質問者:
高校生
けんじ
登録番号1049
登録日:2006-09-15
先日は花粉管の伸長についてのご丁寧な解答ありがとうございました。みんなのひろば
長日植物と短日植物の花芽形成
今回も受験に向けての学習のなかでふと疑問に思ったことがありました。
出来るだけ自分で調べてみたのですが、それらしき答えを見つけることができなかったので、質問させていただきます。
フィトクロムPfr型の場合は長日植物が花芽を形成し、Pr型の場合は短日植物が花芽を形成すると習いましたが、これは、Pfr型が活性型で長日植物の花芽形成を促進していることによる、と資料集などには書かれています。
では、逆に短日植物が花芽を形成するのは、形成をPr型が促進するからなのでしょうか?
もしくは、Pfr型が短日植物の花芽形成を抑制するから、Pr型の時に花芽が形成されるということでしょうか?
また、その時はどのような仕組み(物質の移動や作用など)で長日植物・短日植物それぞれの花芽が形成されるのでしょうか??
回答よろしくお願いします。
けんじ さん:
回答が遅れて申し訳ありませんでした。
まずはPr型とPfr型の問題から述べます。実は、「けんじ」さんの質問にあるような疑問は、長い間、フィトクロム研究者を悩ませてきました。つまり、「Pr型とPfr型のどちらがより重要か?」という問題です。いくら光の当て方を工夫しても、Pr型を減らせばPfr型が増えてしまうため、結果として生じた現象が、「Pr型が減った」ことによるのか、「Pfr型が増えた」ことによるのか、なかなか見分けがつかなかったわけです。そのような中、10数年前にフィトクロムを持たない変異体が見つかりました。これらの変異体は、Pr型しか存在しない条件下、すなわち暗黒下で正常に生育しました。一方、Pfr型が優勢な条件下、すなわち明るい所では、あたかも光を感じていないように見えました。このような実験により、フィトクロムではPfr型が重要で、Pr型自体にはあまり意味が無いことが分かりました。従って、花芽形成においても基本的にはPfr型の量が重要と考えられます。
さて、フィトクロムについて上のように述べましたが、「けんじ」さんの質問の答えとなると簡単ではありません。まずは、花芽形成においてフィトクロムに加えてクリプトクロムという新しいタイプの光受容体(光感受性タンパク質)が重要な役割を果たしていることが分かってきました。また、フィトクロムには種類があり、花芽形成を促進するフィトクロムと抑制するフィトクロムがあることも分かってきました。これらの新しい知見は、長日植物であるシロイヌナズナや短日植物であるイネで変異体を用いた研究が進展することにより得られました。例えばシロイヌナズナでは、日長を感じる上ではクリプトクロムの方がフィトクロムより重要であることなどがわかっています。また、長日植物と短日植物では同じ光受容体でも働き方に差があるようです。
以上の通りですので、花芽形成の光による制御機構は、高校の教科書に書かれているより、はるかに複雑だということになります。単純に、「短日植物ではPfr型が減少することが原因で花芽が形成される」、というようなことは言えないわけです。現在、変異体を用いた詳しい研究が複数の植物種で進行中ですので、近い将来、このあたりの混乱が整理され、個々の光受容体の働きと花芽形成の関係が統一的に理解できるようになることを期待しています。
最後に、光受容体が光を感知したあと、どのようにして花芽が形成されるか、という問題ですが、最近になって興味深いことがいろいろと分かってきました。光受容体で感知されたシグナルにより、FTと名づけられたタンパク質の葉における蓄積量が制御されます。葉でFTタンパク質の量が増えると、その刺激が何らかの仕組みにより茎頂(茎の先端の成長点)に伝えられ、そこで花芽形成が開始されます。この仕組みについては、長日植物と短日植物で共通しています。葉から茎頂への花芽形成促進シグナルというと、フロリゲンという言葉を思い出されるかもしれません。まさにFTタンパク質は、謎の因子フロリゲンに密接に関係するものとして、現在、大きな注目を集めています。
フィトクロムと花芽形成の関係については、本コーナー登録番号0597の回答において、井澤先生がより詳しく説明されていますので、興味があればそちらも参照ください。以上、「けんじ」さんの質問に、最新の知見をもとに回答させていただきました。「けんじ」さんを混乱させることになってしまったかもしれませんが、なかなか一筋縄ではいかないのが生き物ですし、私どもは、そこが面白いところと考え研究を続けております。
回答が遅れて申し訳ありませんでした。
まずはPr型とPfr型の問題から述べます。実は、「けんじ」さんの質問にあるような疑問は、長い間、フィトクロム研究者を悩ませてきました。つまり、「Pr型とPfr型のどちらがより重要か?」という問題です。いくら光の当て方を工夫しても、Pr型を減らせばPfr型が増えてしまうため、結果として生じた現象が、「Pr型が減った」ことによるのか、「Pfr型が増えた」ことによるのか、なかなか見分けがつかなかったわけです。そのような中、10数年前にフィトクロムを持たない変異体が見つかりました。これらの変異体は、Pr型しか存在しない条件下、すなわち暗黒下で正常に生育しました。一方、Pfr型が優勢な条件下、すなわち明るい所では、あたかも光を感じていないように見えました。このような実験により、フィトクロムではPfr型が重要で、Pr型自体にはあまり意味が無いことが分かりました。従って、花芽形成においても基本的にはPfr型の量が重要と考えられます。
さて、フィトクロムについて上のように述べましたが、「けんじ」さんの質問の答えとなると簡単ではありません。まずは、花芽形成においてフィトクロムに加えてクリプトクロムという新しいタイプの光受容体(光感受性タンパク質)が重要な役割を果たしていることが分かってきました。また、フィトクロムには種類があり、花芽形成を促進するフィトクロムと抑制するフィトクロムがあることも分かってきました。これらの新しい知見は、長日植物であるシロイヌナズナや短日植物であるイネで変異体を用いた研究が進展することにより得られました。例えばシロイヌナズナでは、日長を感じる上ではクリプトクロムの方がフィトクロムより重要であることなどがわかっています。また、長日植物と短日植物では同じ光受容体でも働き方に差があるようです。
以上の通りですので、花芽形成の光による制御機構は、高校の教科書に書かれているより、はるかに複雑だということになります。単純に、「短日植物ではPfr型が減少することが原因で花芽が形成される」、というようなことは言えないわけです。現在、変異体を用いた詳しい研究が複数の植物種で進行中ですので、近い将来、このあたりの混乱が整理され、個々の光受容体の働きと花芽形成の関係が統一的に理解できるようになることを期待しています。
最後に、光受容体が光を感知したあと、どのようにして花芽が形成されるか、という問題ですが、最近になって興味深いことがいろいろと分かってきました。光受容体で感知されたシグナルにより、FTと名づけられたタンパク質の葉における蓄積量が制御されます。葉でFTタンパク質の量が増えると、その刺激が何らかの仕組みにより茎頂(茎の先端の成長点)に伝えられ、そこで花芽形成が開始されます。この仕組みについては、長日植物と短日植物で共通しています。葉から茎頂への花芽形成促進シグナルというと、フロリゲンという言葉を思い出されるかもしれません。まさにFTタンパク質は、謎の因子フロリゲンに密接に関係するものとして、現在、大きな注目を集めています。
フィトクロムと花芽形成の関係については、本コーナー登録番号0597の回答において、井澤先生がより詳しく説明されていますので、興味があればそちらも参照ください。以上、「けんじ」さんの質問に、最新の知見をもとに回答させていただきました。「けんじ」さんを混乱させることになってしまったかもしれませんが、なかなか一筋縄ではいかないのが生き物ですし、私どもは、そこが面白いところと考え研究を続けております。
京都大学大学院
長谷あきら
回答日:2006-11-16
長谷あきら
回答日:2006-11-16