一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ナス科の分布について

質問者:   その他   小松広幸
登録番号0826   登録日:2006-06-28
私はナス栽培している農家です。
とあるhpで、ナス科作物のうちナスだけが南米でなくインド原産である理由を「ナス科植物が成立した時代、大陸がひとつだったから」としていました。
被子植物が多様化したのは第三紀以降(気候変動が原因で)生じたと聞いたので疑問に感じています。

そこで次の3点についてお教え願いたいと存じます。

(1).ナス科はいつごろの時代に何科から分かれたのでしょうか?
(2).ナス科作物の原産地が隔離分布(?)しているのはなぜか?
(3).植物、とくに栽培種の成立年代と分布がわかる文献やhpはありますか?

欲張った質問ですがよろしくお願いしたいと存じます。
小松広幸様
ナス科の起原に関する下記質問(登録番号0826)に回答します。

先のメールでも伝えましたように、ナスの分類系統解析について専門的に研究している方が日本におられるのかどうか分かりませんが、茨城大学農学部植物生産科学(専門:育種学)の久保山 勉先生にお調べいただきました。更に詳しいことを知りたいときは、回答で示された文献やhpにあたって見て下さい。


回答:
まず,質問の原因になったホームページの記述ですが,ゴンドワナ大陸で生まれたナス科がそこで分化した後,大陸が分かれた結果現在のような分布が成立したという学説が実際にあるようです(Hawkes&Smith1965).ナス科の分類や多様性を扱っている研究者の集会の後に出る論文集Solanaceae III(1991)がKew and Linnean Society of Londonから出版されています.この編集者にゴンドワナ大陸説を唱えたHawkes博士の名前がありますし,ゴンドワナ大陸でナス科が分化したという説を支持する論文(Symon 1991)も載っています.しかし,この本の中でナス科の分類をまとめたD'ARCY博士の論文では,それぞれの大陸が分かれる(1億2千5百万年前から9千万年前)にすでにナス科が出現したと考えるには早すぎると述べられており,ゴンドワナ大陸分化説を疑わしいものだとしています.そして,現在の分布パターンは白亜紀の終わり頃にナス科植物が現れ,その後,大陸間の地峡を通って広がった結果なのではないかと推察しています.また,長い距離を拡散していったためにナス科がそれぞれの場所で多様化したのではないかということも併せて考察しています.ナスはジャガイモと同じ属の植物です.属が分岐したのはそれほど遠い昔であるとは通常考えられません.アフリカやアジアに分布のあるナスと,南アメリカ原産のジャガイモが,異なる大陸に存在している原因をゴンドワナ大陸に求めるのは無理があるのではないかと思います.

これで,すでに質問の1と2のほとんどについて回答したことになるかと思います.ナス科がどの系統から分岐したかは,DNAの塩基配列を用いた系統解析による結果が参考になると思います.Tree of Life (http://tolweb.org/ )やミズーリー植物園(http://www.mobot.org/MOBOT/research/APweb/ )によれば真双子葉植物eudicotsのキク類(Asterid)の真キク類1(euastrid1:シソ目やリンドウ目を含む)のナス目(Solanales)に含まれるそうです.ナス目のなかでもナス科はヒルガオ科と近いそうです.ヒルガオ科にはアサガオやサツマイモが含まれます.

3番目の質問に対しては,すべてがまとまったホームページや書籍を私は知りません.それぞれの植物について専門家がいるので,本やホームページもそれぞれ作られているのが現状です.強いて探せば「植物育種学」鵜飼保雄2003年東京大学出版会(ISBN4-13-072101-1)の第2章(p27-p53)にまとまった記事があります. また,南アメリカ原産の作物についての読み物としては以下の書籍をお奨めします.「世界を変えた作物―遺伝と育種 3 ライフサイエンス教養叢書 (14)」藤巻 宏, 鵜飼 保雄 培風館 ; ISBN: 4563039322 ; (1985/05)

久保山 勉(茨城大学農学部植物生産科学)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2006-07-07