質問者:
その他
和田
登録番号0102
登録日:2004-07-22
先日大学の授業で葉緑体の起源についての話を聞いたのですが共生によるものだということだけで、あまり詳しく教えてもらえませんでした。葉緑体について
よろしければ、教えていただけませんでしょうか?
参考にすべきHPなども教えていただけるとうれしいです。
よろしくお願いします。
和田さま
葉緑体とミトコンドリアは、どちらも独自のDNAをもち2重の膜で囲まれた細胞小器官で、その起源についてはまとめて論じられることが多いので、ここでもまとめて扱います。これらの細胞小器官がなぜDNAをもっているのか、また、どのようにして誕生したのかについては、大きく分けて2つの説がありました。「膜分化説」(細胞内膜系の分化発達にともない、膜と結合していたDNAが部分的に切断分離し、これが膜に包み込まれて細胞小器官となった)と「共生説」(ミトコンドリアは好気性細菌が、葉緑体はシアノバクテリアが、それぞれ原始真核生物に入り込んで細胞内共生しているうちに独自に生きる能力を失い、細胞小器官になった)です。1970年にMargulisは共生説を支持する多くの知見を整理し、"Origin of Eukaryotic Cells"(邦題:細胞の共生進化、http://www.jssp.co.jp/f_biochem/saibo_kyoseishinka.htmlで内容を確認できます)を発表し、共生説が一躍、注目を集めました。現在では共生説を支持する多くのデータが揃っており、分化説を支持する研究者はほとんど居なくなっています。
共生説の根拠としては、以下のようなことが挙げられます。
・ 形や機能の類似
特に灰色藻の葉緑体(チアネル)は、ひと昔前までは「細胞内に共生するシアノバクテリアである」と見なされていたほど、シアノバクテリアによく似ています。
・ 現生の生物における細胞内共生の実例
現生の昆虫類130万種のうち、少なくとも10%以上の種が定常的に細胞内微生物を保有しています。また、培養していたアメーバにバクテリアが感染、最初は毒性を示したが感染後5年で細胞内共生関係に入った、という例が実際に観察されています(Jeon & Lorch 1967, Experimental Cell Research 48:236-240)。マメ科の植物の根には分子状窒素(N2)を還元してアンモニアを生じる窒素固定菌が細胞内共生し、根粒を作りますし、ゾウリムシの細胞内に藻類が共生したミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)などという生き物もいます。
・ バクテリアに類似した遺伝情報発現システム
陸上植物の葉緑体DNAは120〜160 kbpの二本鎖環状分子で、核膜に包まれていないなど、核のDNAよりもバクテリアのDNAに近い状態で存在しています。また、遺伝情報の発現にかかわる転写や翻訳の仕組み(例えばmRNAの構造やリボソームの構造、性質など)もバクテリアに類似しており、核や細胞質とは異質です。
・ 分子系統解析の結果
分子系統解析は、DNAの塩基配列を多数の生物で比較し、進化の過程を推測する方法です。リボソーム小サブユニットを構成するrRNA (16S-like rRNA) の保存されている領域の塩基配列を様々な生物間で比較すると、生物は大きく3つのグループ(真核生物、真正細菌、古細菌)に分かれることが分かりました。そのとき、葉緑体のDNAにコードされるrRNAは、真核生物(植物は、ここに含まれます)ではなく真正細菌(バクテリア)のグループに含まれ、中でもシアノバクテリアと一番近いことが分かりました。ちなみに、ミトコンドリアDNAにコードされるrRNAも真正細菌のグループに入りますが、葉緑体のDNAにコードされるrRNAとは少し離れたグループに属します。この結果からは、ミトコンドリアと葉緑体のDNAが「真核生物の細胞内で細胞核のDNAから分かれてできた」というよりも、「それぞれ別々の真正細菌が細胞内共生することによって真核生物の細胞内に持ち込まれた」、と理解するのが自然です。
葉緑体とミトコンドリアは、どちらも独自のDNAをもち2重の膜で囲まれた細胞小器官で、その起源についてはまとめて論じられることが多いので、ここでもまとめて扱います。これらの細胞小器官がなぜDNAをもっているのか、また、どのようにして誕生したのかについては、大きく分けて2つの説がありました。「膜分化説」(細胞内膜系の分化発達にともない、膜と結合していたDNAが部分的に切断分離し、これが膜に包み込まれて細胞小器官となった)と「共生説」(ミトコンドリアは好気性細菌が、葉緑体はシアノバクテリアが、それぞれ原始真核生物に入り込んで細胞内共生しているうちに独自に生きる能力を失い、細胞小器官になった)です。1970年にMargulisは共生説を支持する多くの知見を整理し、"Origin of Eukaryotic Cells"(邦題:細胞の共生進化、http://www.jssp.co.jp/f_biochem/saibo_kyoseishinka.htmlで内容を確認できます)を発表し、共生説が一躍、注目を集めました。現在では共生説を支持する多くのデータが揃っており、分化説を支持する研究者はほとんど居なくなっています。
共生説の根拠としては、以下のようなことが挙げられます。
・ 形や機能の類似
特に灰色藻の葉緑体(チアネル)は、ひと昔前までは「細胞内に共生するシアノバクテリアである」と見なされていたほど、シアノバクテリアによく似ています。
・ 現生の生物における細胞内共生の実例
現生の昆虫類130万種のうち、少なくとも10%以上の種が定常的に細胞内微生物を保有しています。また、培養していたアメーバにバクテリアが感染、最初は毒性を示したが感染後5年で細胞内共生関係に入った、という例が実際に観察されています(Jeon & Lorch 1967, Experimental Cell Research 48:236-240)。マメ科の植物の根には分子状窒素(N2)を還元してアンモニアを生じる窒素固定菌が細胞内共生し、根粒を作りますし、ゾウリムシの細胞内に藻類が共生したミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)などという生き物もいます。
・ バクテリアに類似した遺伝情報発現システム
陸上植物の葉緑体DNAは120〜160 kbpの二本鎖環状分子で、核膜に包まれていないなど、核のDNAよりもバクテリアのDNAに近い状態で存在しています。また、遺伝情報の発現にかかわる転写や翻訳の仕組み(例えばmRNAの構造やリボソームの構造、性質など)もバクテリアに類似しており、核や細胞質とは異質です。
・ 分子系統解析の結果
分子系統解析は、DNAの塩基配列を多数の生物で比較し、進化の過程を推測する方法です。リボソーム小サブユニットを構成するrRNA (16S-like rRNA) の保存されている領域の塩基配列を様々な生物間で比較すると、生物は大きく3つのグループ(真核生物、真正細菌、古細菌)に分かれることが分かりました。そのとき、葉緑体のDNAにコードされるrRNAは、真核生物(植物は、ここに含まれます)ではなく真正細菌(バクテリア)のグループに含まれ、中でもシアノバクテリアと一番近いことが分かりました。ちなみに、ミトコンドリアDNAにコードされるrRNAも真正細菌のグループに入りますが、葉緑体のDNAにコードされるrRNAとは少し離れたグループに属します。この結果からは、ミトコンドリアと葉緑体のDNAが「真核生物の細胞内で細胞核のDNAから分かれてできた」というよりも、「それぞれ別々の真正細菌が細胞内共生することによって真核生物の細胞内に持ち込まれた」、と理解するのが自然です。
奈良女子大学
酒井 敦
回答日:2007-08-06
酒井 敦
回答日:2007-08-06