと貧栄養(カルシウムイオンばかりで、無機窒素やリンなどがほとんどない)な石灰岩地帯に適応してしまったからで、富栄養の時に節制できないためです。基本は上述の通りですが、実際の栽培に関しては、ケース・バイ・ケースというのが、本当のところでしょう。
一般に、石灰岩地帯で目立つ植物には、アルカリ環境に対する性質で言って2通りのものがあります。1つは、石灰質を本当に好む種です。この場合は、アルカリ環境あるいはカルシウムイオンがあると生育が促進されます。ホウレンソウみたいな植物ですね。もう1つは、アルカリ環境あるいは高濃度のカルシウムイオンが好きというわけではないが、それに耐える能力が優れている、というタイプです。この場合は、過酷な環境でも生育できるという特長を生かして、他の植物との間の競争を避けているわけです。何しろ固着生活をしている植物という生き物にとって、他の近隣の植物との間の競争は、極めて深刻な問題です。それを避けることさえできれば、少しくらい住みにくくても良いわけですね。それで面白いのは、渓流沿い植物というものです。拙著『植物のこころ』(岩波新書)に少し紹介していますので、良かったら読んでみてください。川沿いの水を浴びる環境に適応して葉が細くなった植物のことで、他の植物が入り込めない激流の周辺で反映していますが、決して競争の激しい森の中には入れません。盆栽に好まれるサツキはその一つです。
一方、話を戻して、石灰岩地帯の植物について言えば、私の経験では、こういう例があります。東南アジア熱帯の石灰岩地帯に生えるモノフィレアという植物(これは蘭ではなくイワタバコ科です)の場合、自生地では鍾乳石からの滴りのみで暮らしています。この滴りは、測定してみると、炭酸カルシウムの飽和水溶液に相当し、普通の植物は到底耐えられません。試しにシロイヌナズナという実験植物の種を播いてみると、このような条件下では、双葉が出ると共に枯れてしまいます。そんな環境でもモノフィレアは元気に暮らしていますが、栽培してみると、石灰もアルカリも一切要求しないのです。このように、栽培条件下のように、他の植物との競争をしないで済む場合は、わざわざ石灰分を与えなくてもよいことも多いわけです。実は、石灰岩地帯に限らず、特殊環境に暮らす植物の中には、特殊環境が好きなわけではなく、特殊環境に逃げ込んでいるだけ、というものが少なくありません。そういうものの場合は、栽培条件下では、ごく普通の土壌とごく普通の肥料を与えれば、自生地以上に元気に育つこともあるわけです。
なお蘭の中には、蟻と共生して、蟻に周りの環境を酸性にしてもらい、それに依存して暮らしているものも知られています。こういうものの場合は、栽培する場合も、土壌を酸性にしておかないと機嫌が悪くなるようです(拙著『蘭への招待』<集英社新書>にごく簡単に触れてありますのでご参考になさってください)。
こんな所でお答えになったでしょうか?植物を栽培する場合、自生地の環境を実際に目にすることは大事ではありますが、それに縛られてしまうと、本当の植物の欲求を満たせないこともあります。ご留意下さい。
こんにちは。蘭の栽培が趣味なのですね。石灰岩地帯の腐葉土やコケに生えている地生蘭というと、マコデスかなにか宝石蘭の類でしょうか?その類でしたら、石灰分の有無を気にしなくても、ガラス瓶に入れ、水苔単用で植えれば結構機嫌良く育ちます。水苔はほとんど無機塩類を含まないので、栽培に好適ですね。このように、普通は石灰のことを考慮しないでも大丈夫です(ただし中には、石灰を好む種もあることはあります)。この時、無機塩類を多くするとよくないのは、もともと貧栄養(カルシウムイオンばかりで、無機窒素やリンなどがほとんどない)な石灰岩地帯に適応してしまったからで、富栄養の時に節制できないためです。基本は上述の通りですが、実際の栽培に関しては、ケース・バイ・ケースというのが、本当のところでしょう。
一般に、石灰岩地帯で目立つ植物には、アルカリ環境に対する性質で言って2通りのものがあります。1つは、石灰質を本当に好む種です。この場合は、アルカリ環境あるいはカルシウムイオンがあると生育が促進されます。ホウレンソウみたいな植物ですね。もう1つは、アルカリ環境あるいは高濃度のカルシウムイオンが好きというわけではないが、それに耐える能力が優れている、というタイプです。この場合は、過酷な環境でも生育できるという特長を生かして、他の植物との間の競争を避けているわけです。何しろ固着生活をしている植物という生き物にとって、他の近隣の植物との間の競争は、極めて深刻な問題です。それを避けることさえできれば、少しくらい住みにくくても良いわけですね。それで面白いのは、渓流沿い植物というものです。拙著『植物のこころ』(岩波新書)に少し紹介していますので、良かったら読んでみてください。川沿いの水を浴びる環境に適応して葉が細くなった植物のことで、他の植物が入り込めない激流の周辺で反映していますが、決して競争の激しい森の中には入れません。盆栽に好まれるサツキはその一つです。
一方、話を戻して、石灰岩地帯の植物について言えば、私の経験では、こういう例があります。東南アジア熱帯の石灰岩地帯に生えるモノフィレアという植物(これは蘭ではなくイワタバコ科です)の場合、自生地では鍾乳石からの滴りのみで暮らしています。この滴りは、測定してみると、炭酸カルシウムの飽和水溶液に相当し、普通の植物は到底耐えられません。試しにシロイヌナズナという実験植物の種を播いてみると、このような条件下では、双葉が出ると共に枯れてしまいます。そんな環境でもモノフィレアは元気に暮らしていますが、栽培してみると、石灰もアルカリも一切要求しないのです。このように、栽培条件下のように、他の植物との競争をしないで済む場合は、わざわざ石灰分を与えなくてもよいことも多いわけです。実は、石灰岩地帯に限らず、特殊環境に暮らす植物の中には、特殊環境が好きなわけではなく、特殊環境に逃げ込んでいるだけ、というものが少なくありません。そういうものの場合は、栽培条件下では、ごく普通の土壌とごく普通の肥料を与えれば、自生地以上に元気に育つこともあるわけです。
なお蘭の中には、蟻と共生して、蟻に周りの環境を酸性にしてもらい、それに依存して暮らしているものも知られています。こういうものの場合は、栽培する場合も、土壌を酸性にしておかないと機嫌が悪くなるようです(拙著『蘭への招待』<集英社新書>にごく簡単に触れてありますのでご参考になさってください)。
こんな所でお答えになったでしょうか?植物を栽培する場合、自生地の環境を実際に目にすることは大事ではありますが、それに縛られてしまうと、本当の植物の欲求を満たせないこともあります。ご留意下さい。
基礎生物学研究所
塚谷 裕一
回答日:2009-07-03
塚谷 裕一
回答日:2009-07-03