一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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彼岸花はどうやって季節を知るのですか?

質問者:   教員   三宅
登録番号1082   登録日:2006-10-15
高校の生物教科書には、植物は夜の長さの変化を葉で感知することで季節を知り、蕾を作り始めると書かれています。この夏、彼岸花が咲いているのを見て、花の時期に葉のないヒガンバナが、どうやって季節を知るのだろう?と思いました。
植物が光周期を利用しているのは、温度変化より夜昼の長さの変化のほうが情報として確実なためだ、と、どこかで聞いた覚えがあるのですが、彼岸花は、地温の変化で季節を知るのでしょうか?
それとも、葉を出している時期に光周期を測って目覚まし時計のスイッチを入れ、決めた日時に芽を出すのでしょうか?
三宅様
ご質問にお答えします。

回答:
質問は「植物はどうやって花を咲かせる時期を決めているのか」という基本的な問題に関わるものです。季節の変化がある地域に生育する植物は、適切な時期に花を咲かせ、結実し、種子が発芽できるよう、それぞれに生活環の進行を環境に適応させています。季節の変化を植物に知らしめるのは日照時間と気温です.高校の教科書に記載されている開花の話は日照と関係するものが中心です。その観点から植物を分けると、一日24時間のサイクルで、連続した日照が時間がある一定の時間より短くなると(暗い時間が長くなると)花芽が形成される植物を短日植物といい、反対に、一定の時間より長くなると(暗い時間が短くなると)花芽ができるものを長日植物とよんでいます。日照に関係なく花芽ができるものは中性植物といいます。一定の時間とは植物の種類によって異なります。このような現象を光周性といいます。光周性は葉によって感知されます。詳しくは高校の生物の教科書をごらんださい。また、質問コーナーの回答の中に関連するテーマが取り上げられていますので参照して下さい。(登録番号0467,登録番号0562,登録番号0750,登録番号1065)
他方、気温の変化が要因の場合は、花芽形成のために一定の低温期間の経験を必要とするものです。一般にバーナリゼーション(春化処理)と呼ばれています。低温刺激を感知する器官は葉ではなく、種子胚とか芽生えの茎頂などの分裂組織です。多くの秋播きの植物がこのタイプを示します。低温刺激には0〜5℃で1〜3か月必要とします。しかし、宿根草や球根の場合は大体初夏から秋に翌年に咲く花芽の形成を終わっています。これらの植物では、形成された花芽が冬の低温刺激で成熟し、春になって気温が上昇すると、開花します。低温刺激については質問コーナーの他の回答も参考にして下さい。(0170, 0988)
以上述べたことは高校の生物の教科書程度の一般論です。実際にはもっと複雑で、それぞれの植物の花芽形成と開花の調節は日照時間にしても温度にしてもまちまちで、両方の要因が絡んでいる場合も少なくありません。ところでヒガンバナですが、私はこの植物の花芽形成に関する文献を知りませんので、ちゃんとした回答はできません。チューリップの場合は20℃位で花芽が分化し、8〜9℃が10週ぐらい続く間に、花芽が完成するようです。ヒガンバナはおそらく春〜夏の気温が高い時に花芽が形成され、秋になってある程度気温低下がおきると、花茎がのびて開花するのではないかとおもいます。どなたかヒガンバナの開花について専門的な研究をされている方が見つかりましたら、教えてもらうことにします。


三宅様

先日ヒガンバナの開花について回答をおくりましたが、その後ヒガンバナ科の植物について専門に研究なさっている、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科の森源治郎先生にくわしく回答を作成していただきましたので、あらためておくります。

回答:
 『 彼岸花はどうやって季節を知るのですか?』について私の考えを述べさせて頂きます。
1.ヒガンバナは普通9月中・下旬に開花し、開花後に葉を地上に展開させ、翌年の5月中・下旬に葉が枯死し、夏を越します。一方、球根内での花芽の分化・発達についてみますと、花芽分化は葉が生育中の4月下旬に始まります。葉が枯れた後の6月中旬に雌ずい形成期、8月下旬に花粉形成期と発達して、9月中・旬に開花します。
2.冬期、最低20℃程度の加温室で栽培すると夏にも葉を展開させて常緑性になります。しかし、このような条件下では、花芽は分化しません。このことから、ヒガンバナの花芽分化には低温遭遇を必要とし、低温はバーナリゼーションとして作用しているようです。
3.花芽分化および雌ずい形成までの発育適温は25〜30℃付近にありますが、分化・発育の可能な温度範囲は10〜30℃で広いことから、自然条件下では温度が上昇に向かう4月下旬から花芽分化が始まるようです。
4.雌ずい形成期に達すると、それまでの発育を促した高温(25〜30℃)ではかかえって発育が抑制され、適温は20℃付近に低下します。自然環境下での開花が9月中・下旬になることや関東での開花が関西より10日ほど早くなるのは、この発育適温の低下によるものといえます。
5.以上のように、ヒガンバナは温度(特に地温)を感じて花芽の分化および発達が進行しているようです。また、花芽分化に対して低温はバーナリゼーションとして作用しているようです。

森 源治郎(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2006-11-22