質問者:
教員
つつつん
登録番号1061
登録日:2006-09-28
褐藻であるホンダワラやヒジキが水中で効率よく光合成を行うために、気胞と呼ばれる器官で浮力を得て、自立することができるということですが、その気胞に含まれる気体成分が何なのかという質問です。みんなのひろば
植物組織内・器官内の気体について
気体成分を調べるうちに、藍藻にも細胞内にガス胞をもち、浮力を得て光合成を行っているものがいることも知りました。
組織内と細胞内という違いはありますが、これらは共通の気体なのでしょうか?併せてよろしくお願いします。
つつつん さん
このご質問への回答を、神戸大学・内海域環境教育研究センターで藻類の生理を研究しれておられる村上 明男先生にお願いしました。大変詳しく調べて下さいましたので、ご参考にして下さい。
(村上先生からの回答)
褐藻類の“浮き袋”(Float, Floater)は、気胞(Air bladder, Gas vesicle)とも呼ばれ、また特に大きく発達した気胞はPneumatocystと呼ばれています。気胞の形は、円柱、球、楕円、紡錘と種により異なり、単独、あるいは数個連結したものが側枝の先端、葉状部の柄部、茎状部の先端など決まった部位に形成されます。大きなものでは直径20cmにも達します。分類上は、ヒバマタ目ホンダワラ科やコンブ目コンブ科、チガイソ科に属する褐藻で気胞が見られます。一方、気胞という特別な器官を分化しないものの、ヒバマタ(ヒバマタ目ヒバマタ科、葉状部先端の膨らみ)、ツルモ(コンブ目ツルモ科、円筒形の藻体)、オニワカメ(コンブ目チガイソ科、葉状部の中肋)、カヤモノリやワタモ(カタモノリ目カヤモノリ科、藻体)などでは、中空になっている各組織の内部に気体を溜めて浮力をもたせています。
ご質問のガス成分についてですが、最近の藻類学などの教科書には記述が少なく、調査にやや手間取りました。やや古い文献が多くまだ入手出来ていないものもあり、またデータの見直しや最新の技術での再測定が必要かもしれませんが、断片的な記述を総合すると次のようになります。
褐藻の気胞のガス成分については1868年に最初の報告がなされ、1915年にカリフォルニア沿岸に生育する大きな気胞をもつケルプの仲間で詳しい分析が行われていますが、現在までに十数編程度の報告にとどまっています。褐藻類の気胞には、窒素、酸素、二酸化炭素が空気と同じような割合で含まれることが多いようです。また、ケルプの一種であるBull kelp (Nereocystis luetkeana)ではこれらの成分の他に高濃度の一酸化炭素COが検出されており、その由来についての考察もなされています。この一酸化炭素は限れた種にだけ検出され、また個体、昼夜の時間帯、気胞の成熟度などの違いにより0-12%の範囲で変動するとの記載があります。しかし、現在でもこの成分の由来や生理的意義については曖昧なままのようです。
一方、シアノバクテリア(藍藻)の場合では、気胞(Gas vacuole)と呼ばれるタンパク質で包まれた細胞小器官を分化させ、この中にガスを溜めて水面近くに浮くことが出来ます。この気胞と同様な構造は、光合成細菌、従属栄養性の細菌、古細菌の中にも広く見られることからシアノバクテリアに特有なものではないようです。浮力の調節が可能なこれらの気胞は、鞭毛などの分化した運動装置をもたない細菌類の移動に役立っているとも考えられています。調べた範囲では、これらの気胞のガス成分を詳細に調べた報告は見あたりません。褐藻類の気胞と異なり、あまりにも小さいので気胞内のガスを集めるのが難しいのでしょう。最近は、気胞を形成するタンパク質についての研究が盛んになっています。周辺の情報からは、気胞内部には空気と同じような成分が含まれているものと思われます。
尚、藻類以外でもホテイアオイやトチカガミのような水草の仲間に葉や葉柄の通気組織を発達させ“浮き袋”として用いているものがいます。このように、“浮き袋”は水という環境に生きる生物が並行して獲得した形質であると考えることができます。
村上 明男(神戸大学・内海域環境教育研究センター)
このご質問への回答を、神戸大学・内海域環境教育研究センターで藻類の生理を研究しれておられる村上 明男先生にお願いしました。大変詳しく調べて下さいましたので、ご参考にして下さい。
(村上先生からの回答)
褐藻類の“浮き袋”(Float, Floater)は、気胞(Air bladder, Gas vesicle)とも呼ばれ、また特に大きく発達した気胞はPneumatocystと呼ばれています。気胞の形は、円柱、球、楕円、紡錘と種により異なり、単独、あるいは数個連結したものが側枝の先端、葉状部の柄部、茎状部の先端など決まった部位に形成されます。大きなものでは直径20cmにも達します。分類上は、ヒバマタ目ホンダワラ科やコンブ目コンブ科、チガイソ科に属する褐藻で気胞が見られます。一方、気胞という特別な器官を分化しないものの、ヒバマタ(ヒバマタ目ヒバマタ科、葉状部先端の膨らみ)、ツルモ(コンブ目ツルモ科、円筒形の藻体)、オニワカメ(コンブ目チガイソ科、葉状部の中肋)、カヤモノリやワタモ(カタモノリ目カヤモノリ科、藻体)などでは、中空になっている各組織の内部に気体を溜めて浮力をもたせています。
ご質問のガス成分についてですが、最近の藻類学などの教科書には記述が少なく、調査にやや手間取りました。やや古い文献が多くまだ入手出来ていないものもあり、またデータの見直しや最新の技術での再測定が必要かもしれませんが、断片的な記述を総合すると次のようになります。
褐藻の気胞のガス成分については1868年に最初の報告がなされ、1915年にカリフォルニア沿岸に生育する大きな気胞をもつケルプの仲間で詳しい分析が行われていますが、現在までに十数編程度の報告にとどまっています。褐藻類の気胞には、窒素、酸素、二酸化炭素が空気と同じような割合で含まれることが多いようです。また、ケルプの一種であるBull kelp (Nereocystis luetkeana)ではこれらの成分の他に高濃度の一酸化炭素COが検出されており、その由来についての考察もなされています。この一酸化炭素は限れた種にだけ検出され、また個体、昼夜の時間帯、気胞の成熟度などの違いにより0-12%の範囲で変動するとの記載があります。しかし、現在でもこの成分の由来や生理的意義については曖昧なままのようです。
一方、シアノバクテリア(藍藻)の場合では、気胞(Gas vacuole)と呼ばれるタンパク質で包まれた細胞小器官を分化させ、この中にガスを溜めて水面近くに浮くことが出来ます。この気胞と同様な構造は、光合成細菌、従属栄養性の細菌、古細菌の中にも広く見られることからシアノバクテリアに特有なものではないようです。浮力の調節が可能なこれらの気胞は、鞭毛などの分化した運動装置をもたない細菌類の移動に役立っているとも考えられています。調べた範囲では、これらの気胞のガス成分を詳細に調べた報告は見あたりません。褐藻類の気胞と異なり、あまりにも小さいので気胞内のガスを集めるのが難しいのでしょう。最近は、気胞を形成するタンパク質についての研究が盛んになっています。周辺の情報からは、気胞内部には空気と同じような成分が含まれているものと思われます。
尚、藻類以外でもホテイアオイやトチカガミのような水草の仲間に葉や葉柄の通気組織を発達させ“浮き袋”として用いているものがいます。このように、“浮き袋”は水という環境に生きる生物が並行して獲得した形質であると考えることができます。
村上 明男(神戸大学・内海域環境教育研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2006-10-05
佐藤 公行
回答日:2006-10-05