質問者:
会社員
ちくわ
登録番号0531
登録日:2006-02-20
ミネラルが適度に解けている水溶液に浸した野菜は、単に水に浸しただけよりも、鮮度がより保たれると聞いたことがあります。みんなのひろば
水、ミネラル、イオンチャネルについて
このことが、水分子、ミネラル、イオンチャネルとどのような関係において起こる現象なのか、気になり調べています。
①単にイオン濃度勾配による水の流入
②水和されたイオンがそのままチャネルを通ることで発生する水の移動
このあたりが原因なのではと考えておりますが、根拠となる資料に行き着きません。
そこで、力をお借りできればと思い質問させていただきました。
よろしく、お願いします。
ちくわさま
質問に対し、植物における水輸送についての研究の専門家である、名古屋大学生命農研究科の前島正義先生に回答をしていただきました。大変丁寧かつ詳しい説明をしていただきましたので、お分かり頂けると思います。なお、物質の細胞内への出入りについての一般的な機構については、生物学、細胞学の教科書を参考にして下さい。
回答:
実際に試したことはありませんが,ミネララル水が鮮度保持に有効である可能性があります。このご質問に明確にお答えできませんが,考えられることを述べさせて頂きます。
(1)野菜の組織・細胞は水溶性の多様な成分を含んでいますので浸透圧が働きます。水に浸すと組織・細胞内に水が入ります。これは萎れた蔬菜類の葉を水に浸すとシャキッとする理由でもあります。しかし,これは鮮度保持に直結するとは限りません。血糖値(浸透圧)が高いと毛細血管が障害を受け易くなるのに似て,野菜と水の間の浸透圧差が大きいと植物の細胞も障害を受け易くなると考えられます。ミネラルはその浸透圧差を幾分かでも緩和する作用があると考えられます。
(2)ミネラルの中のカルシウムは,植物の必須元素ですが,生体膜を保護する役割もあるといわれています。土壌中にはカルシウムは豊富にありますが,土から引き離された野菜は内部蓄積だけに依存することになります。植物の生命維持に必要なミネラルを補給するという意味もあると考えられます。その結果,植物の細胞の機能が高い状態で維持され,傷害や病原菌の侵入に対して強くなるといったことも考えられます。
(3)ご質問では,「水和されたイオンがそのままチャネルを通る」との可能性を指摘されています。生物界のイオンチャネルやイオントランスポータの最新の研究成果をもとに考えますと,イオンは水和水を結合したままでは膜を透過できません。イオン透過孔のサイズは,水和水のない状態のイオンにぴったりのサイズになっています。カルシウム,カリウム,アンモニウム,塩化物イオンのチャネルや輸送タンパク質は,いずれもぴったりサイズの透過孔となっています。その構造があってはじめて,イオンの種類を選択できるようになっています。もちろん,この透過孔を通りすぎれば再び水和イオンとなります。
(4)植物の場合,細胞膜を介した水の高速輸送は水チャネルと呼ばれる膜タンパク質が担っています。カルシウムや銅イオンは水チャネルの機能を何割か抑制します。したがって,これらのイオンが細胞や組織からの水の漏出を防ぐ役割を果たしている可能性もあります。
野菜の鮮度保持は実際面でも大切ですので,原理が解明されればより有効な方法に結びつくものとおもいます。
前島 正義(名古屋大学生命農研究科)
質問に対し、植物における水輸送についての研究の専門家である、名古屋大学生命農研究科の前島正義先生に回答をしていただきました。大変丁寧かつ詳しい説明をしていただきましたので、お分かり頂けると思います。なお、物質の細胞内への出入りについての一般的な機構については、生物学、細胞学の教科書を参考にして下さい。
回答:
実際に試したことはありませんが,ミネララル水が鮮度保持に有効である可能性があります。このご質問に明確にお答えできませんが,考えられることを述べさせて頂きます。
(1)野菜の組織・細胞は水溶性の多様な成分を含んでいますので浸透圧が働きます。水に浸すと組織・細胞内に水が入ります。これは萎れた蔬菜類の葉を水に浸すとシャキッとする理由でもあります。しかし,これは鮮度保持に直結するとは限りません。血糖値(浸透圧)が高いと毛細血管が障害を受け易くなるのに似て,野菜と水の間の浸透圧差が大きいと植物の細胞も障害を受け易くなると考えられます。ミネラルはその浸透圧差を幾分かでも緩和する作用があると考えられます。
(2)ミネラルの中のカルシウムは,植物の必須元素ですが,生体膜を保護する役割もあるといわれています。土壌中にはカルシウムは豊富にありますが,土から引き離された野菜は内部蓄積だけに依存することになります。植物の生命維持に必要なミネラルを補給するという意味もあると考えられます。その結果,植物の細胞の機能が高い状態で維持され,傷害や病原菌の侵入に対して強くなるといったことも考えられます。
(3)ご質問では,「水和されたイオンがそのままチャネルを通る」との可能性を指摘されています。生物界のイオンチャネルやイオントランスポータの最新の研究成果をもとに考えますと,イオンは水和水を結合したままでは膜を透過できません。イオン透過孔のサイズは,水和水のない状態のイオンにぴったりのサイズになっています。カルシウム,カリウム,アンモニウム,塩化物イオンのチャネルや輸送タンパク質は,いずれもぴったりサイズの透過孔となっています。その構造があってはじめて,イオンの種類を選択できるようになっています。もちろん,この透過孔を通りすぎれば再び水和イオンとなります。
(4)植物の場合,細胞膜を介した水の高速輸送は水チャネルと呼ばれる膜タンパク質が担っています。カルシウムや銅イオンは水チャネルの機能を何割か抑制します。したがって,これらのイオンが細胞や組織からの水の漏出を防ぐ役割を果たしている可能性もあります。
野菜の鮮度保持は実際面でも大切ですので,原理が解明されればより有効な方法に結びつくものとおもいます。
前島 正義(名古屋大学生命農研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2006-02-27
勝見 允行
回答日:2006-02-27