質問者:
その他
大海のぞみ
登録番号0235
登録日:2005-05-04
初めての質問にもかかわらず、単刀直入で申し訳ないのですが・・・みんなのひろば
植物の斑入りについて
葉や花の斑入りの発生の仕方、また同一株にもかかわらず、形状や部位が一定しない理由について教えて下さい。
ある程度は調べられるのですが、どうがんばってみてもはっきりした答えが得られないもので、もと農大生ながら恥ずかしくもありますが・・・
大海 のぞみ様
植物の斑入りがなぜおこるかについては、現在でもわかっていないことが多いですが、一般的な現象としては以下のような理由が挙げられます。
遺伝学的な理由:
花色で最も有名な例は、絞りアサガオなどの斑入りで、これはトランスポゾンという、動く遺伝子の作用により引き起こされることがわかっています。トランスポゾンとはDNAの中を動くことができる(つまりあるDNAの領域から他の領域へ転移できる)遺伝子のことです。例えば、これが、花の色を紫にする遺伝子に入っていると、遺伝子が不活化されるため、全ての花弁が白い花になりますが、もし花弁の発達中にトランスポゾンが転移して遺伝子の働きが回復するとその部分だけが紫になります。転移性のトランスポゾンは、多くの植物に存在することが明らかになっており、トウモロコシ、イネ、ペチュニア、キンギョソウなどでよく研究されています。トランスポゾンが原因となる葉の斑入りは、あまり報告がないですが、ないことはないです。
それから、細胞質ゲノムの突然変異による葉の斑入り、という例も知られています。遺伝子の殆どは核ゲノムの染色体にありますが、植物細胞では葉緑体とミトコンドリアにもDNAゲノムが存在し、遺伝子を持っています。1つの細胞にはたくさんの葉緑体とミトコンドリアが存在し、それぞれがDNAを持っています(つまり通常は突然変異があってもマスクされて出てきません)。ところが、葉緑体やミトコンドリアDNAに突然変異が生じ、それらが分離して蓄積すると、その変異が生じた部分が白い組織になってセクター状になる、という斑入りの例が知られています。
以上のような例は、遺伝的に起こる斑入りの典型例ですが、一般的な斑入りがこのようなしくみでおこるかはわかっておらず、筆者らはむしろ例外的だと考えています。
生理学的な理由:
上の様な例の他に、ある遺伝子が欠損することで葉に斑入りが起こる現象も多く知られています。この場合は、トランスポゾンと違って遺伝子が動くことはなく、均一に突然変異が起こりますが、葉緑体の機能が何らかの影響を受けることで一部の細胞は白くなり、一部の細胞は緑のままになります。原因となる遺伝子については、光合成の機能に関係すると言われていますが、様々な例があります。この場合、原因となる遺伝子についてはもっと詳しく話すことができますが(詳しくは参考文献を見て下さい)、ご質問のように「なぜ斑入りになるか」はよくわかっていません。
植物の葉は、光や温度などの条件に応答して光合成やその他の代謝機能を変化させます。その結果として、強い光で育てると斑になったりすることがあります。また、外的要因の一つとして、ウイルスなどの感染に応じて組織に斑入りの様な「病候」を作ることもあります。これらは植物自体の適応反応として斑を作るわけですが、なぜそうなるかはよくわかっていません。植物は、生長点という分裂組織から再生するために、葉の一部が白くなって死んでも生き延びることができます。このように、植物は斑入りになることで劣悪な環境条件から自分自身を守っている、と考えることもできますが、科学的には証明されていません。
発生学的な理由:
遺伝子の影響が詳しく調べられる以前の、教科書などに書いてある葉の斑入りには、例えば「周縁キメラ」という例が書いてあります。これは茎頂分裂組織(葉を作るもとの細胞)において、特定の領域で色素の形成や葉緑体の分化がおかしくなると、その結果として葉の周縁部のみが白い斑入りとなる例で、発生段階における変化が結果として斑入りとなる、ということが書かれています。このように、ある種の斑入りによっては「パターン」を示すので、発生学的に原因を考えるべきです。ただし、葉の発達には光が必要であり、そのような意味で上述した生理学的な理由とも関連するので、葉緑体の発達がどうして特定の段階で異常となり斑入りを生じるのかは、遺伝子のレベルではわかりません。
おわりに
園芸植物や山野草などで斑入りの植物は珍重されていますが、斑入りといっても、いろいろなパターンがあるので一言でどのようなものを指すのかあいまいなことがあり、注意が必要です。さらに、花の斑入り、葉の斑入り、また、単子葉や双子葉植物の斑入りでは異なっています。ここではわかる範囲内でこれまでにわかっている斑入りのメカニズムについて書きましたが、他にも様々な現象があるかもしれません。筆者は、そのような植物の多様性が興味深いと思っています。
参考文献(少し古いですがもう少し遺伝子に興味があれば読んで下さい)
武智克彰・坂本 亘 (2002) 「斑入り」葉緑素突然変異体を用いた原因遺伝子の研究と最近の知見. 育種学研究. 4: 5-11.
植物の斑入りがなぜおこるかについては、現在でもわかっていないことが多いですが、一般的な現象としては以下のような理由が挙げられます。
遺伝学的な理由:
花色で最も有名な例は、絞りアサガオなどの斑入りで、これはトランスポゾンという、動く遺伝子の作用により引き起こされることがわかっています。トランスポゾンとはDNAの中を動くことができる(つまりあるDNAの領域から他の領域へ転移できる)遺伝子のことです。例えば、これが、花の色を紫にする遺伝子に入っていると、遺伝子が不活化されるため、全ての花弁が白い花になりますが、もし花弁の発達中にトランスポゾンが転移して遺伝子の働きが回復するとその部分だけが紫になります。転移性のトランスポゾンは、多くの植物に存在することが明らかになっており、トウモロコシ、イネ、ペチュニア、キンギョソウなどでよく研究されています。トランスポゾンが原因となる葉の斑入りは、あまり報告がないですが、ないことはないです。
それから、細胞質ゲノムの突然変異による葉の斑入り、という例も知られています。遺伝子の殆どは核ゲノムの染色体にありますが、植物細胞では葉緑体とミトコンドリアにもDNAゲノムが存在し、遺伝子を持っています。1つの細胞にはたくさんの葉緑体とミトコンドリアが存在し、それぞれがDNAを持っています(つまり通常は突然変異があってもマスクされて出てきません)。ところが、葉緑体やミトコンドリアDNAに突然変異が生じ、それらが分離して蓄積すると、その変異が生じた部分が白い組織になってセクター状になる、という斑入りの例が知られています。
以上のような例は、遺伝的に起こる斑入りの典型例ですが、一般的な斑入りがこのようなしくみでおこるかはわかっておらず、筆者らはむしろ例外的だと考えています。
生理学的な理由:
上の様な例の他に、ある遺伝子が欠損することで葉に斑入りが起こる現象も多く知られています。この場合は、トランスポゾンと違って遺伝子が動くことはなく、均一に突然変異が起こりますが、葉緑体の機能が何らかの影響を受けることで一部の細胞は白くなり、一部の細胞は緑のままになります。原因となる遺伝子については、光合成の機能に関係すると言われていますが、様々な例があります。この場合、原因となる遺伝子についてはもっと詳しく話すことができますが(詳しくは参考文献を見て下さい)、ご質問のように「なぜ斑入りになるか」はよくわかっていません。
植物の葉は、光や温度などの条件に応答して光合成やその他の代謝機能を変化させます。その結果として、強い光で育てると斑になったりすることがあります。また、外的要因の一つとして、ウイルスなどの感染に応じて組織に斑入りの様な「病候」を作ることもあります。これらは植物自体の適応反応として斑を作るわけですが、なぜそうなるかはよくわかっていません。植物は、生長点という分裂組織から再生するために、葉の一部が白くなって死んでも生き延びることができます。このように、植物は斑入りになることで劣悪な環境条件から自分自身を守っている、と考えることもできますが、科学的には証明されていません。
発生学的な理由:
遺伝子の影響が詳しく調べられる以前の、教科書などに書いてある葉の斑入りには、例えば「周縁キメラ」という例が書いてあります。これは茎頂分裂組織(葉を作るもとの細胞)において、特定の領域で色素の形成や葉緑体の分化がおかしくなると、その結果として葉の周縁部のみが白い斑入りとなる例で、発生段階における変化が結果として斑入りとなる、ということが書かれています。このように、ある種の斑入りによっては「パターン」を示すので、発生学的に原因を考えるべきです。ただし、葉の発達には光が必要であり、そのような意味で上述した生理学的な理由とも関連するので、葉緑体の発達がどうして特定の段階で異常となり斑入りを生じるのかは、遺伝子のレベルではわかりません。
おわりに
園芸植物や山野草などで斑入りの植物は珍重されていますが、斑入りといっても、いろいろなパターンがあるので一言でどのようなものを指すのかあいまいなことがあり、注意が必要です。さらに、花の斑入り、葉の斑入り、また、単子葉や双子葉植物の斑入りでは異なっています。ここではわかる範囲内でこれまでにわかっている斑入りのメカニズムについて書きましたが、他にも様々な現象があるかもしれません。筆者は、そのような植物の多様性が興味深いと思っています。
参考文献(少し古いですがもう少し遺伝子に興味があれば読んで下さい)
武智克彰・坂本 亘 (2002) 「斑入り」葉緑素突然変異体を用いた原因遺伝子の研究と最近の知見. 育種学研究. 4: 5-11.
岡山大学
坂本 亘
回答日:2009-07-03
坂本 亘
回答日:2009-07-03