質問者:
教員
畦 浩二
登録番号1099
登録日:2006-11-03
黄葉と紅葉についてお聞きしたいことが、2つあります。みんなのひろば
クリサンテミンの生合成経路と黄葉から紅葉への変化
その一つは、
紅葉の赤色色素のクリサンテミンの生合成経路です。
1989年に発刊された 絵とき 植物生理学入門(増田芳雄編 井田和子・山本良一著;オーム社発行)には、紅葉の赤色色素のクリサンテミンは、アミノ酸や糖から生成される(p.54)と書かれています。この経路は、現在どの程度(関係する酵素を含めて)分かっているのでしょうか。
その二つは、
黄葉から紅葉に変化するしくみです。
ソメイヨシノの紅葉を観察していますと、黄葉から紅葉に変化する葉(特に日当たりのよい葉)もよく目にします。その際、キサントフィル類が、クリサンテミンの生合成にどのように関係(分解して材料になるとか)しているのですか。
過去の黄葉と紅葉の質問は検索し、拝読致しました。宜しくお願い致します。
畦 浩二 様
日本植物生理学会”みんなのひろば”に質問をお寄せ下さりありがとうございました。ご質問には、熊本大学で植物色素について研究されている吉玉国二郎先生が答えて下さいましたので、ご参考にして下さい。確かに、ソメイヨシノの紅葉は、鮮やかと言うよりは複雑に推移し、時には黄葉も見られるようですね。クロロフィル、カロテノイド、アントシアニンの3種の色素の消長における因果関係の解明が課題だと思います。
一つ目の質問について:
紅葉の赤色色素はそのほとんどがアントシアン色素のクリサンテミン(シアニジン3グルコシド)という色素です。その名称はキクの学名から由来しています。アントシアンは植物色素の中ではフラボノイドというグループに属します。
アントシアンの生合成はこれまで詳細に研究され、合成経路の中間物質や各段階に関与する酵素のほとんどが明らかにされています。アントシアン合成の出発物質はアミノ酸(フェニルアラニン)由来のパラクマリルCoAと有機酸のマロニルCoAです。前者1分子と後者の3分子が縮合してカルコンという物質が生成されるところからフラボノイド(アントシアンも含む)の生成が始まります。このステップに関与する酵素であるカルコン合成酵素がアントシアン生成の最初の制御酵素であることが知られています。以降の諸段階を経てアンシアンは生成されるのですが、最終段階の酵素は10年くらい前に明らかにされました。各酵素タンパク質のアミノ酸配列をコードしている遺伝子もほとんど全てが単離されています。また、最近ではこれらの遺伝子の発現制御機構に研究がシフトしてきています。
昨年、サントリー株式会社がより青いバラの作出に成功しましたが、これも皆色素の生合成経路に寄与した基礎研究の積み重ねがあったからこそ可能になったものです。アントシアンの研究は我が国の研究者が世界をリードしてきています。
一方、アントシアン生成に関する植物の諸現象に関して不明な点も数多くあります。その一つが紅葉現象です。植物が紅葉時(葉の老化時)になぜ、エネルギーを使ってまで、最後にアントシアンを生成するのかについてはまだなにもわかっていません。私達も紅葉現象の生理的意義について研究しているのですが、その回答は得られていません。
今後も是非生徒さんに、植物をも含めた自然界のすばらしさについてお教えいただければ幸いです。
二つ目の質問について:
アントシアンとカロテノイド(キサントフイルも含む)の生合成経路の相互関係については、まだあまりはっきりしていません。アントシアンの生成には細胞質と液胞が関係していますが、カロテノイドは葉緑体で行われます。カロテノイドが分解してアントシアン生合成の素材になることはないと思います。アントシアンとカロテノイドの生合成経路は相当違うのです。先生が指摘されているような現象は定量的に調べてみると面白いかもしれません。
吉玉 国二郎(熊本大学大学院・自然科学研究科)
日本植物生理学会”みんなのひろば”に質問をお寄せ下さりありがとうございました。ご質問には、熊本大学で植物色素について研究されている吉玉国二郎先生が答えて下さいましたので、ご参考にして下さい。確かに、ソメイヨシノの紅葉は、鮮やかと言うよりは複雑に推移し、時には黄葉も見られるようですね。クロロフィル、カロテノイド、アントシアニンの3種の色素の消長における因果関係の解明が課題だと思います。
一つ目の質問について:
紅葉の赤色色素はそのほとんどがアントシアン色素のクリサンテミン(シアニジン3グルコシド)という色素です。その名称はキクの学名から由来しています。アントシアンは植物色素の中ではフラボノイドというグループに属します。
アントシアンの生合成はこれまで詳細に研究され、合成経路の中間物質や各段階に関与する酵素のほとんどが明らかにされています。アントシアン合成の出発物質はアミノ酸(フェニルアラニン)由来のパラクマリルCoAと有機酸のマロニルCoAです。前者1分子と後者の3分子が縮合してカルコンという物質が生成されるところからフラボノイド(アントシアンも含む)の生成が始まります。このステップに関与する酵素であるカルコン合成酵素がアントシアン生成の最初の制御酵素であることが知られています。以降の諸段階を経てアンシアンは生成されるのですが、最終段階の酵素は10年くらい前に明らかにされました。各酵素タンパク質のアミノ酸配列をコードしている遺伝子もほとんど全てが単離されています。また、最近ではこれらの遺伝子の発現制御機構に研究がシフトしてきています。
昨年、サントリー株式会社がより青いバラの作出に成功しましたが、これも皆色素の生合成経路に寄与した基礎研究の積み重ねがあったからこそ可能になったものです。アントシアンの研究は我が国の研究者が世界をリードしてきています。
一方、アントシアン生成に関する植物の諸現象に関して不明な点も数多くあります。その一つが紅葉現象です。植物が紅葉時(葉の老化時)になぜ、エネルギーを使ってまで、最後にアントシアンを生成するのかについてはまだなにもわかっていません。私達も紅葉現象の生理的意義について研究しているのですが、その回答は得られていません。
今後も是非生徒さんに、植物をも含めた自然界のすばらしさについてお教えいただければ幸いです。
二つ目の質問について:
アントシアンとカロテノイド(キサントフイルも含む)の生合成経路の相互関係については、まだあまりはっきりしていません。アントシアンの生成には細胞質と液胞が関係していますが、カロテノイドは葉緑体で行われます。カロテノイドが分解してアントシアン生合成の素材になることはないと思います。アントシアンとカロテノイドの生合成経路は相当違うのです。先生が指摘されているような現象は定量的に調べてみると面白いかもしれません。
吉玉 国二郎(熊本大学大学院・自然科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2006-11-08
佐藤 公行
回答日:2006-11-08