質問者:
高校生
紫悠
登録番号0552
登録日:2006-03-05
高緯度地方には、短日植物か長日植物かどちらかしか生育できないと聞いたのですが、どちらでしょうか?高緯度地方の植物
また、なぜどちらかしか生育できないのでしょうか?
白夜や極夜が関係しているらしいとはきいたのですが......理由を教えてください。
紫悠 さん
こんにちは。遅まきながら、だいぶ以前にいただいた質問の回答をいたします。待ってもらっている間にすっかり春の花が咲きそろってしまいましたね。私のいる京都では桜も散り始めています。遅くなってごめんなさい。
さて、「高緯度地方には、短日植物か長日植物かどちらかしか生育できない」と聞いたとのことですが、いろいろな参考資料にあたってみましたが、この点について簡潔・明快に書いているものはありませんでした。歯切れのよい回答を差し上げられません。少し長くなりますが、順を追って考えてみましょう。
高緯度では夏の日長はかなり長くなりますね、極圏では夏至を挟んで白夜(24時間昼)の期間があります。そういうことから、ちょっと考えると、長日植物ばかりが生えているように思えるかもしれませんね。
緯度が高くなるにつれて、一日あたりの日長の変化量が大きくなります。60度あたりでは最大で日に5分くらい(春分・秋分の頃)です。ですから、例えば30分くらいの日長の違いがわかる植物なら、春ならば1週間くらいの精度で季節を言い当てられることになります。緯度が高いところ(日本くらいの緯度でも)では、日長は季節を知る(先読みする)非常によい手がかりになります。
高緯度地方では、花を咲かせ受粉し種子を結ぶのに適した期間は初夏〜初秋の短い間に限られます。花粉を運んでもらう昆虫が活動する時期とうまくあわせる必要がありますし、同じ種類のほかの個体と同調して一斉に咲く必要があります。植物や昆虫が、花芽づくり(植物)や成長・変態(昆虫)のタイミングを日長という共通の手がかりによって決めることで、そういう同じ種類の個体間や異なる生物間の同調が可能になります。こういう条件の下では、日長によらずに花芽をつくり始めるような植物(中性植物)には、あまり利点はなさそうです。高緯度地方では中性植物は少ないと考えられます。しかし、残念ながら体系的に調べられてはいないようです。
ここで、短日植物と長日植物のおさらいをしてみましょう。
短日植物は、昼の長さがある長さよりも短いと(実際には夜の長さがある長さより長いと)花芽形成が促進される植物でしたね。長日植物は、反対に、昼の長さがある長さよりも長いと(実際には夜の長さがある長さより短いと)花芽形成が促進される植物です。よく注意して考えてみると、花を咲かせるためには、長日植物のほうが短日植物よりも長い日長を必要とする、あるいは逆に、短日植物のほうが長日植物よりも短い日長が必要だ、というわけではないことがわかると思います。例えば、春に咲くアブラナは長日植物です。冬が去って春に向かって長くなっていく昼の長さに反応して、花芽づくりを始めるのです。いっぽう、真夏に咲くアサガオやイネ(花は目立たないですが)は短日植物です。これらの植物は夏至を過ぎて徐々に短くなっていく日長に反応して花芽づくりを始めます。アブラナにとっては春先のまだ一日の半分に足りない日長が十分に「長く」、アサガオやイネにとっては初夏〜夏の頃の長い日長でも「短い」というわけです。
もうひとつ、注意しておきたいことがあります。それは、植物によって花芽をつくり始める季節と実際に花を咲かせる季節が大きくずれているものがあることです。例えば桜やチューリップがそうです。これらの植物では冬にはもう花芽ができています。桜が花芽をつくり始めるのは夏です。植物によっては前の年に花芽をつくり、途中で成長をとめて、翌年の適当な季節に花を咲かせるものがあるのです。
さて、では、長日植物と短日植物のどちらが有利かということですが、春〜夏至の日長の変化(長くなっていく)を合図に花芽づくりを始めるのであれば、長日植物が、夏至以降の短くなっていく日長に反応して花芽づくりを始めるのであれば短日植物が有利になると、私は予想します。どちらも生存できるだろうということです。しかし、体系だった調査はされていないと思います。
実際には、花芽づくりを始めるのに、植物は日長だけを合図にしているわけではありません。発芽したばかりの芽生えはすぐには花を咲かせません。樹木の場合には、ある程度大きくならないと花を咲かせてくれませんね。短日植物も長日植物もある程度準備が整ったところに、日長の合図が来ると花芽づくりを始めます。高緯度地方では、植物が生長できる期間が限られます。多くの植物は多年草や灌木となって、発芽してから何年もかけて成長して花を咲かせます。準備が整うまでは、どんな日長のもとでも花芽をつくらずに待つのです。
お答えになっていたでしょうか? 桜は散りそうですが、これからまだまだいろいろな花が咲いてきます。楽しんでください。
こんにちは。遅まきながら、だいぶ以前にいただいた質問の回答をいたします。待ってもらっている間にすっかり春の花が咲きそろってしまいましたね。私のいる京都では桜も散り始めています。遅くなってごめんなさい。
さて、「高緯度地方には、短日植物か長日植物かどちらかしか生育できない」と聞いたとのことですが、いろいろな参考資料にあたってみましたが、この点について簡潔・明快に書いているものはありませんでした。歯切れのよい回答を差し上げられません。少し長くなりますが、順を追って考えてみましょう。
高緯度では夏の日長はかなり長くなりますね、極圏では夏至を挟んで白夜(24時間昼)の期間があります。そういうことから、ちょっと考えると、長日植物ばかりが生えているように思えるかもしれませんね。
緯度が高くなるにつれて、一日あたりの日長の変化量が大きくなります。60度あたりでは最大で日に5分くらい(春分・秋分の頃)です。ですから、例えば30分くらいの日長の違いがわかる植物なら、春ならば1週間くらいの精度で季節を言い当てられることになります。緯度が高いところ(日本くらいの緯度でも)では、日長は季節を知る(先読みする)非常によい手がかりになります。
高緯度地方では、花を咲かせ受粉し種子を結ぶのに適した期間は初夏〜初秋の短い間に限られます。花粉を運んでもらう昆虫が活動する時期とうまくあわせる必要がありますし、同じ種類のほかの個体と同調して一斉に咲く必要があります。植物や昆虫が、花芽づくり(植物)や成長・変態(昆虫)のタイミングを日長という共通の手がかりによって決めることで、そういう同じ種類の個体間や異なる生物間の同調が可能になります。こういう条件の下では、日長によらずに花芽をつくり始めるような植物(中性植物)には、あまり利点はなさそうです。高緯度地方では中性植物は少ないと考えられます。しかし、残念ながら体系的に調べられてはいないようです。
ここで、短日植物と長日植物のおさらいをしてみましょう。
短日植物は、昼の長さがある長さよりも短いと(実際には夜の長さがある長さより長いと)花芽形成が促進される植物でしたね。長日植物は、反対に、昼の長さがある長さよりも長いと(実際には夜の長さがある長さより短いと)花芽形成が促進される植物です。よく注意して考えてみると、花を咲かせるためには、長日植物のほうが短日植物よりも長い日長を必要とする、あるいは逆に、短日植物のほうが長日植物よりも短い日長が必要だ、というわけではないことがわかると思います。例えば、春に咲くアブラナは長日植物です。冬が去って春に向かって長くなっていく昼の長さに反応して、花芽づくりを始めるのです。いっぽう、真夏に咲くアサガオやイネ(花は目立たないですが)は短日植物です。これらの植物は夏至を過ぎて徐々に短くなっていく日長に反応して花芽づくりを始めます。アブラナにとっては春先のまだ一日の半分に足りない日長が十分に「長く」、アサガオやイネにとっては初夏〜夏の頃の長い日長でも「短い」というわけです。
もうひとつ、注意しておきたいことがあります。それは、植物によって花芽をつくり始める季節と実際に花を咲かせる季節が大きくずれているものがあることです。例えば桜やチューリップがそうです。これらの植物では冬にはもう花芽ができています。桜が花芽をつくり始めるのは夏です。植物によっては前の年に花芽をつくり、途中で成長をとめて、翌年の適当な季節に花を咲かせるものがあるのです。
さて、では、長日植物と短日植物のどちらが有利かということですが、春〜夏至の日長の変化(長くなっていく)を合図に花芽づくりを始めるのであれば、長日植物が、夏至以降の短くなっていく日長に反応して花芽づくりを始めるのであれば短日植物が有利になると、私は予想します。どちらも生存できるだろうということです。しかし、体系だった調査はされていないと思います。
実際には、花芽づくりを始めるのに、植物は日長だけを合図にしているわけではありません。発芽したばかりの芽生えはすぐには花を咲かせません。樹木の場合には、ある程度大きくならないと花を咲かせてくれませんね。短日植物も長日植物もある程度準備が整ったところに、日長の合図が来ると花芽づくりを始めます。高緯度地方では、植物が生長できる期間が限られます。多くの植物は多年草や灌木となって、発芽してから何年もかけて成長して花を咲かせます。準備が整うまでは、どんな日長のもとでも花芽をつくらずに待つのです。
お答えになっていたでしょうか? 桜は散りそうですが、これからまだまだいろいろな花が咲いてきます。楽しんでください。
京都大学理学研究科
荒木 崇
回答日:2006-04-17
荒木 崇
回答日:2006-04-17