質問者:
会社員
グレープシード
登録番号1027
登録日:2006-09-02
過去に黒豆のプロアントシアニジンについて、非水溶性と書かれていましたが、サプリメントの説明文では水溶性で体に吸収されやすいとの説明があったり、シードオイルメーカーの説明ではシードオイル中の有効成分として説明されていたり、水溶性か非水溶性か、良く判りません。みんなのひろば
葡萄の種のプロアントシアニジン
私自身、庭で葡萄を作っていて、葡萄の種をどのように食すれば、プロアントシアニジン等の有効成分を吸収することが出来るのか知りたいと思い、相談しました。
今日TVのある番組ではゼリーにして食べているようでしたが、具体的にどのようにしたのか、説明がありませんでした。(磨り潰せばペクチンと一緒に溶け出す?)
定年後、抽出装置&蒸留装置等を購入して、プロアントシアニジンなどの有効成分を個人的に取り出してみたいのですが、水溶性であれば、水蒸気蒸留で熱分化しないですか、非水溶性であれば何(EtOH)で抽出する事ができますか。
グレープシード さん:
プロアントシアニジンに関するご質問の回答が大変遅くなり申し訳ありません。ご質問は、ご専門の千葉大学大学院 山崎 真巳先生にうかがい、次のような大変詳しい解説を頂きました。
最近、健康食品類に関する情報が溢れていますが、メーカーやマスコミによる解説には、宣伝目的の強調表現やわかりやすくするための説明の省略もあり、情報の正確さを追求する方は「はてな」と思われることも多いかもしれません。今回のご質問にはなるべく科学的に矛盾のないようにお答えしようと思います。
まず、プロアントシアニジンは単一の化合物ではないこと、水溶性・非水溶性という表現が相対的なものであることに留意してください。プロアントシアニジンは、カテキンやエピカテキンンなどのフラバン3-オール類が縮合した構造を基本骨格とする多量体の総称です。炭素-炭素結合の開裂により赤色のアントシアニジンを生じることからプロアントシアニジン(アントシアニジンの前駆体)と呼ばれています。これらの分子内には、反応性の高いフェノール性水酸基が多いのでラジカル消去活性や抗酸化活性を示し、発ガン抑制や動脈硬化予防効果などの様々な作用を示します。
プロアントシアニジンは、ブドウをはじめリンゴ、カキなどの果物類、お茶やカカオ、大豆や小麦などの穀類、樹木の樹皮などに広く含まれています。植物体内では配糖化などの様々な分子修飾をうけた多様な化合物の混合物として存在しています。構造が多様なので水溶性などの性質にも幅があります。一般的に縮合度の高い高分子ほど水溶性が低いと考えられますが、共存する物質、有機酸、金属、タンパク質などによってもその水溶性は大きく変化します。例えば、プロアントシアニジンを多く含む品種の大麦麦芽でビールを醸造すると、ビール中のタンパク質とプロアントシアニジンが結合して不溶性になり濁ったビールができることが知られています。また、ワインに含まれるプロアントシアニジンは高分子ですが安定な色素として可溶性です。
さて、私たちが健康維持のためにプロアントシアニジンを摂取する場合、どのような形のプロアントシアニジンが最もよいのか?これもまた難しい質問です。飲食の後、消化液とよく混合されるためには水溶性の高い方がよいと考えられます。しかし、腸管膜を透過する瞬間には脂溶性の高い方がよく吸収されます。油分の多い食事をした時はどうでしょうか。消化液や腸内細菌との関係も考えなければなりません。等々、健康効果に影響するファクターは数えきれません。さいわいなことに近年様々なプロアントシアニジンについての実験データが発表されています。例えば、ブドウ種子エキスを製品化したキッコーマン(株)では、ブドウ種子から水と醸造酒を使ってプロアントシアニジンを40%程度含む画分を抽出し、苦みを軽減するなどの処理をしています。このエキスについて動脈硬化抑制作用、発ガン抑制作用、糖尿病予防作用がありその作用が単量体のカテキンより強いことを動物実験で明らかにしています。さらにヒトでも運動にともなう酸化ストレスを予防する生理作用と運動による筋力低下を抑制する生理作用があることを発表しています。ちなみにこのエキス製品は水に可溶、水を含むエタノールに易溶です。また、九州沖縄農業研究センターでは、黒大豆・茶大豆抽出物のゲル濾過を行い、エタノール溶出画分(アントシアニンを含む)、メタノール画分(低重合度プロアントシアニジンを含む)、70%アセトン画分(高重合度プロアントシアニジンを含む)に分けて、それぞれのラジカル消去活性および高血圧予防に関連するACE阻害活性を試験管内で調べたところ70%アセトン画分が最も活性が高かったと報告しています。結論としては、それぞれの植物に含まれるプロアントシアニジンの組成により最適な抽出法も異なります。
最後に、プロアントシアニジンが健康によく、サプリメントとして有望なことには疑いようもありません。しかし、これらは私たちが日常的に摂取する果物や穀類にたっぷり含まれているのも忘れないでください。サプリメントはあくまでも通常の食事の補助的なものと考えるべきでしょう。
山崎 真巳(千葉大学大学院薬学研究院)
プロアントシアニジンに関するご質問の回答が大変遅くなり申し訳ありません。ご質問は、ご専門の千葉大学大学院 山崎 真巳先生にうかがい、次のような大変詳しい解説を頂きました。
最近、健康食品類に関する情報が溢れていますが、メーカーやマスコミによる解説には、宣伝目的の強調表現やわかりやすくするための説明の省略もあり、情報の正確さを追求する方は「はてな」と思われることも多いかもしれません。今回のご質問にはなるべく科学的に矛盾のないようにお答えしようと思います。
まず、プロアントシアニジンは単一の化合物ではないこと、水溶性・非水溶性という表現が相対的なものであることに留意してください。プロアントシアニジンは、カテキンやエピカテキンンなどのフラバン3-オール類が縮合した構造を基本骨格とする多量体の総称です。炭素-炭素結合の開裂により赤色のアントシアニジンを生じることからプロアントシアニジン(アントシアニジンの前駆体)と呼ばれています。これらの分子内には、反応性の高いフェノール性水酸基が多いのでラジカル消去活性や抗酸化活性を示し、発ガン抑制や動脈硬化予防効果などの様々な作用を示します。
プロアントシアニジンは、ブドウをはじめリンゴ、カキなどの果物類、お茶やカカオ、大豆や小麦などの穀類、樹木の樹皮などに広く含まれています。植物体内では配糖化などの様々な分子修飾をうけた多様な化合物の混合物として存在しています。構造が多様なので水溶性などの性質にも幅があります。一般的に縮合度の高い高分子ほど水溶性が低いと考えられますが、共存する物質、有機酸、金属、タンパク質などによってもその水溶性は大きく変化します。例えば、プロアントシアニジンを多く含む品種の大麦麦芽でビールを醸造すると、ビール中のタンパク質とプロアントシアニジンが結合して不溶性になり濁ったビールができることが知られています。また、ワインに含まれるプロアントシアニジンは高分子ですが安定な色素として可溶性です。
さて、私たちが健康維持のためにプロアントシアニジンを摂取する場合、どのような形のプロアントシアニジンが最もよいのか?これもまた難しい質問です。飲食の後、消化液とよく混合されるためには水溶性の高い方がよいと考えられます。しかし、腸管膜を透過する瞬間には脂溶性の高い方がよく吸収されます。油分の多い食事をした時はどうでしょうか。消化液や腸内細菌との関係も考えなければなりません。等々、健康効果に影響するファクターは数えきれません。さいわいなことに近年様々なプロアントシアニジンについての実験データが発表されています。例えば、ブドウ種子エキスを製品化したキッコーマン(株)では、ブドウ種子から水と醸造酒を使ってプロアントシアニジンを40%程度含む画分を抽出し、苦みを軽減するなどの処理をしています。このエキスについて動脈硬化抑制作用、発ガン抑制作用、糖尿病予防作用がありその作用が単量体のカテキンより強いことを動物実験で明らかにしています。さらにヒトでも運動にともなう酸化ストレスを予防する生理作用と運動による筋力低下を抑制する生理作用があることを発表しています。ちなみにこのエキス製品は水に可溶、水を含むエタノールに易溶です。また、九州沖縄農業研究センターでは、黒大豆・茶大豆抽出物のゲル濾過を行い、エタノール溶出画分(アントシアニンを含む)、メタノール画分(低重合度プロアントシアニジンを含む)、70%アセトン画分(高重合度プロアントシアニジンを含む)に分けて、それぞれのラジカル消去活性および高血圧予防に関連するACE阻害活性を試験管内で調べたところ70%アセトン画分が最も活性が高かったと報告しています。結論としては、それぞれの植物に含まれるプロアントシアニジンの組成により最適な抽出法も異なります。
最後に、プロアントシアニジンが健康によく、サプリメントとして有望なことには疑いようもありません。しかし、これらは私たちが日常的に摂取する果物や穀類にたっぷり含まれているのも忘れないでください。サプリメントはあくまでも通常の食事の補助的なものと考えるべきでしょう。
山崎 真巳(千葉大学大学院薬学研究院)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-09-28
今関 英雅
回答日:2006-09-28