一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の冷却作用

質問者:   小学生   麻寿美
登録番号1072   登録日:2006-10-05
私のお母さんはサラダが大好きです。
どうしてかと言うと、身体が冷えるから夏は涼しくいられると言います。
それは本当ですか?
本当だとしたらそれはなぜですか?
麻寿美 さん

 サラダの大好きなお母さんが、なぜ、夏でも涼しく過ごせるのか?のご質問は医学ではなく、植物について研究をしている私たちにとってたいへん難しい問題です。それでも植物の立場からいくつか考えてみましょう。

第一にサラダは冷たい食べ物ですから、熱いお茶を飲むのに比べれば、暑さを感じなくできるでしょう。しかし、これだけが理由とは思えません。

第二にサラダの大好きなお母さんは野菜をたくさん食べておられることになります。そこに何かその理由がありそうです。

野菜は太陽の光を浴びて大きくなりますが、このとき、光エネルギーを利用して空気中の二酸化炭素からデンプンやタンパク質などなど、いろんな植物の成分を合成することができます(光合成)。こうして植物はこんなことのできないヒトや動物に食料を与えてくれています。私たちが海水浴に行って太陽の光に一日でも当っていると皮膚がひりひりします。一方、ずっと太陽に当って光合成をしている植物の葉は平気なように見えますが、実は植物の葉も太陽に当ってひりひりしているはずです。しかし、植物は太陽の光によって細胞を傷つける原因となる活性酸素を消す成分をたくさん含んでいるため、一生、太陽にさらされていてもちゃんと光合成をして大きくなれるのです。
植物はこの様にいつも日焼けをする危険なところで生きているため、その危険を防ぐ成分をたくさん含んでいます。これがなければ、植物はたちまち日焼けをして枯れてしまうはずです。植物が自分自身を守っているこれらの成分は、ヒトの体にもできる危険な、細胞を傷つける活性酸素を消すのに作用し、ヒトの体を守ってくれます。そのため、野菜、果物など、植物から作られた食べ物を次のようにとるようにすすめられています。野菜、果物を食事のカロリーの7%以上、お米、パンなどを含め植物から作られた食べ物を食事のカロリーの45-60%にする。この様な数字は多くの研究から得られた値であり、例えば、血液中のカロテノイド(植物の色素、細胞が傷つくのを抑える重要な成分、ヒトは体内で合成できない)を多くの家族について計って、その家族が野菜をどれだけ食べているかを求めることができます。多数の家族について測定した結果、血液中のカロテノイドの多い(野菜をたくさん食べる)家族になるほど、その家族がガンにかかる割合が低いことが明らかにされています。

サラダの好きなお母さんは恐らく野菜をはじめとして植物からできる食物を充分にとっておられ、そのため植物の中に含まれている成分によって、細胞が傷を受けるのが抑えられ、暑さも感じないくらい体の調子が良いのではないかと思います。

第三に麻寿美さんはお母さんと同じようにサラダ(野菜)が大好物ですか?そうであればこれまでと同じように、これからも元気に過ごすことができるでしょう。これは上に書いたことからもうなずけるのではないかと思います。もし、麻須美さんがサラダ(野菜)を余り好きでなく、お母さんからいつもサラダを食べる様に言われ、その時、お母さんからサラダを食べると涼しくなるよ、と言われたのではありませんか?お母さんの言われたことに疑問をもって質問されたとすれば、麻須美さんは将来、秀れた科学の研究者になれるでしょう。科学の研究はどんな小さなことでも疑問に思うことをそのまま放っておかないで考えることから出発するものですから。そしてお母さんの言われるように野菜をたくさん食べるようにすれば、一生、元気に科学の研究ができるでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-10-10