質問者:
会社員
川崎
登録番号0323
登録日:2005-08-03
一般的に植物のクロロフィルは、植物細胞内で何時間ぐらいで(何日くらいで)失活し、新しいものに置き換わる(ターンオーバーする)のでしょうか?
みんなのひろば
クロロフィルのターンオーバー
川崎 様
暑い毎日が続きますが、光合成生物がもっているクロロフィールのターンオーバーについてのご質問、ありがとうございます。これは重要ですがデーターが少ないためになかなかの難問で、北大の田中 歩先生からも最新の情報を頂きました。
葉の細胞でクロロフィルはすべて葉緑体に局在し, さらに葉緑体の中のチラコイド膜に結合して太陽光エネルギーを捕捉しています。クロロフィルは葉緑体・チラコイド膜では全て蛋白質に結合し、光エネルギーを捕捉しています。(これは蛋白質に結合していない(遊離の)クロロフィルに光が照射されると、活性酸素が生じ葉緑体にとって危険になるためです。)
チラコイド膜に結合しているクロロフィル蛋白質は、大まかに、光エネルギーを集めるための(1)アンテナ・クロロフィル蛋白質と、これによって集められた光エネルギーを化学エネルギーに変換し葉緑体電子伝達系に電子を供給する役割をもつ(2)反応中心クロロフィル蛋白質に分けられます。葉緑体クロロフィルの大部分は(1)の形で存在し、(2)は全クロロフィルの0.2%以下です。
光合成反応の間に、その反応装置であるクロロフィル蛋白質は傷害を受けます。特にこれは環境ストレスが大きいときに生じやすく、傷害を受けると(1)、(2)のクロロフィル蛋白質の機能ができなくなり、蛋白質が分解します。この際、蛋白質が再合成されてチラコイド膜に再び組み込まれ光合成活性を維持しています。アンテナ・クロロフィル蛋白質に比べ、反応中心クロロフィル蛋白質(特に光化学系IIのD1蛋白質)が傷害を受けやすいのですが、この蛋白質のターンオーバーとクロロフィルのターンオーバーとの関係については以下の田中 歩先生のコメントをご覧下さい。
クロロフィルの合成、分解について研究されている北海道大学・低温科学研究所の田中 歩 教授から、光合成生物でのクロロフィル・ターンオーバーについて、最新の以下の情報を頂きましたので、現在どの程度までこの問題が解明されているかをご理解ください。
クロロフィルの分解は、皆さん興味を持っておられますが,まだ良く理解されていません.先日,国際会議があり、そこでも分解が話題に上りましたが、正確な値はまだわからないのが共通した意見でした。
しかし、シアノバクテリア(ラン藻)を材料とした研究では、かなり信頼できる結果が報告されています(2005年)。これは、窒素の安定同位体を利用した解析ですが、これによりますと,クロロフィルの半減期はおよそ300時間と報告されています.勿論この値は、ラン藻の生育条件によって変わることも考えられますが,およその値としては正しいと思います。
不思議なことに,クロロフィルを結合しているタンパク質の半減期は、最も早いD1というタンパク質で約2時間程度、それ以外のタンパク質もそれの数倍の寿命と計算されています.これは、クロロフィルの寿命と大きく異なります。クロロフィルを結合したタンパク質が分解しても,クロロフィルは分解されていないことになります.クロロフィルとタンパク質の寿命を調べた研究グループは,タンパク質から乖離したクロロフィルは、再び新しく合成されたタンパク質に組みこまれる,即ちクロロフィルは再利用されると結論しています。しかし、高等植物(陸上植物)に関しては数日という報告や,もっと短いという報告もあり,未だに信頼できる値は得られていません。これはラン藻に較べラベル実験が難しいのが一つの理由です.私は,根拠はありませんが,健康な葉ではあまり分解していないと考えています。
田中 歩(北海道大学・低温科学研究所)
暑い毎日が続きますが、光合成生物がもっているクロロフィールのターンオーバーについてのご質問、ありがとうございます。これは重要ですがデーターが少ないためになかなかの難問で、北大の田中 歩先生からも最新の情報を頂きました。
葉の細胞でクロロフィルはすべて葉緑体に局在し, さらに葉緑体の中のチラコイド膜に結合して太陽光エネルギーを捕捉しています。クロロフィルは葉緑体・チラコイド膜では全て蛋白質に結合し、光エネルギーを捕捉しています。(これは蛋白質に結合していない(遊離の)クロロフィルに光が照射されると、活性酸素が生じ葉緑体にとって危険になるためです。)
チラコイド膜に結合しているクロロフィル蛋白質は、大まかに、光エネルギーを集めるための(1)アンテナ・クロロフィル蛋白質と、これによって集められた光エネルギーを化学エネルギーに変換し葉緑体電子伝達系に電子を供給する役割をもつ(2)反応中心クロロフィル蛋白質に分けられます。葉緑体クロロフィルの大部分は(1)の形で存在し、(2)は全クロロフィルの0.2%以下です。
光合成反応の間に、その反応装置であるクロロフィル蛋白質は傷害を受けます。特にこれは環境ストレスが大きいときに生じやすく、傷害を受けると(1)、(2)のクロロフィル蛋白質の機能ができなくなり、蛋白質が分解します。この際、蛋白質が再合成されてチラコイド膜に再び組み込まれ光合成活性を維持しています。アンテナ・クロロフィル蛋白質に比べ、反応中心クロロフィル蛋白質(特に光化学系IIのD1蛋白質)が傷害を受けやすいのですが、この蛋白質のターンオーバーとクロロフィルのターンオーバーとの関係については以下の田中 歩先生のコメントをご覧下さい。
クロロフィルの合成、分解について研究されている北海道大学・低温科学研究所の田中 歩 教授から、光合成生物でのクロロフィル・ターンオーバーについて、最新の以下の情報を頂きましたので、現在どの程度までこの問題が解明されているかをご理解ください。
クロロフィルの分解は、皆さん興味を持っておられますが,まだ良く理解されていません.先日,国際会議があり、そこでも分解が話題に上りましたが、正確な値はまだわからないのが共通した意見でした。
しかし、シアノバクテリア(ラン藻)を材料とした研究では、かなり信頼できる結果が報告されています(2005年)。これは、窒素の安定同位体を利用した解析ですが、これによりますと,クロロフィルの半減期はおよそ300時間と報告されています.勿論この値は、ラン藻の生育条件によって変わることも考えられますが,およその値としては正しいと思います。
不思議なことに,クロロフィルを結合しているタンパク質の半減期は、最も早いD1というタンパク質で約2時間程度、それ以外のタンパク質もそれの数倍の寿命と計算されています.これは、クロロフィルの寿命と大きく異なります。クロロフィルを結合したタンパク質が分解しても,クロロフィルは分解されていないことになります.クロロフィルとタンパク質の寿命を調べた研究グループは,タンパク質から乖離したクロロフィルは、再び新しく合成されたタンパク質に組みこまれる,即ちクロロフィルは再利用されると結論しています。しかし、高等植物(陸上植物)に関しては数日という報告や,もっと短いという報告もあり,未だに信頼できる値は得られていません。これはラン藻に較べラベル実験が難しいのが一つの理由です.私は,根拠はありませんが,健康な葉ではあまり分解していないと考えています。
田中 歩(北海道大学・低温科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2009-07-03
浅田 浩二
回答日:2009-07-03