一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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アポプラスト水について

質問者:   その他   シオ
登録番号0479   登録日:2006-01-24
耐乾性に関する研究をしていて、特にマメ科樹木の浸透調節能について研究しています。

プレッシャーチャンバーを使ってP-V曲線法で葉の水分特性値を測定しているのですが、アポプラスト水に関しての研究報告がほとんどなくて困っています。
結合水とよぶよりアポプラスト水としてよぶほうが妥当だ、という論文は読んだのですが、結局「結合水=アポプラスト水」ということになるのでしょうか?
それとアポプラスト水の値の大小によって浸透調節能、果ては耐乾性に関してどういった影響を及ぼすのでしょうか?

ご指導いただければ幸いです。よろしくお願いします。
シオさん:

植物細胞水分状態の調節機構を研究されている名古屋大学 生命農学研究科の前島正義先生に伺いました。植物の乾燥耐性の研究は近年とても活発に行われている領域です。ご自身で解決する喜びをもてる課題がたくさんあります。


結合水は,アポプラスト空間の細胞壁成分(セルロースや他の多頭類など)や糖に水素結合により水和している水分子を指します。結合水は周りの水分子と交換することはあっても,特定の分子に結合している水分子の数は変動しません。こうして明確に特定成分に結合する水を結合水と定義しているからです。植物の水分生理として大事なのは,結合水ではなく自由に利用できる自由水です。したがって,「結合水=アポプラスト水」は生物物理学的には誤りと考えます。

一般的な考え方をすれば,植物の細胞は,アポプラストの自由水の溶質濃度に対して浸透圧調節をしていると言えます。アポプラストの浸透圧と細胞内浸透圧の差が膨圧となっていますのできわめて大事なポイントとなります。現実にはアポプラストの溶質濃度は低く,細胞内溶質濃度が高いので,細胞に大きな膨圧を発生させています。もちろん,表皮細胞や根毛は直接外界と接しているので別の見方が必要です。

乾燥耐性は,少量の水で生命を維持できる,気孔からの水の蒸散を強く抑制する,細胞内の水を外部にもらさない,組織内の水を漏出させない,根の吸水能力が高い,といった広範囲の機構が関与しています。ですから異なった植物種は異なった乾燥耐性の機構をもっています。アポプラストでどのような乾燥耐性機構が発達しているのか,是非解き明かして下さい。

 前島 正義(名古屋大学生命農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
 今関 英雅
回答日:2006-02-16
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