質問者:
小学生
リンリン
登録番号1064
登録日:2006-10-02
夏休みの自由研究でブロッコリースプラウトをPH3、5、7、9、11の5種類で育ててみました。植物とPH
けっかは、PH3では発芽早かったのですがそれ以後の成長はあまりよくありませんでした。
反対にPH11では、発芽まではゆっくりでしたがとても成長がよかったのです。
いろいろと本を調べましたが、ちゃんとした答えが見つかりませんでした。
なぜ、酸性側とアルカリ性側の発育に差がでるのか教えてください。
また、ほとんどの本に酸性雨が出てきましたが強酸性水とは違うものなのかも教えてください。
リンリン さん:
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ご質問は登録番号1064で受け付けましたが、ご質問にある実験方法についてもう少し詳しく教えてください。同じような質問が登録番号0331にありますので、まず、その回答をよく読んでください。それにも同じことを伺っていますが、「違ったpHの溶液」の作り方と種子のまきかた が大きな問題なのです。
そこで、
1.リンリンさんが実験をなさったとき、どういう方法で、pH3、5、7、9、11の溶液を作ったのかを詳しく教えてください。
2.種子はどのように蒔きましたか?登録番号0331の問い合わせの2と同じ質問です。
3.ブロッコリースプラウトを育てた、ということですが種子を蒔いた後、明るいところにおいたのか、暗いところのかを教えてください。
リンリンさんのお答え:
はじめまして。リンリンです。
PHの違う溶液は、伯父の歯科医院でうがい用(強酸性)の水を作るための製水器を借りて、5種類の溶液を用意しました。
5個の紙コップを5cmの深さに切って、スポンジを詰めてその上にブロッコリースプラウトの種を20粒まき、溶液は種がつかるくらい(ひたひた)の量にあわせました。
室内の明るい所(直射日光には当ててません)に置き、夏で気温が高く蒸発も多く翌日は、あまりコップの中には残っていなかったのでそのまま水を追加(ひたひたの量)し毎日同じように1週間観察してみました。
強酸性では発芽が早く、逆にアルカリ性では成長が早かったのです。強酸性の芽の長さは2cm、アルカリ性では10cmとかなりの差がでました。
また、5日目頃から強酸性のみにカビが発生しました。
同じ条件で水だけが違うのにこのような結果がでたので驚きました。
強酸性水と酸性雨は同じように植物の成長に影響があるのですか?
いくら本をさがしても、ピンとくる内容の本があ見つかりませんでした。
よろしくおねがいします。
リンリン さん:
詳しい実験の様子を有り難うございました。
大変申し訳ないのですが、私どもの出来るお答えは、0331の回答に尽きます。
問題は「整水器」でつくった水の性質にあります。このような水では、pHを安定に保つことが出来ないので、ほんのわずかでも他の物質が混ざると、pHは大きく変わってしまいます。0331にも説明しましたが、種子が、吸水したり、発芽したりするといろいろな物質を分泌します。その中には、溶液のpHに影響を与える酸性化合物やアルカリ性を与える金属イオン類もあります。ですから、そのような水も最初のpHは違っていたとしても、発芽実験をすると、すぐにpHは変わってしまうはずです。そのため、発芽、成長に及ぼすpHの影響を調べるのに適した水ではないのです。ですから、観察された結果は、何が原因でそうなったのかを引き出すことが出来ないものなのです。
その理由を理解していただくためには、pHとは何かを分かっていただく必要があります。しかし、pHを小学生に分かりやすく説明することはたいへん難しいことです。出来るだけ分かりやすく説明するつもりです。少し長い説明になりますが、ゆっくり読んでください。分からないところがあったら、また質問コーナーに寄せていただくか、お父さんかお母さん、学校の先生にもうかがってください。
水の分子は水素イオン(H+)と水酸化イオン(OH-)という反対の電気を持った二つの粒子が結合したものです。しかし、水の中では分子のほんの少し(1千万分の1)が水素イオンと水酸化イオンに分かれています(電気を持った原子、原子団をイオンといいます)。水では水素イオンと水酸化イオンの数は同じ数ですから中性となります。しかし、ある水溶液の中の水素イオンと水酸化イオンの数を比べたとき、水素イオンの数が水酸化イオンの数よりも多ければ酸性となり、実際に酸っぱく感じます。反対に、水素イオンの数が水酸化イオンよりも少なければアルカリ性となります。pHというのは、溶液の水素イオン(H+)濃度を特別な表し方で示したものなので、1から14までの数で表します。どんなときに水素イオンの数が水酸化イオンの数よりも多くなるでしょうか。お料理に使うお酢は酸っぱいですね、だから酸性です。お酢の酸っぱい成分はさく酸という化合物です。さく酸という分子も、水に溶けると一部が水素イオンとさく酸イオン(マイナス電気を持つ)に分かれます。つまり、お酢の中は、次のような分子とイオンの混合物なのです。
「水分子」+「水分子から出た水素イオン」+「水分子から出た水酸化イオン」+ 「さく酸分子から出た水素イオン」+「さく酸分子から出たさく酸イオン」+「さく酸分子」
この状態では、水素イオンの数が水酸化イオンの数より多くなりますね。酢酸イオンはpHには関係ありません。また、プラスの電気を持つイオンは、必ずマイナスの電気を持つ別のイオンと一緒にいて、電気的に中性が保たれなければなりません。
アルカリ性を示す化合物は、水酸化イオンを出す物質なのです。苛性ソーダは強いアルカリ性を示しますが、水酸化ナトリウムという化合物です。水に溶けると、ナトリウムイオン(プラス電気)と水酸化イオン(マイナス電気)に分かれますので、水溶液の中では水酸化イオンの数が水素イオンの数よりも多くなります。私たちが酸性とかアルカリ性と言う溶液は、このように水素イオンか水酸化イオンを出す物質を加えたときの溶液についてのことなのです。
ところが、整水器でつくるアルカリイオン水とか酸性水と言っているものは、全く違ったもののようなのです。製造者や関係協会などの説明によると、「水に直流電圧をかけて電気分解をすると、マイナス極では水分子が電極から電子を受け取って水素分子と水酸化イオンができ、プラス極では、水分子が電子を失って酸素分子と水素イオンを生ずる」そのため、「マイナス極側の水を集めたのがアルカリイオン水(この言葉自体がよく判らないのですが)、プラス極側の水を集めたのが酸性水です」と言っています。化学的には、水素イオンだけが増えた水とか、水酸化イオンだけが増えた水というものは存在し得ないのです。必ず、水素イオンが増えれば、マイナス電気を持ったイオンが、水酸化イオンが増えれば、プラスの電気を持ったイオンが、電気的に中性になる数だけ存在しなければならないのです。水道水にはいろいろな物質が混入していますから、pHに影響を与えない何かの反対イオン(水素イオンに対してはマイナス電気のイオン)があるのでしょう。
こうして出来た「アルカリ水」「酸性水」は、水素イオンや水酸化イオンの濃度がとても低いので、ほんのわずかの混入物が加わるとpHはすぐに変わってしまいます。私たちが、植物成長に及ぼすpHの影響を調べるときには、緩衝液というpHが簡単に変化しない特別の溶液を使用します。
最後に、酸性雨についてお答えします。工場、自動車、艦船などで燃料とする重油、軽油などの石油類や石炭には硫黄分がたくさん含まれています。これらを燃やすと、硫黄分は酸化されて二酸化硫黄(亜硫酸ガス)となり、排気ガスと一緒に排出され、空気中に貯まったり、雲の水滴に溶けたりします。さらに、空気中の他の汚染物質などが触媒となって酸化されて硫酸となり、雲や霧の中に硫酸ミストとしても浮遊します。このような雲が雨になったり、汚染空気のなかを雨がとおると、二酸化硫黄や硫酸が雨水に溶けて地上に落ちてきます。このような雨を酸性雨と言います。雨水はうすい硫酸や亜硫酸の溶液と同じことになります。亜硫酸も硫酸もたいへん強い酸性物質である上に、植物などに強い毒性を示しますので、酸性雨が降ると深刻なことがおきるのです。今では、工場では、排気ガスの脱硫(硫黄分を除く)が義務づけられています。整水器でつくった「強酸性水」などとは全く性質の違うものです。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ご質問は登録番号1064で受け付けましたが、ご質問にある実験方法についてもう少し詳しく教えてください。同じような質問が登録番号0331にありますので、まず、その回答をよく読んでください。それにも同じことを伺っていますが、「違ったpHの溶液」の作り方と種子のまきかた が大きな問題なのです。
そこで、
1.リンリンさんが実験をなさったとき、どういう方法で、pH3、5、7、9、11の溶液を作ったのかを詳しく教えてください。
2.種子はどのように蒔きましたか?登録番号0331の問い合わせの2と同じ質問です。
3.ブロッコリースプラウトを育てた、ということですが種子を蒔いた後、明るいところにおいたのか、暗いところのかを教えてください。
リンリンさんのお答え:
はじめまして。リンリンです。
PHの違う溶液は、伯父の歯科医院でうがい用(強酸性)の水を作るための製水器を借りて、5種類の溶液を用意しました。
5個の紙コップを5cmの深さに切って、スポンジを詰めてその上にブロッコリースプラウトの種を20粒まき、溶液は種がつかるくらい(ひたひた)の量にあわせました。
室内の明るい所(直射日光には当ててません)に置き、夏で気温が高く蒸発も多く翌日は、あまりコップの中には残っていなかったのでそのまま水を追加(ひたひたの量)し毎日同じように1週間観察してみました。
強酸性では発芽が早く、逆にアルカリ性では成長が早かったのです。強酸性の芽の長さは2cm、アルカリ性では10cmとかなりの差がでました。
また、5日目頃から強酸性のみにカビが発生しました。
同じ条件で水だけが違うのにこのような結果がでたので驚きました。
強酸性水と酸性雨は同じように植物の成長に影響があるのですか?
いくら本をさがしても、ピンとくる内容の本があ見つかりませんでした。
よろしくおねがいします。
リンリン さん:
詳しい実験の様子を有り難うございました。
大変申し訳ないのですが、私どもの出来るお答えは、0331の回答に尽きます。
問題は「整水器」でつくった水の性質にあります。このような水では、pHを安定に保つことが出来ないので、ほんのわずかでも他の物質が混ざると、pHは大きく変わってしまいます。0331にも説明しましたが、種子が、吸水したり、発芽したりするといろいろな物質を分泌します。その中には、溶液のpHに影響を与える酸性化合物やアルカリ性を与える金属イオン類もあります。ですから、そのような水も最初のpHは違っていたとしても、発芽実験をすると、すぐにpHは変わってしまうはずです。そのため、発芽、成長に及ぼすpHの影響を調べるのに適した水ではないのです。ですから、観察された結果は、何が原因でそうなったのかを引き出すことが出来ないものなのです。
その理由を理解していただくためには、pHとは何かを分かっていただく必要があります。しかし、pHを小学生に分かりやすく説明することはたいへん難しいことです。出来るだけ分かりやすく説明するつもりです。少し長い説明になりますが、ゆっくり読んでください。分からないところがあったら、また質問コーナーに寄せていただくか、お父さんかお母さん、学校の先生にもうかがってください。
水の分子は水素イオン(H+)と水酸化イオン(OH-)という反対の電気を持った二つの粒子が結合したものです。しかし、水の中では分子のほんの少し(1千万分の1)が水素イオンと水酸化イオンに分かれています(電気を持った原子、原子団をイオンといいます)。水では水素イオンと水酸化イオンの数は同じ数ですから中性となります。しかし、ある水溶液の中の水素イオンと水酸化イオンの数を比べたとき、水素イオンの数が水酸化イオンの数よりも多ければ酸性となり、実際に酸っぱく感じます。反対に、水素イオンの数が水酸化イオンよりも少なければアルカリ性となります。pHというのは、溶液の水素イオン(H+)濃度を特別な表し方で示したものなので、1から14までの数で表します。どんなときに水素イオンの数が水酸化イオンの数よりも多くなるでしょうか。お料理に使うお酢は酸っぱいですね、だから酸性です。お酢の酸っぱい成分はさく酸という化合物です。さく酸という分子も、水に溶けると一部が水素イオンとさく酸イオン(マイナス電気を持つ)に分かれます。つまり、お酢の中は、次のような分子とイオンの混合物なのです。
「水分子」+「水分子から出た水素イオン」+「水分子から出た水酸化イオン」+ 「さく酸分子から出た水素イオン」+「さく酸分子から出たさく酸イオン」+「さく酸分子」
この状態では、水素イオンの数が水酸化イオンの数より多くなりますね。酢酸イオンはpHには関係ありません。また、プラスの電気を持つイオンは、必ずマイナスの電気を持つ別のイオンと一緒にいて、電気的に中性が保たれなければなりません。
アルカリ性を示す化合物は、水酸化イオンを出す物質なのです。苛性ソーダは強いアルカリ性を示しますが、水酸化ナトリウムという化合物です。水に溶けると、ナトリウムイオン(プラス電気)と水酸化イオン(マイナス電気)に分かれますので、水溶液の中では水酸化イオンの数が水素イオンの数よりも多くなります。私たちが酸性とかアルカリ性と言う溶液は、このように水素イオンか水酸化イオンを出す物質を加えたときの溶液についてのことなのです。
ところが、整水器でつくるアルカリイオン水とか酸性水と言っているものは、全く違ったもののようなのです。製造者や関係協会などの説明によると、「水に直流電圧をかけて電気分解をすると、マイナス極では水分子が電極から電子を受け取って水素分子と水酸化イオンができ、プラス極では、水分子が電子を失って酸素分子と水素イオンを生ずる」そのため、「マイナス極側の水を集めたのがアルカリイオン水(この言葉自体がよく判らないのですが)、プラス極側の水を集めたのが酸性水です」と言っています。化学的には、水素イオンだけが増えた水とか、水酸化イオンだけが増えた水というものは存在し得ないのです。必ず、水素イオンが増えれば、マイナス電気を持ったイオンが、水酸化イオンが増えれば、プラスの電気を持ったイオンが、電気的に中性になる数だけ存在しなければならないのです。水道水にはいろいろな物質が混入していますから、pHに影響を与えない何かの反対イオン(水素イオンに対してはマイナス電気のイオン)があるのでしょう。
こうして出来た「アルカリ水」「酸性水」は、水素イオンや水酸化イオンの濃度がとても低いので、ほんのわずかの混入物が加わるとpHはすぐに変わってしまいます。私たちが、植物成長に及ぼすpHの影響を調べるときには、緩衝液というpHが簡単に変化しない特別の溶液を使用します。
最後に、酸性雨についてお答えします。工場、自動車、艦船などで燃料とする重油、軽油などの石油類や石炭には硫黄分がたくさん含まれています。これらを燃やすと、硫黄分は酸化されて二酸化硫黄(亜硫酸ガス)となり、排気ガスと一緒に排出され、空気中に貯まったり、雲の水滴に溶けたりします。さらに、空気中の他の汚染物質などが触媒となって酸化されて硫酸となり、雲や霧の中に硫酸ミストとしても浮遊します。このような雲が雨になったり、汚染空気のなかを雨がとおると、二酸化硫黄や硫酸が雨水に溶けて地上に落ちてきます。このような雨を酸性雨と言います。雨水はうすい硫酸や亜硫酸の溶液と同じことになります。亜硫酸も硫酸もたいへん強い酸性物質である上に、植物などに強い毒性を示しますので、酸性雨が降ると深刻なことがおきるのです。今では、工場では、排気ガスの脱硫(硫黄分を除く)が義務づけられています。整水器でつくった「強酸性水」などとは全く性質の違うものです。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-10-06
今関 英雅
回答日:2006-10-06