一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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スタトリス説について

質問者:   大学生   遠藤晴美
登録番号0258   登録日:2005-05-24
大学の授業で「スタトリス説」が出てきたのですが、詳しい説明がなかったので、どういう説なのか教えて下さい。
わたしは、高校の時、生物を習ってなかったので、詳しい説明をお願いします。
遠藤晴美さま
 みんなの広場にご質問をお寄せ下さりありがとうございました。

植物の根が下(重力の方向)に向って伸びる屈地性を持っていることはご存知だと思います。このような性質を持つ根を横に寝かせますと、根の先端だけが下に向って伸び出すのですが、根の先端の先についている根冠というものを取り除いてしまうと、根の先端は横をむいたまま伸びます。このことから、どちらが下なのか(重力の方向)を感じ取る仕組みは根冠の中にある筈だと考え根冠を調べてみますと、根冠の中に、他の場所では見かけない、特別な細胞があることが分かります。どんな細胞かというと、アミロプラスト(大きなデンプン粒を持った色素体)を沢山持っている細胞です。
このアミロプラストは比重が大きいので、いつも下に沈んでいます。根が正常な位置、つまり下を向いている時は、アミロプラストはこの細胞の床に当たる場所の上にありますが?を寝かすと、アミロプラストはこの細胞の壁に当たる面に転がり落ちることになります。この特殊な細胞を平衡細胞(スタトサイト)またアミロプラストを平衡石(スタトリス)と呼びますが、スタトリスが床の上にあるか、壁の上にあるかによって根がどちらが下かを判断しているのだという考えが「スタトリス説」です。スタトリス説は以上述べたような観察結果に基づいて立てられた単なる説でしたが、アミロプラストの中にデンプン粒が溜まらない突然変異株では屈地性が弱いことなどが明らかになり、スタトリス説は正しいものと思われるようになっています。スタトリス説が正しいとなると、それでは平衡細胞はどのようにして、スタトリスが床の上にあるのか、壁の上にあるのかを判断しているのかが問題になりますが、目下のところ、みんなに受け入れられるような説得力のある説はありません。もっと、お知りになりたけらば、ちょっと古いですが、「新版植物の形を決める分子機構」(秀潤社、2000)の中の深城・田坂両氏の総説などがあります。平衡細胞が根冠の中のどこにあるか、どんな形をしているのかくらいでしたら拙著「植物は形をかえる」(共立出版、2003)でも分かります。 
 
JSPPサイエンスアドバイザー
 柴岡 弘郎
回答日:2009-07-03