一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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デンプンの蓄積

質問者:   公務員   takut91
登録番号1096   登録日:2006-11-01
カンキツの病害を研究していますが、ある病害に感染すると感染葉内にデンプン粒が異常に蓄積することが知られており、品種に関係なく健全より約6倍量ほど蓄積します。病原菌は師管部に局在する培養できない細菌で、菌による師管のつまりで異常蓄積すると言われていますが、根拠を示した論文はありません。病気の感染によって、どうしてデンプンが異常蓄積するのか?考えられる要因やヒントがあれば教えて下さい。また師管部の「つまり」をうまく数値化する方法はあるのでしょうか?よろしくお願いします。
taku91さま

 葉の光合成速度(二酸化炭素固定速度)は、快晴の日であれば、日の出と共に増加し正午近くになると減少し、午後、再び回復するパターンをとる日変化をすることが示されています。正午近くの減少は光合成の“昼寝”現象とよばれ、これには多くの原因がありますがその一つは葉緑体にデンプンがたくさん貯まり、それ以上、光合成産物を貯めこめない状態になるためです。昼間でも葉緑体の光合成産物の一部は原形質にトリオース・リン酸として移動し、ショ糖が合成され、師菅を通って他の器官に転流しますが、午前中は光合成量が転流する量より多くなるため光合成産物をデンプンとして葉緑体に貯えます。葉緑体がATPを消費して光合成産物をデンプンにしているのは糖の形で貯えると葉緑体の浸透圧が高くなり過ぎるためで、このように葉緑体は浸透圧を高めないで光合成産物を貯えることができます。葉緑体にデンプンが貯えられているのは電子顕微鏡観察で見られていますが、それでも葉緑体にデンプンを貯える量には限界があり、これが光合成の“昼寝”現象の一因と考えられています。“昼寝”の間に、葉緑体のデンプンがトリオース・リン酸となって葉緑体から原形質に移動しここでショ糖に合成されて師菅を経て転流し、葉緑体のデンプンが減少すると、再び光合成速度が増加します。そして、夕方、暗くなると光合成が停止し、夜間に葉緑体のデンプンがすべてショ糖のかたちになり、新しい枝や葉、根(シンク)に転流し、翌日の朝には葉緑体にデンプンがない状態となります。葉の組織には、普通、ジャガイモ塊茎に見られるデンプンを含むアミロプラストは存在しないため、葉のデンプンは葉緑体のデンプンと見なすことができます。

研究されておられる病原菌が師菅に局在、異状蓄積して師菅につまり、師菅を通じて進行する根や新芽、果実などシンクへのショ糖の転流が物理的に抑えられているとすれば、光合成産物の生産量が転流量よりも多くなりデンプンは葉緑体に蓄積しやすくなります。葉緑体のデンプン含量は上のような日変化をするために、この病原菌に感染した葉と、感染していない健全葉との差は、昼間よりも日没後、暗条件下になると大きくなると予想されます。従って、日没後(または、正午以降)、葉のデンプン含量の減少速度を健全葉と感染葉で比較するのが最も妥当な評価法になると考えられます。病原菌が師菅につまっているのも一つの可能性ですが、この病原菌が原形質でトリオース・リン酸からショ糖を合成する酵素系を阻害する化合物を分泌しショ糖合成ができない場合も同様な結果を与えると思われます。葉緑体の光合成素速度は、葉緑体でのデンプン蓄積能、原形質でのショ糖合成能、師菅での移動速度、光合成産物を受け入れる器官の大きさ(シンク容量)が充分でない場合、低下します。この病原菌に感染したカンキツ葉の光合成速度、成長速度が低下するかどうかもこの病原菌の作用機構を考える上で重要と思われます。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-11-08
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