一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

原形質流動の役割について

質問者:   その他   あゆむ
登録番号0298   登録日:2005-07-05
例えばアメーバが原形質流動で移動しているのはわかります。

では何故、動かなくてもよい植物の細胞の中でも原形質流動が起きているのでしょうか?
原形質流動は植物の成長に影響しているのですか?
教えてください。
あゆむ様
 みんなの広場へのご質問有難うございました。東京大学名誉教授の田沢 仁先生に回答をお願いいたしましたところ、以下のような、ご質問に対する回答の他に、原形質流動の機構に関することまで含めた丁寧な回答を頂きました。お役に立つに違い無いと思っております。

原形質流動の役割
植物細胞は、分裂直後の小さいときは原形質(細胞質)は流動せず、細胞質の揺らぎ運動(agitation)がみられる。これは一種の撹拌運動である。細胞が成長するにしたがって、液胞が発達し、細胞質は細胞の周辺に偏って存在するようになると、方向性を持った活発な流動が見られるようになる。流動は大きい細胞(数百ミクロンから数センチにも達するものもある)の内部の物質環境を一定に保つ働きがあると考えられる。急速に先端成長する細胞、たとえば花粉管や根毛では、流動が活発で(1秒に3-10ミクロン)基部から先端部に向けて盛んに先端の成長に必要な物質を輸送する。タンパク質などは小胞に包まれて運ばれ、先端に達した小胞は細胞膜と融合し、膜の伸展に貢献する。放出された内容物は細胞壁の合成に役立つ。サイトカラシンと呼ばれる阻害剤で流動を阻害すると、先端成長も阻害される。植物細胞の細胞間物質輸送は、原形質連絡と呼ばれる狭い通路を通して行われる。原形質流動を阻害すると、光合成産物などの細胞間輸送も流動速度の低下に伴って少なくなる。このように原形質流動は、細胞内の物質や小胞の輸送に不可欠の機構で、これが阻害されると成長も阻害される。
 植物の原形質流動は小胞に足場をもつ運動タンパク質の一種ミオシンがレールとなるアクチン繊維(タンパク質アクチンの重合体)の上を滑っていく。動物でも組織を構成する細胞は、植物細胞と同様に、移動しない細胞が大部分である。神経細胞は細胞体とこれから伸びる長い軸索からなる。軸索の成長、維持に必要な栄養やタンパク質は、小胞に包まれて細胞体から運ばれる。この軸索内輸送は小胞に足場を持つ別の運動タンパク質のキネシンが微小管(タンパク質チューブリンの重合体)と呼ばれるレールの上を滑っていくことによって行われる。運動タンパク質はエネルギー源のATPを加水分解することによって運動エネルギーを得ている。

 田沢 仁(東京大学名誉教授)
JSPPサイエンス・アドバイザー
 柴岡 弘郎
回答日:2009-07-03
植物 Q&A 検索
Facebook注目度ランキング
チェックリスト
前に見たQ&A
入会案内