質問者:
大学院生
いちし
登録番号1048
登録日:2006-09-12
私は大学で長期間の塩水湛水条件下でのイネの耐塩性を研究している学生です。みんなのひろば
NaCl過剰害ではNaとClどちらの影響が大きいか
以前学会の懇親会で農業試験場の方から「NaCl過剰害ではNaとClどちらの影響が強いのですか」と聞かれ、答えられませんでした。
帰ってから調べてみたところ、鳥取大学の山内益夫先生の論文でイネではNaの影響のほうが強いという論文がみつかりました。
しかしそれ以外ではほぼ等量のNaとClが吸収されるにも関わらず、イネの塩抵抗性を調べる研究ではほとんどNaの影響しか調べられていません。
何かイネではNaのみを調べるようになった歴史的経緯のようなものがあるのでしょうか?
また実際にNaとClどちらの影響が強いのでしょうか?
いちし さま
植物に対するNaClの作用について、長い間詳しく研究を続けておられる岡山大学・資源生物科学研究所・且原 真木 先生から、次のような解説を頂きました。なお、これ迄にNaClの植物に対する作用については、本質問コーナーの登録番号0126、登録番号0412、登録番号0484、登録番号0578、登録番号0582、登録番号0894の回答にも触れられていますので参考にして下さい。
NaClによる塩ストレス(塩害)の原因が、Naイオンによるものか、Clイオンによるものか、あるいは浸透圧によるものか、ということについては、現在もはっきりと結論づけられてはいません。しかし以下のようなことはほぼ認められているようです。
1) 浸透圧とNaイオン濃度が複合的(不可分的に)に影響している。
2) 浸透圧とNaイオン濃度のどちらがより強く影響するか、また影響の割合については植物種によって異なる。
3) Clイオン濃度が塩害の主要因となる植物は少ない。
等しい浸透圧になるように非電解質(PEG溶液)、NaCl、KCl、CaCl2などの溶液でさまざまな植物を生育させた実験とその時のイオンの含有量から、このような理解になっています。イネも含めてNaClによる害がCaCl2の添加で軽減される例が多い(水耕栽培でも認められるので、土壌粒子状態などの物理的な改善効果だけではない)ことも、3)の推察を支持します。
イネでは非電解質溶液での処理より電解質溶液での処理の方が、生育抑制が大きく、Na含有量が生育程度に最も相関が高いことから、Naイオンが最大の因子であろうと考えられています(参考資料:日本土壌肥料学会編「塩類集積土壌と農業」)。ムギ類も同様のようです。このような状況ですので、多くの場合Naイオンを重点的に調べることになっています。ただ作物が変われば3つの要因をきちんと比較しなければなりませんが、必ずしも比較されていない場合もあるようです。
Clイオンが主因であるとされる研究例(作物はChickpea)もありますが(http://crops.confex.com/crops/wc2006/techprogram/P11307.HTM)、Clイオン主因説は間違いであるという主張もあります。
参考論文
T Kinraide: Interactions among Ca2+, Na+ and K+ in salinity toxicity: quantitative resolution of multiple toxic and ameliorative effects. Journal of Experimental Botany, 50:1495-1505 (1999)
且原 真木(岡山大学・生物資源科学研究所)
植物に対するNaClの作用について、長い間詳しく研究を続けておられる岡山大学・資源生物科学研究所・且原 真木 先生から、次のような解説を頂きました。なお、これ迄にNaClの植物に対する作用については、本質問コーナーの登録番号0126、登録番号0412、登録番号0484、登録番号0578、登録番号0582、登録番号0894の回答にも触れられていますので参考にして下さい。
NaClによる塩ストレス(塩害)の原因が、Naイオンによるものか、Clイオンによるものか、あるいは浸透圧によるものか、ということについては、現在もはっきりと結論づけられてはいません。しかし以下のようなことはほぼ認められているようです。
1) 浸透圧とNaイオン濃度が複合的(不可分的に)に影響している。
2) 浸透圧とNaイオン濃度のどちらがより強く影響するか、また影響の割合については植物種によって異なる。
3) Clイオン濃度が塩害の主要因となる植物は少ない。
等しい浸透圧になるように非電解質(PEG溶液)、NaCl、KCl、CaCl2などの溶液でさまざまな植物を生育させた実験とその時のイオンの含有量から、このような理解になっています。イネも含めてNaClによる害がCaCl2の添加で軽減される例が多い(水耕栽培でも認められるので、土壌粒子状態などの物理的な改善効果だけではない)ことも、3)の推察を支持します。
イネでは非電解質溶液での処理より電解質溶液での処理の方が、生育抑制が大きく、Na含有量が生育程度に最も相関が高いことから、Naイオンが最大の因子であろうと考えられています(参考資料:日本土壌肥料学会編「塩類集積土壌と農業」)。ムギ類も同様のようです。このような状況ですので、多くの場合Naイオンを重点的に調べることになっています。ただ作物が変われば3つの要因をきちんと比較しなければなりませんが、必ずしも比較されていない場合もあるようです。
Clイオンが主因であるとされる研究例(作物はChickpea)もありますが(http://crops.confex.com/crops/wc2006/techprogram/P11307.HTM)、Clイオン主因説は間違いであるという主張もあります。
参考論文
T Kinraide: Interactions among Ca2+, Na+ and K+ in salinity toxicity: quantitative resolution of multiple toxic and ameliorative effects. Journal of Experimental Botany, 50:1495-1505 (1999)
且原 真木(岡山大学・生物資源科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-09-15
浅田 浩二
回答日:2006-09-15