質問者:
その他
嶋田
登録番号0397
登録日:2005-10-15
植物細胞内には葉緑体が存在しますが、部位(根、葉、果実)によって、その存在程度(量)は変わってくると思います。DNAについて
量もさることながら、葉緑体ではなく、白色体など、として存在すると認識しています。
それらの有色体は大きさの違いはあるものの、発生源は同じであるため、すべて葉緑体と同じDNAを持つと考えられます。
果実内の葉緑体DNAの存在と挙動について以下の点についてお聞きします。
順番がバラバラで申し訳ありません。
1、果実内の葉緑体DNAは1細胞あたりで考えると、葉に比べて葉緑体の数は少なくなるのか。(genomeDNAとchloroplastDNAの比)
2、果実の葉緑体DNAは葉の葉緑体DNAと同じ大きさ(塩基数)であるのか。
3、細胞の大きさを考えた場合、葉よりも果実の方が新鮮重あたりの細胞数は少なくなり、その分葉緑体DNAも少ないのか。
4、果実の熟す過程(緑色→赤色)で、クロロフィルの分解?などが起こるが、その場合、葉緑体DNAも酵素などにより、分解が行われるのか。
5、果実で発現する遺伝子は存在するのか。(スクロース合成系の遺伝子など)
以上、非常に長くなりましたが、よろしくお願いいたします。
長すぎる場合は、削っていただいても結構です。
嶋田 様
最初に教科書的にコトバの整理をしておきます。色素体(プラスチッド、有色体)には、次の5種類があります。ここで、[ ]内にそれぞれの色素体を多く含む植物器官、組織を記しておきます。
1)カロチン、キサントフィール色素を含み黄、オレンジ、赤などの色を示すクロモプラスト[果実、花、根(ニンジンなど)]
2)デンプンを貯めこんでいる白色のアミロプラスト[貯蔵器官、根冠]
3)植物の香り成分や生薬成分となるテルぺンなどを合成するロイコプラスト(狭義の白色体)[表皮]
4)弱光、暗黒で生育した植物でみられるクロロフィールを含まないエチオプラスト[黄化葉]
5)植物が生育に適した光を受けると、分化して生じ、クロロフィールとカロチノイドを含み光合成を行う、文字通り緑色の葉緑体(クロロプラスト)[葉]
色素体は、分裂組織の細胞当り約20個含まれているプロプラスチッド(原色素体)から、分裂組織の成長に伴いそれぞれの器官、組織の細胞に特有の色素体に分化します。また、植物体の成長・分化や生育環境の変化に伴って、色素体は別の色素体に相互に変換することもあります。例えば、エチオプラストから光照射によって葉緑体に、花が分化するのに伴い葉緑体からクロモプラストになるなど。この5種の色素体は同じ種の植物はすべて同じプロプラスチッドから生ずるので、ご質問にありますように、すべて同じ色素体―DNAをもっていると考えられます。
ご質問は主に果実の成熟に伴う葉緑体とクロモプラストの変動ですが、トマトを例にとって考えてみたいと思います。
質問1.葉と未成熟の果実を比べると、葉の緑が格段に濃いことからも、細胞当りの葉緑体の数は果実より葉の方が多いはずです。しかし、成熟果実には葉緑体、クロモプラストなどが含まれているため、核―DNAと色素体―DNAの割合を求めるときには、葉緑体以外の色素体―DNAも計算に入れる必要があります。
質問2.同じ種の植物であれば、葉緑体(色素体)―DNAは葉でも果実でも同じ配列であり、そのサイズも同じです。
質問3.組織・器官によって細胞当りの葉緑体数は一定ではなく、成長、分化、さらに環境によって、他の色素体に変換したり消滅したりします。従って果実の細胞が大きいために重さ当りの葉緑体数が少ないわけではありません。果実の細胞当りの葉緑体数の少ないのは、葉が光合成をするための器官であるのに対し、果実が養分貯蔵、種子生産のための器官であるためでしょう。
質問4.果実の成熟に伴い葉緑体でクロロフィルが分解しますが(その経路も解明されています)、その後葉緑体は老化した葉緑体として消滅する場合と、クロモプラストに変換してトマト果実の主要カロテノイドであるリコペンを貯め込む場合とがあります。葉緑体が消滅するときは葉緑体がもっていた色素体―DNAも分解しますが、クロモプラストに変換した場合色素体―DNAはそのまま残っていると考えられます。
質問5.果実は葉とは異なった成分が多いため、それらを合成するために果実のみで発現される遺伝子は多く、例えば、トマトのクロモプラストに含まれるリコペンの合成系などもそれに当ります。成熟に伴って甘くなる果実ではスクロース合成酵素遺伝子の発現も高くなっているに違いありません。
現在、プロプラスチッドから5種の色素体にどのような機構で分化し、さらに相互変換するのか?各細胞でどのようにして分裂が制御され、細胞でのそれぞれの色素体の数がコントロールされているのか?など、多くの未解決の問題が残されています。この質問コーナーの登録番号0019には葉緑体のでき方、登録番号0062にはアミロプラスト、登録番号0100、登録番号0323にはクロロフィールの分解についての議論がありますので合わせてご参照下さい。
最初に教科書的にコトバの整理をしておきます。色素体(プラスチッド、有色体)には、次の5種類があります。ここで、[ ]内にそれぞれの色素体を多く含む植物器官、組織を記しておきます。
1)カロチン、キサントフィール色素を含み黄、オレンジ、赤などの色を示すクロモプラスト[果実、花、根(ニンジンなど)]
2)デンプンを貯めこんでいる白色のアミロプラスト[貯蔵器官、根冠]
3)植物の香り成分や生薬成分となるテルぺンなどを合成するロイコプラスト(狭義の白色体)[表皮]
4)弱光、暗黒で生育した植物でみられるクロロフィールを含まないエチオプラスト[黄化葉]
5)植物が生育に適した光を受けると、分化して生じ、クロロフィールとカロチノイドを含み光合成を行う、文字通り緑色の葉緑体(クロロプラスト)[葉]
色素体は、分裂組織の細胞当り約20個含まれているプロプラスチッド(原色素体)から、分裂組織の成長に伴いそれぞれの器官、組織の細胞に特有の色素体に分化します。また、植物体の成長・分化や生育環境の変化に伴って、色素体は別の色素体に相互に変換することもあります。例えば、エチオプラストから光照射によって葉緑体に、花が分化するのに伴い葉緑体からクロモプラストになるなど。この5種の色素体は同じ種の植物はすべて同じプロプラスチッドから生ずるので、ご質問にありますように、すべて同じ色素体―DNAをもっていると考えられます。
ご質問は主に果実の成熟に伴う葉緑体とクロモプラストの変動ですが、トマトを例にとって考えてみたいと思います。
質問1.葉と未成熟の果実を比べると、葉の緑が格段に濃いことからも、細胞当りの葉緑体の数は果実より葉の方が多いはずです。しかし、成熟果実には葉緑体、クロモプラストなどが含まれているため、核―DNAと色素体―DNAの割合を求めるときには、葉緑体以外の色素体―DNAも計算に入れる必要があります。
質問2.同じ種の植物であれば、葉緑体(色素体)―DNAは葉でも果実でも同じ配列であり、そのサイズも同じです。
質問3.組織・器官によって細胞当りの葉緑体数は一定ではなく、成長、分化、さらに環境によって、他の色素体に変換したり消滅したりします。従って果実の細胞が大きいために重さ当りの葉緑体数が少ないわけではありません。果実の細胞当りの葉緑体数の少ないのは、葉が光合成をするための器官であるのに対し、果実が養分貯蔵、種子生産のための器官であるためでしょう。
質問4.果実の成熟に伴い葉緑体でクロロフィルが分解しますが(その経路も解明されています)、その後葉緑体は老化した葉緑体として消滅する場合と、クロモプラストに変換してトマト果実の主要カロテノイドであるリコペンを貯め込む場合とがあります。葉緑体が消滅するときは葉緑体がもっていた色素体―DNAも分解しますが、クロモプラストに変換した場合色素体―DNAはそのまま残っていると考えられます。
質問5.果実は葉とは異なった成分が多いため、それらを合成するために果実のみで発現される遺伝子は多く、例えば、トマトのクロモプラストに含まれるリコペンの合成系などもそれに当ります。成熟に伴って甘くなる果実ではスクロース合成酵素遺伝子の発現も高くなっているに違いありません。
現在、プロプラスチッドから5種の色素体にどのような機構で分化し、さらに相互変換するのか?各細胞でどのようにして分裂が制御され、細胞でのそれぞれの色素体の数がコントロールされているのか?など、多くの未解決の問題が残されています。この質問コーナーの登録番号0019には葉緑体のでき方、登録番号0062にはアミロプラスト、登録番号0100、登録番号0323にはクロロフィールの分解についての議論がありますので合わせてご参照下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
浅田 浩二
回答日:2012-08-25