質問者:
会社員
まつい
登録番号0413
登録日:2005-11-02
正確で丁寧なお答えが期待できる素晴らしいHPですね。みんなのひろば
植物はどこで、どのようにして温度を感じるのか?
植物は生活史の様々な局面で温度の変化を信号として反応しているようですが、どこで、どのようにして温度を感じているのでしょうか?
どのように-というのは、以下のような仮説を考えてみたのですが、いずれもしっくり来ません。
どうか、よろしくお願いします。
①細胞内液の分子運動の程度を感知する
②生化学反応速度、つまりある物質の生成速度が温度で変わることによる
③赤外線に反応する色素がある
松井様
おっしゃるとおり、温度の変化は植物の生育に様々な影響を与えます。たとえば高い温度はタンパク質の変成を起こし、多くのタンパク質・酵素の機能が失活します。このような場合植物は、熱ショック応答という反応を起こし、いわゆる熱ショックタンパク質の発現を増加します。この応答は微生物から高等な生物にまで広く保存されている応答で、熱ショックタンパク質は、これらは高い温度によって構造が壊されたタンパク質や酵素の修復を助けたり、分解したりする働きを持っています。この熱ショック応答には熱ショックファクターという転写因子が関わっていて、高い温度によってこの転写因子の活性が変化することにより、熱ショックタンパク質の発現の制御がなされているようです。
一方、低温に対しても植物は様々な遺伝子の発現を制御して順化します。低温下では酵素の活性が低下したりして植物の生育が阻害されますが、特に細胞の膜の機能が低温条件では失われることが知られています。生体膜(細胞膜、オルガネラ膜)は脂質二重膜で構成され、細胞内外オルガネラ内外の境界として機能し、物質の移動やエネルギー生産の場として重要な働きをしています。これら生体膜の機能が正常に作動するためには、細胞膜が適当な流動性を保持していることが必要です。低温下では油脂のバターが固化するように、膜脂質の流動性が低下したり、固化したりしてしまい、細胞膜の機能が失われます。植物を含めた変温性の生物(植物、微生物、魚類などの動物)では低温に曝されると、細胞膜の流動性を維持するため膜脂質脂肪酸不飽和化酵素という酵素を誘導し、生体膜を構成する脂質の形を変化し、低い温度でも膜の固化を防ぐような応答をします。
我々はラン藻という光合成を行う細菌から、膜脂質の流動性の低下を低温のシグナルとして検知し、膜脂質脂肪酸の不飽和化酵素の発現制御に関わるセンサータンパク質を同定しています。類似のセンサーは細菌の枯草菌からもとられていて、膜脂質の流動性の変化を低温のシグナルとして検知するシステムが微生物には保存されているようです。あらかじめ高い温度と低い温度でそれぞれ生育させた生物の低温応答性を調べると、低い温度で生育させたものの方がより低い温度で低温応答を示すことがわかっています。したがって、生物は絶対的な温度を感じているのではなく、相対的な温度を感じていると予想されます。膜脂質の流動性による温度検知のモデルはこの考え方にもよく合致します。植物においても同様の温度検知機構があるものと想像していますが、今のところその実態は明らかにはされていません。
おっしゃるとおり、温度の変化は植物の生育に様々な影響を与えます。たとえば高い温度はタンパク質の変成を起こし、多くのタンパク質・酵素の機能が失活します。このような場合植物は、熱ショック応答という反応を起こし、いわゆる熱ショックタンパク質の発現を増加します。この応答は微生物から高等な生物にまで広く保存されている応答で、熱ショックタンパク質は、これらは高い温度によって構造が壊されたタンパク質や酵素の修復を助けたり、分解したりする働きを持っています。この熱ショック応答には熱ショックファクターという転写因子が関わっていて、高い温度によってこの転写因子の活性が変化することにより、熱ショックタンパク質の発現の制御がなされているようです。
一方、低温に対しても植物は様々な遺伝子の発現を制御して順化します。低温下では酵素の活性が低下したりして植物の生育が阻害されますが、特に細胞の膜の機能が低温条件では失われることが知られています。生体膜(細胞膜、オルガネラ膜)は脂質二重膜で構成され、細胞内外オルガネラ内外の境界として機能し、物質の移動やエネルギー生産の場として重要な働きをしています。これら生体膜の機能が正常に作動するためには、細胞膜が適当な流動性を保持していることが必要です。低温下では油脂のバターが固化するように、膜脂質の流動性が低下したり、固化したりしてしまい、細胞膜の機能が失われます。植物を含めた変温性の生物(植物、微生物、魚類などの動物)では低温に曝されると、細胞膜の流動性を維持するため膜脂質脂肪酸不飽和化酵素という酵素を誘導し、生体膜を構成する脂質の形を変化し、低い温度でも膜の固化を防ぐような応答をします。
我々はラン藻という光合成を行う細菌から、膜脂質の流動性の低下を低温のシグナルとして検知し、膜脂質脂肪酸の不飽和化酵素の発現制御に関わるセンサータンパク質を同定しています。類似のセンサーは細菌の枯草菌からもとられていて、膜脂質の流動性の変化を低温のシグナルとして検知するシステムが微生物には保存されているようです。あらかじめ高い温度と低い温度でそれぞれ生育させた生物の低温応答性を調べると、低い温度で生育させたものの方がより低い温度で低温応答を示すことがわかっています。したがって、生物は絶対的な温度を感じているのではなく、相対的な温度を感じていると予想されます。膜脂質の流動性による温度検知のモデルはこの考え方にもよく合致します。植物においても同様の温度検知機構があるものと想像していますが、今のところその実態は明らかにはされていません。
筑波大学生命環境科学研究科情報生物科学専攻
鈴木 石根
回答日:2009-07-03
鈴木 石根
回答日:2009-07-03