質問者:
会社員
古賀
登録番号1073
登録日:2006-10-05
植物の水揚げの『凝集力』についてもう少し詳細を教えて下さい。みんなのひろば
植物の凝集力について
以前の回答で植物の水上げの質問で次のような内容のものがありました。
ここで紹介されている研究の内容、例えばどのようにして導管内部と大気の差圧を調べたんでしょうか?
また植物の種類によってこの値は異なっていることが証明されたんでしょうか?
『アメリカの2つの研究グループが実際に導管内の圧力を測定しマイナス0.5からマイナス3.5気圧になっていることを示して凝集力説は証明されました。』
古賀 さん:
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ご質問は登録番号1073で受け付けました。
ご質問の内容はかなり専門的なもので、「一般の方々の、植物に対する素朴な質問にお答えする」というこのコーナーの主旨からすると、どのようにお答えしたらよいのか迷うところです。背景となる水力学的な理論数式を避けるため、正確さを多少は犠牲にした、ごく定性的な説明になることをご理解ください。それ以上は、原論文をあげておきますので、それらをご参照ください。
ご質問は、水の「凝集力」の詳細と「どのようにして道管内引っ張り力を測定したか」との2点になっています。「水の凝集力」については登録番号0656の回答中にある条件3に詳しく説明されています。要するに水分子がお互いに引き合う力です。
道管内水の負の圧力、すなわち道管内水が受けている引っ張りの力の測定は、次のようにしています。実験植物の枝を水の中で30〜40cmの長さに切りだします。その直後、切り口の一方に圧力をかけ、徐々に圧力をあげていくと、反対側の切り口から導管液が出始めます。そこで、加える圧力勾配当たりの流速を測定します。この値は、道管の水力学的通導性に相当します。この水力学的通導性は、道管内が水で満ちていたときに、ある値を示しますが、道管内の水に気泡があると、極端に低下します。次に、この切り枝をその中央点が遠心機の中心にくるように水平におき、遠心機を回転させます。回転速度、枝の長さなどから、回転の遠心力によって枝の中にある道管にどれだけ引っ張りの力(負の圧力)が加わったかを計算することが出来ます。引っ張り力を一定時間与えた枝を湿ったタオルでくるんでしばらく放置します。これは、枝に回転力を与え、ある限界の力以上になると、道管内の水はその連続性が破れて(引きちぎられて)真空の空間ができますが、その真空空間に周りの組織から空気が入って平衡に達するようにするためです。つまり、引っ張り力で真空空間が出来れば、道管内に気泡が出来たことになります。処理した枝で、処理前に行ったと同じように水力学的通導性を測定します。気泡が出来ていればこの値は初期値より小さくなります。このような測定を、引っ張り力や遠心時間をいろいろ変えて、たくさんの測定点をとり、枝に与えた引っ張り力と水力学的通導性の低下割合の関係を調べ、どのくらいの引っ張り力で水力学的通導性が減少する(気泡ができる)かを測定します。気泡が出来はじめる直前の引っ張り力は、その道管が耐えられる(気泡をつくらない)限界の負の圧力に相当し、マイナス0.5(ポプラ)からマイナス3.5MPa(モミ、ネズ)の陰圧に相当すると結論されています。実際にはポプラ、ヤナギ、カエデ、モミ、ネズ、ハナズオウ(それぞれ、これらの仲間-同じ属-の1種)を測定した結果ですから、多くの植物にも適用できる値と考えられます。
参考論文
1. W.T. Pockmanら:Nature Vol.378, p.715-716, Dec. 1995
"Sustained and significant negative water pressure in xylem"
2. N.M. Holbrook ら:Science Vol.270, p.1193-1194. Nov. 1995
"Negative xylem pressures in plants: a test of the balancing pressure technique."
3. C. Wei ら: Plant Physiology Vol. 121, p. 1191-1206, Dec. 1999
"Direct measurement of xylem pressure in leaves of intact maize plants. A test of the cohesion-tension theory taking hydraulic architecture into consideration."
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ご質問は登録番号1073で受け付けました。
ご質問の内容はかなり専門的なもので、「一般の方々の、植物に対する素朴な質問にお答えする」というこのコーナーの主旨からすると、どのようにお答えしたらよいのか迷うところです。背景となる水力学的な理論数式を避けるため、正確さを多少は犠牲にした、ごく定性的な説明になることをご理解ください。それ以上は、原論文をあげておきますので、それらをご参照ください。
ご質問は、水の「凝集力」の詳細と「どのようにして道管内引っ張り力を測定したか」との2点になっています。「水の凝集力」については登録番号0656の回答中にある条件3に詳しく説明されています。要するに水分子がお互いに引き合う力です。
道管内水の負の圧力、すなわち道管内水が受けている引っ張りの力の測定は、次のようにしています。実験植物の枝を水の中で30〜40cmの長さに切りだします。その直後、切り口の一方に圧力をかけ、徐々に圧力をあげていくと、反対側の切り口から導管液が出始めます。そこで、加える圧力勾配当たりの流速を測定します。この値は、道管の水力学的通導性に相当します。この水力学的通導性は、道管内が水で満ちていたときに、ある値を示しますが、道管内の水に気泡があると、極端に低下します。次に、この切り枝をその中央点が遠心機の中心にくるように水平におき、遠心機を回転させます。回転速度、枝の長さなどから、回転の遠心力によって枝の中にある道管にどれだけ引っ張りの力(負の圧力)が加わったかを計算することが出来ます。引っ張り力を一定時間与えた枝を湿ったタオルでくるんでしばらく放置します。これは、枝に回転力を与え、ある限界の力以上になると、道管内の水はその連続性が破れて(引きちぎられて)真空の空間ができますが、その真空空間に周りの組織から空気が入って平衡に達するようにするためです。つまり、引っ張り力で真空空間が出来れば、道管内に気泡が出来たことになります。処理した枝で、処理前に行ったと同じように水力学的通導性を測定します。気泡が出来ていればこの値は初期値より小さくなります。このような測定を、引っ張り力や遠心時間をいろいろ変えて、たくさんの測定点をとり、枝に与えた引っ張り力と水力学的通導性の低下割合の関係を調べ、どのくらいの引っ張り力で水力学的通導性が減少する(気泡ができる)かを測定します。気泡が出来はじめる直前の引っ張り力は、その道管が耐えられる(気泡をつくらない)限界の負の圧力に相当し、マイナス0.5(ポプラ)からマイナス3.5MPa(モミ、ネズ)の陰圧に相当すると結論されています。実際にはポプラ、ヤナギ、カエデ、モミ、ネズ、ハナズオウ(それぞれ、これらの仲間-同じ属-の1種)を測定した結果ですから、多くの植物にも適用できる値と考えられます。
参考論文
1. W.T. Pockmanら:Nature Vol.378, p.715-716, Dec. 1995
"Sustained and significant negative water pressure in xylem"
2. N.M. Holbrook ら:Science Vol.270, p.1193-1194. Nov. 1995
"Negative xylem pressures in plants: a test of the balancing pressure technique."
3. C. Wei ら: Plant Physiology Vol. 121, p. 1191-1206, Dec. 1999
"Direct measurement of xylem pressure in leaves of intact maize plants. A test of the cohesion-tension theory taking hydraulic architecture into consideration."
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-10-06
今関 英雅
回答日:2006-10-06