一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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米のたんぱく質

質問者:   会社員   コシヒカリ
登録番号1056   登録日:2006-09-25
お米の栽培について大変興味があります。
お米のたんぱく質を減らすと食味が良くなると聞きます。
窒素成分を吸収し、たんぱく質に変化すると認識していますが、なるべく窒素を少なくして栽培したいと考えております。
良い方法を教えてください。
コシヒカリ さま

窒素肥料の施用をコントロールしておいしいお米を生産する方法についてのご質問ですが、これまでイネ種子でのタンパク質合成について長く研究を重ねてこられた、山口県立大学・生活科学部 小川 雅広 先生にお尋ねいたしましたところ、次のような詳しい回答を頂きましたので、ご参考にして下さい。

イネの生育には、珪素を含め15種類の無機養分を必要とします。このうち土壌に欠乏している養分を肥料として与えなければ、イネの生育が衰え、収量が低下します。窒素は、カリウムやリン酸と共に、土壌に最も不足しやすい無機養分であるため、イネの生育、収量は窒素の施肥量に大きく影響されます。この点についてこれまで詳しく解析され、どれだけの窒素を、どの時期に施用すれば最も高い収量が得られるか、明らかにされています。収量を確保するためのこれまでの標準的な施肥法は、田植えをする水田に出穂期までの生育に必要な窒素を初めとする肥料(元肥とよびます)を施肥し、ついで、穂の形成時期に施肥し(穂肥とよびます)、さらに、イネが出穂する時期に種実が充分に生産できるように窒素などの肥料(実肥とよびます)を施肥する方法です。

おいしいお米を栽培するには、元肥だけを与え、穂肥、実肥を与えないのが一つの方法です。このようにして窒素肥料の施肥量を制限すれば、おいしいお米を収穫できます。しかしながらこの方法で栽培すると、収量は当然のことながら低下し、上の標準施肥法に比べほぼ7〜8割の収穫量になります。この場合注意すべき点として、登塾期にリン酸肥料が欠乏しやすくなるため、育苗の段階でリン酸肥料を十分に施肥して育てた苗を移植する必要があります。
実肥を施肥すれば収量を高くすることはできますが、この施肥がお米の味を最も低下させるといわれています。その原因は、実肥の施用によってプロラミンという水に溶けにくいタンパク質が、玄米の外皮(糊粉層)と胚乳(白米)との間の層(亜糊粉層)の部分に集積します。この様に白米(精白米)の表面にプロラミンが集まったお米を炊飯すると、米粒への水分吸収が妨げられるため、お米の味を低下させると考えられています。従ってプロラミンが、お米の味に最も関係していると考えられています。
お米の主要タンパク質はグルテリンというタンパク質ですが、これは白米全体に分布し、プロラミンと異なり溶解性が高く、しかも栄養価も高く、実肥の施肥によってプロラミンほど大きく変動しない特徴があります。しかし、お米の食味とグルテリンとの関係は、まだはっきりとしていません。お米の食味をそこに含まれるタンパク質だけで説明できるだけの科学的なデータは、残念ながら不十分といわざるを得ません。
お米の味はお米に含まれる他の成分とも深く関係していますので、タンパク質のみならず、デンプン特にアミロースの量が重要です。さらに脂質やカルシウム、マグネシウムなど無機成分の含量などが、お米の味に影響を及ぼします。さらに、現在、地球温暖化による気温の上昇がイネの生育や種実の登熟に微妙に影響を与え始めています。そのために、以上の成分の種子への蓄積が影響を受け、お米の味を低下させると懸念されています。

小川 雅広 (山口県立大学・生活科学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-10-06
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