一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の免疫について

質問者:   その他   まきー
登録番号0265   登録日:2005-05-30
初めて質問させていただきます。以前から疑問に思っていたのですが、哺乳類等の複雑な免疫システムに比べ、植物はあまり最近やウイルスに対する防衛策を持っていない様に思われるのですが…

植物は、

1.感染による枯死のリスクを上回るだけ種子を作る。
2.抗生物質等による免疫システムで十分に対応できる。
3.細胞壁のおかげで動物に比べてずっと感染のリスクを回避している。

などと考えてみたのですがどうでしょうか?
的外れかもしれませんが、回答をお願いいたします。
まきーさま
 みんなの広場へのご質問有難うございました。植物の持つ防御システムについての研究の第一人者である岡山大学の白石友紀先生にご回答をお願いいたしましたところ、以下のような、ご回答が寄せられましたので、お届けします。

さて、御質問への回答案ですが、植物は、厳密な意味でほ乳類のような免疫システムは見つかっていません。
ほ乳類の免疫は特異性が大変高いですので。
結論から言いますと、まきさんの答えのいずれも正しい(特に、2と3は正解)といえます。
1:
確かに植物の子孫の作り方は、r戦略(多数の子孫を残す)に近いかもしれませんね。カビの病気の一つ「うどんこ病」(大変寄生性が強い病気です)に感染したムギ類でも、種としては、十分種子を作って世代を回すことができます(人が種子を利用するため問題となりますが)。一方、種子を取れないくらい激しく枯れ上がる病気もありますが、この場合発病は一地域や個体別に限られるようです。一般に、一つの病原体が感染できる植物種は限られています(これを宿主特異性とか寄生の特異性とかいいます)ので、種全体がダメージを受けるような病気はむしろ地球上から消えてしまう可能性をもっています。
2+3:
例えば、カビ(植物の病気の80%はカビによって起こります)や細菌などの微生物に対しては、もともと備えているフェノール類、サポニン、アルカロイドなどの抗菌性物質、新しく生産する低分子抗菌性物質(総称してファイトアレキシンといいます)や抗菌性タンパク質などを生産して自らを守っています。これらの抗菌性物質は比較的幅広い微生物の生育を阻害することがしられています。また、細胞壁に、リグニンを蓄積したり、細胞壁にあるタンパク質を活性酸素(過酸化水素)で架橋したり、珪酸を集積したり、より強固にして、侵入に対する物理的なの防壁とすることも知られています。一方、ウイルスですが、これに対する抵抗性としては、(増殖に宿主の細胞が必要ですので)入り込んだ細胞のプログラム細胞死が大きい防御となります。抵抗性品種も作られており、複製過程に必須な宿主のタンパク質が欠けていたり変異していたりということも判っています。また、増殖しても隣の細胞、そして、全身にウイルスが移行できない仕組みもあります(この実態は研究中)。さらに、ほ乳類のワクチンと少し似ているのは、弱毒ウイルスを接種しておくと(弱毒ウイルスも増殖し全身に広がりますが、顕著な病気はおこしません)、次に侵入した強毒ウイルスに耐病性を持つようになるという現象もあります。また、新入部に壊死斑を形成するようなウイルスの感染を受けると、他のカビや細菌にも抵抗性を示す例もあります。この他にも植物は色々な抵抗性を備えて自らを守っています。ある種の薬剤や熱処理等で抵抗性の発揮を抑えてやると、もともと感染できなかった病原体が日和見感染するようになることから、やはり植物でも、抵抗性(特に病原体と遭遇して発現する)が大切だと言うことが判っています。
このように植物には独自の防御システムが発達しています。勿論研究しなくてはいけない事は沢山ありますので、興味があれば是非チャレンジして下さい。
養賢堂「新編植物病理学概論」や秀潤社「分子から見た植物の耐病性」などを参考にして下さい。
 白石 友紀(岡山大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
 柴岡弘郎
回答日:2009-07-03