質問者:
その他
堀本
登録番号0893
登録日:2006-07-13
藻類が光合成を効率よく行うために発達させたものにはどのようなものがあるのでしょうか?みんなのひろば
藻類の光合成について
特にフィコビリン色素、ルビスコはどのような役目をしているのでしょうか?
堀本 さん
”みんなのひろば・質問コーナー”に質問をありがとうございました。ご質問には、藻類の光合成の研究者で、“補色適応”について研究してこられた神戸大学・内海域環境教育研究センターの村上明男先生から、下記のようなご回答をいただきました。
ご参考にして下さい。
藻類は植物と同様にシアノバクテリア(藍藻)の酸素発生型光合成系を細胞内共生により引き継いでいるので、藻類の光合成の基本的な反応系は植物と同じです。一方で、藻類は緑藻・紅藻・褐藻などと主に色調で分類されているように、光合成色素、特に集光性色素(アンテナ色素)複合体の組成や構造が各分類群で異なっています。
“藻類が光合成を効率よく行うために発達させたものは”とのご質問ですが、光や二酸化炭素など光合成に直接必要な要素をいかに効率良く取り込むか、あるいは過剰に取り込まないようにするか、の制御系が植物と同様に藻類にも備わっています。光環境(強度や波長分布)の変動に対しては、光化学反応中心あたりの集光性色素複合体のサイズの調節や、光化学系I反応中心複合体と光化学系II反応中心複合体の量比の調節、などは光合成の効率を維持するための藻類と植物の共通の制御機構です。
シアノバクテリアと紅藻がもつ集光性色素であるフィコビリンは水溶性色素タンパク質で、2、3種類のフィコビリンと数種類のリンカータンパク質がフィコビリソームと呼ばれる超分子会合体をチラコイド膜上に形成します。このフィコビリソームでも光強度の変化に応答した、集光性色素に一般的なサイズや数の制御が起こります。さらに、一部のシアノバクテリアだけが持ち合わせている制御機構として光吸収波長特性の異なるフィコビリン分子種の組み換えが起こります。緑色光で生育した細胞は緑色光を吸収する紅色のフィコエリスリンを合成し、赤色光で生育した細胞は赤色光を吸収する藍色のフィコシアニンを合成し、それぞれの光条件のもとでの光の吸収効率、すなわち光合成の効率を高めるための制御です。光の波長分布の変化を感知するシアノバクテリア固有のこの調節は“補色適応”として100年以上前から現象は知られており、1960年頃に日本の研究者により実体の解明が行われ、最近アメリカの研究グループが光シグナル受容系などを分子生物学的解析から明らかにしています。しかし、光シグナル受容・変換系、色素とタンパク質の合成制御、フィコビリソームの再構築、を含めた補色適応の全貌については、まだ未解明の部分が多く残されており、さらなる研究が必要です。なお、フィコビリン色素の構造、機能、調節などの詳細については以下の総説をご覧ください。“三室・村上・菊地(1997)「シアノバクテリアの集光性超分子会合体、フィコビリソーム」蛋白質 核酸 酵素42(16):2613-2625”、“Kehoe DM, Gutu A(2006)RESPONDING TO COLOR: The Regulation of Complementary Chromatic Adaptation. Annu Rev Plant Biol.57:127-50”
Rubiscoを含めた炭酸固定に関する光合成の効率との関係については、臼田秀明先生が書かれた教科書をご覧ください。その中に藻類特有の炭酸濃縮機構、水中で生活し気孔を持たない藻類においてRubiscoを効率よく働かせるために細胞内の二酸化炭素濃度を高めるための仕組み、についても丁寧に書かれています。“臼田秀明(2002)
光合成の炭素同化系“朝倉植物生理学講座3「光合成」(佐藤公行編)”pp.70-94、朝倉書店”
なお、一般的な植物生理学の教科書では陸上植物で明らかにされた事実の記述が中心になっていますが、光合成に関してはシアノバクテリアや藻類で研究され、発見された成果が多く盛り込まれています。
村上 明男(神戸大学・内海域環境教育研究センター)
”みんなのひろば・質問コーナー”に質問をありがとうございました。ご質問には、藻類の光合成の研究者で、“補色適応”について研究してこられた神戸大学・内海域環境教育研究センターの村上明男先生から、下記のようなご回答をいただきました。
ご参考にして下さい。
藻類は植物と同様にシアノバクテリア(藍藻)の酸素発生型光合成系を細胞内共生により引き継いでいるので、藻類の光合成の基本的な反応系は植物と同じです。一方で、藻類は緑藻・紅藻・褐藻などと主に色調で分類されているように、光合成色素、特に集光性色素(アンテナ色素)複合体の組成や構造が各分類群で異なっています。
“藻類が光合成を効率よく行うために発達させたものは”とのご質問ですが、光や二酸化炭素など光合成に直接必要な要素をいかに効率良く取り込むか、あるいは過剰に取り込まないようにするか、の制御系が植物と同様に藻類にも備わっています。光環境(強度や波長分布)の変動に対しては、光化学反応中心あたりの集光性色素複合体のサイズの調節や、光化学系I反応中心複合体と光化学系II反応中心複合体の量比の調節、などは光合成の効率を維持するための藻類と植物の共通の制御機構です。
シアノバクテリアと紅藻がもつ集光性色素であるフィコビリンは水溶性色素タンパク質で、2、3種類のフィコビリンと数種類のリンカータンパク質がフィコビリソームと呼ばれる超分子会合体をチラコイド膜上に形成します。このフィコビリソームでも光強度の変化に応答した、集光性色素に一般的なサイズや数の制御が起こります。さらに、一部のシアノバクテリアだけが持ち合わせている制御機構として光吸収波長特性の異なるフィコビリン分子種の組み換えが起こります。緑色光で生育した細胞は緑色光を吸収する紅色のフィコエリスリンを合成し、赤色光で生育した細胞は赤色光を吸収する藍色のフィコシアニンを合成し、それぞれの光条件のもとでの光の吸収効率、すなわち光合成の効率を高めるための制御です。光の波長分布の変化を感知するシアノバクテリア固有のこの調節は“補色適応”として100年以上前から現象は知られており、1960年頃に日本の研究者により実体の解明が行われ、最近アメリカの研究グループが光シグナル受容系などを分子生物学的解析から明らかにしています。しかし、光シグナル受容・変換系、色素とタンパク質の合成制御、フィコビリソームの再構築、を含めた補色適応の全貌については、まだ未解明の部分が多く残されており、さらなる研究が必要です。なお、フィコビリン色素の構造、機能、調節などの詳細については以下の総説をご覧ください。“三室・村上・菊地(1997)「シアノバクテリアの集光性超分子会合体、フィコビリソーム」蛋白質 核酸 酵素42(16):2613-2625”、“Kehoe DM, Gutu A(2006)RESPONDING TO COLOR: The Regulation of Complementary Chromatic Adaptation. Annu Rev Plant Biol.57:127-50”
Rubiscoを含めた炭酸固定に関する光合成の効率との関係については、臼田秀明先生が書かれた教科書をご覧ください。その中に藻類特有の炭酸濃縮機構、水中で生活し気孔を持たない藻類においてRubiscoを効率よく働かせるために細胞内の二酸化炭素濃度を高めるための仕組み、についても丁寧に書かれています。“臼田秀明(2002)
光合成の炭素同化系“朝倉植物生理学講座3「光合成」(佐藤公行編)”pp.70-94、朝倉書店”
なお、一般的な植物生理学の教科書では陸上植物で明らかにされた事実の記述が中心になっていますが、光合成に関してはシアノバクテリアや藻類で研究され、発見された成果が多く盛り込まれています。
村上 明男(神戸大学・内海域環境教育研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2006-07-25
佐藤 公行
回答日:2006-07-25